昼職と夜職の大きな違いは、昼職は「月給」が基本であり夜職は「日給」が基本であることだ。また昼職は有休なども整備されていて、一定時間働けば賃金が保障される「固定給」なのだが、夜職の多くは「歩合給」である。固定給と歩合給を組み合わせたものや、本人が月給か日給かを選択できる形態のものがあるのだが、基本的に夜職は「日給、歩合制」が普通だ。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)
「一日働いたら1万円稼げる」
2014年7月に大阪をうろうろしていた時、環状線が人身事故で止まって一時間以上も動かなくなったので、私は「新今宮」という駅で下車した。
その新今宮を降りたら、目の前が「あいりん労働公共職業安定所」であり、そこが西日本屈指の「ドヤ街」であることに気が付いた。(ブラックアジア:大阪。あいりん地区と、飛田新地に寄ったので歩いてみた)
ここを、ふらふら歩いて私はこの街が非常に気に入って、以来、大阪に寄るたびに必ずこの「あいりん地区」を歩いたり泊まったりしている。2019年は6月に大阪に寄った時に、やはりここをうろうろしていた。
すでにこの地区の顔であった「あいりん総合センター」は閉鎖されていたのだが、そのまわりは相変わらず労働者が取り囲むようにして寝泊まりしており、手配師もそこで日雇い労働者の一本釣りをしている。
私も「仕事探してるんか?」と声をかけられて日雇い労働の勧誘を受けた。「一日働いたら1万円稼げる」と手配師が私に説明した。当然のことだが、日雇いの肉体労働は日給だ。働いたら、その日のうちに現金が手に入る。
そんな説明を聞きながら、私はこの街をうろついて今やすっかり私の馴染みの店になった「まんぷく」で定食にがっつきながら食べて、「そう言えば風俗の女たちも、みんな日給だな」と考えていた。
風俗は女性の肉体労働だ。表から裏になればなるほど、そして上流から下流になればなるほど賃金は「月給」ではなく「日給」になっていく。世の中のどん底の仕事は、だいたいが日給である。
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年俸制、月給制、そして日給制
風俗の女たちは表の仕事を「昼職」、夜の仕事を「夜職」と呼ぶ。風俗の仕事は24時間営業だが、彼女たちのカテゴリーから言えばもちろん「夜職」である。
昼職と夜職の大きな違いは、昼職は「月給」が基本であり夜職は「日給」が基本であることだ。また昼職は有休なども整備されていて、一定時間働けば賃金が保障される「固定給」なのだが、夜職の多くは「歩合給」である。
固定給と歩合給を組み合わせたものや、本人が月給か日給かを選択できる形態のものがあるのだが、基本的に夜職は「日給、歩合制」が普通だ。
ところで、一般の勤め人にはあまり馴染みのないものに「年俸制」という賃金の支払い方もある。外資系の会社の役員や経営者やエリート社員、あるいはスポーツ選手などは「年俸制」のことが多い。
年俸制、月給、日給……。
一般的に言えば、社会的な立場が強い側であればあるほど年俸制に近づき、社会的な立場が弱い側であればあるほど日給に近づく。
会社から見ると、個人の能力や才能を最大限に発揮して長く会社に留まって欲しい人を年俸制として雇う。逆に、いくらでも代替がきく仕事に就いている場合や、長く働いてもらえない環境にある場合や、期間が限定されている季節労働などの場合は日給で雇う。
日給というのは、会社も本人も「その仕事を長く続けない」ことを前提として組み立てられた給与体系なのである。
さらに、夜の世界は雇用も企業の存続も浮き草のように不安定である。会社は「いつ飛ばれるか分からない」という疑いを個人に持ち、個人も「いつ会社が潰れるか分からない」という不安を持っている。
だから、「働いた分だけしか払わない」という会社と「働いた分だけもらう」という個人の利害が一致し、それが「完全歩合制」という給与形態になる。
いつ働いている人が飛ぶか分からない仕事、いつ給料が払えなくなるのか分からない会社であればあるほど完全歩合制の日給で払いたがる。
逆に、自分がいつ辞めるか分からない仕事、いつ潰れるか分からない会社で働く場合は、完全歩合制の日給が最も合理的な働き方だ。
社会の底辺になればなるほど、そして浮沈の激しすぎる真夜中の世界であればあるほど完全歩合制の日給になっていくのは、そのような理由がある。
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人は常に一定の能力で働けない
ところで、完全歩合制の日給は真夜中の世界で働く人間に最適化されたシステムであるのは間違いないのだが、この完全歩合制の日給には、働く側にとって大きなデメリットがある。
それは「働かないと1円も稼げない」ということだ。
年俸制や固定給の月給で働いている人たちは、たとえ風邪や事故で一週間くらい働けなくても、固定賃金の部分で収入の激減をカバーすることができる。
年俸制の場合は、年間の給料が保証されているのでブランクがあっても何の問題もない。月給の場合も3日や4日の休みくらいは、ほぼ賃金に影響がないようになっている。
しかし完全歩合制の日給は、そうではない。
その日働けなければ入ってくる金はゼロだ。3日休めば3日分ゼロだ。一週間も休めば収入は激減する上に、会社からも「もう来なくていい」と見捨てられる可能性もある。
夜の人間たちの収入が月によって増減し、日によって増減するのは、まさに「働いていない分はゼロ」というシビアな現実がそこにあるからである。
