スラムを撤去しても、貧困問題が解決しない限りインドには未来がない

スラムを撤去しても、貧困問題が解決しない限りインドには未来がない

インドの商業都市ムンバイは、都市中心部を取り囲むように広大なスラムが林立していることで有名だ。

そのスラムは「ダラピ」と呼ばれているのだが、そこは一度入ったらどうやって抜けたらいいのか分からなくなるようなスラムである。

インドは中間層が増えてきて、ショッピングモールで家族で買い物をするような層が増えているのだが、その陰で数十年前と何一つ変わらず極貧の中にあって、スラムで呻吟している家族も膨大に存在する。

最近、商業都市ムンバイを擁するマハラシュトラ州政府は、この広大なスラムを排除することを目的として、低価格住宅を新たに建設する計画を発表している。

「ムンバイ首都圏で100万戸余り、それ以外の地域で約50万戸の供給を目指す」

スラムの劣悪なバラック小屋に住む住民たちを、この低価格住宅に移設させて、生活を向上させるのが目的でもある。ただし、スラムの住民は600万人以上いるわけで、100万戸や200万戸で問題が解決するわけではない。

そして重要なのは、インドは6億人以上もの絶対貧困の層が存在していて、貧困を何とか解決しない限り、スラムを叩き潰しても、すぐに新たなスラムが生まれるのは必至だということだ。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。

基礎教育がない層も多いので、より深刻なインド

インドの貧困層の多くは地方で農業の職に就いている層である。彼らもテレビを持っているので、大都会の人々が豊かになり、自分たちが取り残されているというのは知っている。

そして、自分たちが「中央から見捨てられている」という怒りも感じている。それが、常にインドの政治的混乱を深める要因となっている。根深い貧困は常にインドを揺るがす。

誰もが農業では豊かになれないのを知っている。社会が複雑化して高度情報化の時代に突入しているのであれば、豊かになるために高度な知識が必要になる。

ここが問題なのだ。農村に生きる人たちを右から左に高度情報化の世界に放り込んでも、いきなりそこで生きていけるようにはならない。

高度情報化の社会では、それ相応の教育や知識が必要になるのである。

日本でも、IT化がオフィス環境を激変させていく中で、中高年が取り残されたことを見ても分かるはずだ。パソコンを使うこともできず、メールを打つこともできない中高年は、真っ先にリストラの対象になって淘汰された。

リストラされたら、次の仕事を探す必要がある。しかし、最先端のIT技術を理解する能力が備わっていないので、とても不利な立場である。

キーボードを操るという基礎的な部分からうまくいかない。知識もないので、用語も理解できない。興味もないので、調べることすらもできない。

そうなると、ITが必須の現代社会では、必然的に低賃金の労働に従事せざるを得ない。つまり、彼らは時代に取り残されてしまったのである。

インドは基礎教育がない層も多いので、より深刻だ。農村の人たちを豊かにしようとして高度情報化の世界に放り込んでも、適合できないのである。知識がおぼつかず、技術が身につかず、社会のスピードにも馴染めず、結局は脱落してしまう。

鬱屈した不満とやり場のない怒りはそうやって生まれる

インドに限らず、農村部では家庭の貧困から教育がおざなりになり、子供たちは最先端技術に触れる機会が失われる。

そうなると、結局、高い専門知識と技術が必要になる仕事には最初から就くことができず、低賃金の単純労働の仕事しか回ってこない。

そして「取り残された」という絶望や哀しみの中で、社会の陰で生きることになる。鬱屈した不満とやり場のない怒りはそうやって生まれる。

今後はインターネットが社会の主戦場になることは誰もが知っている。

ネットワークの知識、OSの知識、プログラミングの知識、そしてサービスを使いこなす知識、新しい動きが出てきたらそれを柔軟に取り入れる知識……。

こういった最先端を苦もなく取り入れることができる人がいるが、その一方で、完全に取り残されてしまう人たちも膨大に存在する。

それが、賃金格差に結びついていき、やがては巨大な貧富の差を生み出してしまう。

今は、高度情報化に馴染める人の方が有利である。それは誰でも分かっている。分かっているが、馴染める人と馴染めない人がいるのは事実だ。

ネットワークが最先端だから、では明日から最先端で仕事をするというような単純な話にはならない。

特に長い人生を農業で生きてきて、土と格闘してきたような人が、明日から土いじりの代わりにログ管理ができるのかと言えば現実的に難しいと言わざるを得ない。

いくら最先端の分野で人員が足りなくなっても、農村で仕事にあぶれている人では使い物にならない。求めているスキルが違いすぎて、話にならないのである。

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その分断が大きな社会不安を引き起こすことになる

インドのような極度の格差社会は、農村の貧困を放置して都市部の工業化や情報化を促進することで発展してきた。しかし、農村の貧困を放置していてはそれ以上の発展は望めない。

国がさらに発展していくためには、どうしても農村部の取り残された人たちを、何らかの形で高度情報化社会に馴染む人間に仕立て上げなければならない。

それをするためには地方も都市化していき、農業を機械化によって効率化して、あまった人々を農業から引き離さなければならない。

しかし、それが簡単にいかないから貧富の差は広がっていくばかりになり、やがてその分断が大きな社会不安を引き起こすことになる。

インドはまさに、そんな分断に飲まれて苦しんでいる。取り残された人々が、「自分たちは一生豊かになれない」と感じて絶望している。

インド政府は、取り残された人をどうやって救済するのかという確かな答えを持っていない。

低価格住宅を作ってスラムを撤去し、貧困をなかったことにしようとしても無駄だ。約6億人もの貧困層を放置している限り、スラムはいくらでも新しく生まれるし、貧困層はいつでも爆発する。

今のところインド政府は外国から投資資金を呼び込んでインド全体を底上げすることで貧困を少しでも減らそうと努力しているのだが、このやり方ではまだまだ時間がかかる。

あまりにも時間がかかりすぎると、貧困層は我慢の限界を感じて騒乱を起こすのは目に見えている。いつ、何がきっかけで爆発するのか、すべての人が固唾を飲んで見守っている。(written by 鈴木傾城)

今のところインド政府は外国から投資資金を呼び込んでインド全体を底上げすることで貧困を少しでも減らそうと努力しているのだが、このやり方ではまだまだ時間がかかる。あまりにも時間がかかりすぎると、貧困層は我慢の限界を感じて騒乱を起こすのは目に見えている。いつ、何がきっかけで爆発するのか、すべての人が固唾を飲んで見守っている。

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