タイ・バンコクの「アラブ人街」という異郷。私がこの街が好きな理由とは?

タイ・バンコクの「アラブ人街」という異郷。私がこの街が好きな理由とは?

タイ・バンコクには「アラブ人街」という異郷がある。バンコクであってバンコクではない。私がこの街が好きで、バンコクに宿を取ることがあれば最優先でこのアラブ人街のどこかを検討することにしている。この街は、年々濃くなっていくばかりだ。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。

私が好きな街、バンコク・アラブ人街

バンコクのスクンビット通りのソイ3と3/1の界隈は私が最も好きなブロックだ。他に何か理由でもない限り、私がバンコクで宿を取るとしたら、いつもこの界隈にしている。

ここは通称「アラブ人街」と呼ばれているのだが、ここ最近はよりアラブ人街としての性格が強くなっていて、看板も大部分がアラビア語になっている。部外者には何が書いているのかまったく分からない状況だ。

ここで屋台を出しているタイ人も、よく見ればイスラムを信奉しているタイ女性が多いというのは、彼女たちが頭にスカーフをかぶっているのを見るとすぐに理解できる。あまり知られていないが、タイ南部はイスラムを信奉するタイ女性が多い。

なぜ、私がこのアラブ人街が好きなのかというと、別に私自身がイスラム教を信奉しているとか、アラブ文化が好きだからというわけではない。私の無神論者としての生き方とイスラム教の唯一絶対の一神論はまったく相容れないものだ。

にも関わらず、私がバンコクのアラブ人「街」が好きなのは、ここにいると日本人の観光客に会わずに済む上に、食事がうまいし、タイにいるのに中東にいるような異国情緒まで味わえるからだ。

この狭いブロックは中東の人間たちでごった返しており、アラビア語が飛び交い、中東の音楽がかかり、中東の料理やスイーツが食べられ、しかもエキゾチックな中東の女たちを存分に鑑賞できるのだから、やめられない。

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タイ・バンコクのアラブ人街

ケバブではない。シャワルマだ

日本でも「ケバブ」が大人気だが、私もマクドナルドかケバブ店かという選択肢があったらケバブの方を選ぶ。渋谷や六本木ではケバブの店をやたらと見かけるので、たまに食べている。

日本でこれだけケバブの店が増えているのは中東系の人が増えたからだと思ったのだが、実際のところはそうではなくて、名古屋のフランチャイズ店『メガケバブ』が成功したからだというのが真相のようだ。

しかし、バンコクのアラブ人街で食べられるケバブは、本当に中東系の男たちがやっていて、より本場に近い雰囲気で食べられる。

ところで、つい先日まで私はこの「ケバブ」は、それが正式な料理名だと思っていたのだが、実はそうでないということを知った。アラブ人街のケバブ屋のメニューを眺めていて気が付いたのだが、どこにもケバブとは書いていないのである。

代わりに、「シャワルマ(SHAWARMA)」と書かれている。

不思議に思って、私は作ってもらったケバブを指さして「これはケバブなのか?」と聞いてみると「シャワルマだ」と店員の男が言った。

「ケバブではない?」
「ノー(違う)。シャワルマ」

中東と言っても広いので、「それぞれの国や地域によって言い方が違うのか」と私は興味深く思って、ホテルで「ケバブ」と「シャワルマ」を調べてみた。その結果、「ケバブ」を「ケバブ」と呼ぶのは別に間違いではないのだが、正しいかというとそうでもないということが分かった。

ケバブというのは結構、様々な調理スタイルを指す言葉で、私たち日本人が「ケバブ」と言っているのはケバブという料理の一形態で「ドネルケバブ」と呼ぶのが本来の言い方だと書かれていた。

「ドネル(回転)」させる「ケバブ」で、ドネルケバブになる。トルコから来た言葉である。

このドネルケバブが中東全域では一般的に「シャワルマ」もしくは「シュワルマ」と呼ばれていて、ギリシャでは「ギロピタ」、ドイツでは「デーナー」という言い方になっている。

当たり前だが、炭水化物は「うまい」

バンコクのアラブ人街では「シャワルマ(ケバブ)」以外にも、レストランに入ればアラブ料理を好きなだけ食べることができる。しかし、私はアラブ人街のアラブ料理店には、ほとんど入らない。

嫌いだからではない。アラブ料理は以外に野菜が大量に使われていて私は苦手なものが多いのだが、それでもサフランで色付けされたビリヤニに肉が混ぜられた料理や、トマトで煮込まれた肉料理などがあって、それぞれが本当にうまい。