では、人は頑強な機械のように常に一定の能力で働くことは可能なのだろうか。常識的に考えると、それは不可能だ。人の体調は日によって変化するし、時には病気もするし怪我もする。精神的に不調になったりすることも珍しくない。
その振幅は人によってまったく違うが、どんな頑強で強い精神力を持った人であっても、病気もすれば怪我もすれば精神的に落ち込む日が必ずある。
さらに、自分がいかに体調管理に気を付けていたとしても、仕事自体が景気や天候に左右されることも多い。
「大工殺すにゃ刃物は入らぬ。雨の三日も降ればよい」というが、雨が降ったら大工仕事は中止になり、完全歩合制の日給で働いている大工は1円も稼げない。
風俗なども意外に天候に左右される職種だ。雨が降ったら客が来なくて風俗嬢はまったく客が付かないことも多い。客が付かなければ収入はゼロである。
雨が降って喜ぶのは日給で雇われているタクシーの運転手だが、それでも都合良く雨が降るわけではなく、タクシーの運転手もまた仕事を転々とする。
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休まなければ身体を壊すが、休んだら生活に窮する
人は誰でも体調を崩す。ちょっとした風邪にかかることもあれば、疲労感が抜けない日もある。どんなに厳密な体調管理をしていてもそれは避けられないことであり、それが軽く済むか重症化するかも運によるところが大きい。
寒くなれば誰でも風邪をひく。風邪を抑える薬はあるが、風邪を治す薬はない。だから、風邪をひいたら症状が去るまで大人しく寝ているしかない。そこで無理すると症状はより悪化して自滅する。
しかし、仮にもし貯金が充分でなければどうなるのか。休むのが一番だと分かっていても、生活のために休むことができない状況に追い込まれる。休まなければ身体を壊すが、休んだら生活に窮してしまう。
真夜中の世界では、そのギリギリのところで働いている人たちも多く、だから夜の女たちは生き急いで自滅するドッグ・イヤーのパターンになる。
最近、日本の風俗業界では梅毒が爆発的に流行しており、日本各地の風俗街のすべてで梅毒感染の風俗嬢が報告されている。風俗が外国人を受け入れるようになっているので危険度は凄まじく増している。(ブラックアジア:日本の女たちは性病まみれになっていくのか?)
梅毒はきちんと治療したら治る病気だ。だから、表社会ではエイズと違ってあまり深刻に受け止められていないように見える。しかし、現場の風俗嬢の恐怖は相当なものがある。
もし梅毒にかかったら、風俗嬢は完治するまで仕事を休まなければならないのだが、治療は1ヶ月から2ヶ月かかることも多い。治療が遅れた女性の場合だと、半年も働けなかったりする。それは、半年も収入がゼロになることを意味している。
固定給で働いている昼職の人間でも、半年も仕事を休んだら甚大な影響がある。
そう考えると、日給で完全歩合制なのにしばしば仕事ができない状況に追いやられる夜の女性たちの深刻さは、相当なものがあると分かるはずだ。今は順調でも、一瞬で生活が崩壊してしまう可能性があるのが夜の世界なのである。
そして、それこそが「日給」の世界の光景である。
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誰かの何かの役に立てればと。
私の知っている友人の勤務する会社は一部上場会社で、月給日が5日でした。
月給にも日給月給と月給があり、前者は日給をまとめて月に一度払うので就職した月の給料日25日には25日分しか払われず、満額貰えるのは翌月からでした。友人の勤務する会社は完全月給制だったので、就職した月の5日に丸々1か月分の給料が出るのです。
4日目と5日目が土日の場合繰り上がって3日に給料が満額出るので、就職して3日目に貰った給料を親に見せると親が「そんな馬鹿な」と言って信じてくれなかったと言う笑い話があります。それだけで無くボーナスが年に4回有ったそうですが、さすがに世間体を気にして年に3回になり1回分は12分割して月給に潜り込ませていました。就職試験は面接だけでほとんどが縁故採用と言う会社でしたが、今は合併されてなくなりました。
私が最初に就職した会社は当時売り出し中の一部上場会社でしたが、人事の不満で10月に退職したことがありました。その時先輩が「9月まで会社で働いていたら、辞めても12月のボーナスは貰えるから。」と教えてくれたので半信半疑でしたが、12月のボーナス日に会社に行って請求すると本当に在社していた時と同じ額が貰えました。
世間ではボーナスは賃金の後払いだと言いますが、私の居た会社ではそれを実行していた訳で、就職浪人中だった私にはまとまったお金はありがたく労働組合に感謝したものです。退職金も全部一時金で貰ってその会社とは完全に縁が切れたと思っていたのですが、60歳になった時年金の3階部分が終身企業年金として給付があった時驚きました。
額は長期間務めなかったのでたいした事は無く小使い程度ですが、毎年2回振り込まれるので改めて良い会社だったと思いました。
掛け持ちのフリーターだったころを思い出しました。歩合給ではなく普通の時給制だったので、雨が降ってお客さんがこなくて…というのはあまりなかったですが(早上がりにさせられることはたまにありましたが)、1月、2月、5月、8月、12月は恐怖の月でした。掛け持ちだったのでなんとかなりましたが、休日祝日が多い、月が短い→働ける日が少ない→給料が少ない→でも家賃や保険料は一緒→お金が足りない、という具合です。
今も非正規ですが、月給で働いています。月給制のありがたみを実感しています。