しかし、あまりにも量が多すぎて食べられない。「一人分でいい」と言っても、その一人分が多い。フライドライス(チャーハン)など頼もうものなら、信じられないほどの大盛りがやってきて絶句する。

日本人は「糖質制限ダイエット」だとか「炭水化物抜き」だとか、そんなものが流行っているのだが、インド・アラブ圏は誰も炭水化物の量など気にしないし、炭水化物抜きなど几帳面にやる人間などいないはずだ。

彼らは思いきり炭水化物を食べており、それで人生を謳歌している。

「パン」という調理は神から授かったものであり、それを大切にするという思想があまねく根付いている中東圏で「炭水化物を食べない」と言ったら、憐れみの目で見られるだろう。

それに、当たり前だが炭水化物は「うまい」のである。

日本人は先進国でカネだけは他の民族に比べるとそれなりにある方なのだが、それでもまったく幸せを感じていないのは、滅私奉公で私生活を犠牲にするだけでなく、食事も制限し、セックスも制限して、他にも何でも我慢してしまうからだと私は心の底で思っている。

食べたいものも食べず、「健康だ、見栄えだ」と言って「糖質制限ダイエット」だとか「炭水化物抜き」だとか言っているのだが、いかにも「楽しまない」日本人の気質がそこにあって興味深い。

もちろん、やりたい人は何をしても自由だが、私は炭水化物抜きなど絶対にしたくないし、そこまでして長生きしたいとも思わない。中東の人間の寿命は長くないが、私もそうだろうと苦笑しながら、炭水化物を思い切り食べる。

しかし、それでもアラブ人たちから見たら、私は「食べていない」ように見えるかもしれない。それほど、彼らの食べ方は豪快だ。女性すらも私よりも食べる。「うまい」炭水化物を思い切り食べている。

本当はどうなのか分からないが、日本人女性よりも彼女たちの方が幸せなのかもしれないと思う瞬間だ。

看板をよく見ると、「SHAWARMA(シャワルマ)」と書かれている。日本人の言うケバブと同じだが「シャワルマ」なのである。ちなみに豚肉シャワルマはない。

イスラム教徒が一箇所に集まる理由

このバンコクのアラブ人街が興味深いと思う点は「アラブ人街」という名がありながら、実はそれが正確ではなくて実際にはアラブ人以外にも多くの人種で混成されていて街が成り立っているということだ。

黒人も多い。バンコクはどちらを向いても白人(ファラン)がいる。黒人はそれほど多くない。いないわけではないのだが、ファランの圧倒的な人数に比べると、あまり見かけないと言ってもいい。

しかし、バンコクのアラブ人街では、あちこちに黒人を見かけるのである。

この黒人たちもまたイスラム教徒であり、イスラムであるがゆえにアラブ人街に落ち着いている。

イスラム教徒がアラブ人街に大量に集まるのは、「同じ宗教の人間がいるから安心できる」という理由以外にも実は、もうひとつ切実な理由があると聞いた。それもまた「食事」だった。

このアラブ人街にもタイ料理店がある。しかし、このブロックの大部分を占めているアラブ人は、このタイ料理店にはひとりもいない。「ただのひとり」も見ない。

なぜか。タイ料理は「ハラール」ではないからだ。最近、日本でも彼らが「食べることが許されないものがある」と知られるようになっている。様々な細かい決まりがあるのだが、最も有名なのが「豚肉」が食べられないというものだ。

豚肉だけでなく、豚肉を原料にした調味料も食べられない。だから、豚肉を普通に食べる他の国の料理をイスラム教徒は食べられないのである。イスラム教徒が安心して食べられる料理は「ハラール」を謳っている料理店だけだ。

そうした料理店はどこにもあるわけではない。だから、結果的にハラールを順守しているレストランがあるところにイスラム教徒が集まるということになる。

アラブ人街はかくして濃度が濃くなっていくばかりであり、最近はアラブ人女性の趣味を徹底的に研究した店もまたこのバンコクのアラブ人街にできていて、ド派手な小物を見ているイスラム系の女性を見ているだけで飽きない。(written by 鈴木傾城)

バンコクのアラブ人街が興味深いと思う点は「アラブ人街」という名がありながら、実はそれが正確ではなくて実際にはアラブ人以外にも多くの人種で混成されていて街が成り立っているということだ。

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