
現代のように先行きが読めない状況で、脳は不安の増幅装置となる。経済の急変、国際紛争、災害、感染症といった予測不能な事態は、脳の中で「危険信号」を発し続け、精神を休ませる時間を奪っていく。この特性が強い人は、やがて精神的にむしばまれていき、鬱に近い最悪の心理状態になっていく。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
ますます不安定になりつつある世界と日本
現代社会は、かつてないほど多様な要因によって不安定化している。世界経済は高インフレと金利上昇に直面し、先進国から新興国まで景気の先行きが読みづらくなっている。
特にトランプ大統領の登場により、世界の混乱が増している。恫喝関税外交に振り回され、世界中の資金の流れが大きく変動しているのは、毎日のニュースでうんざりするほど見ているはずだ。
地政学的にも緊張が高まっている。ロシア・ウクライナ戦争は長期化し、エネルギーや穀物の供給不安を恒常化させている。中東ではイスラエルと周辺国の衝突が激化し、原油価格の変動要因になっている。
さらに米中対立は半導体や重要資源の供給網に影響を与え、各国は自国優先の産業政策を強化している。これまでの秩序や協調がすべて破壊されているのだ。このような動きは世界経済の断片化を破滅的なまでに加速させる。
日本もこの不安定化の波から逃れられない。輸入価格の上昇は食品やエネルギーを中心に物価全般を押し上げ、家計負担は過去数十年でもっとも重くなっている。賃金上昇が一部で見られるものの、物価上昇分を完全に相殺するほどではなく、実質購買力は低下を続ける一方だ。
構造的な問題も深刻だ。少子高齢化が進み、労働力人口は減少を続けている。生産性の向上が進まない中で社会保障費は膨張し、もはや解決不能の段階にまで到達しつつある。
災害リスクも無視できない。世界中で、地震、台風、豪雨といった自然災害が頻発し、近年は気候変動の影響で被害の規模が増している。災害対応にかかわる財政負担は今後も増大し、復興に必要な人員や資材の確保も難しくなっていく。
こうした経済、地政学、社会構造、自然災害のリスクが複合的に絡み合うことで、日本を含め、世界はかつてない不安定な時代に突入している。そして、この不安定さが人々の心理にも大きな悪影響を及ぼすようになっている。
「不確実性に対する恐怖」が増していく
人間の脳は、未来を予測し、先手を打つことで安心を得るようにできている。生活や社会が安定している時期は、この予測機能が正確に働き、日々の行動や判断に一貫性をもたらす。
だが、現代のように先行きが読めない状況では、この機能がかえって不安の増幅装置となる。経済の急変、国際紛争、災害、感染症といった予測不能な事態は、脳の中で「危険信号」を発し続け、精神を休ませる時間を奪っていく。
脳内で特に重要な役割を果たすのが扁桃体である。扁桃体は外部からの刺激や情報を受け取り、それが危険かどうかを瞬時に判断する。この機能は本来、生命を守るための警戒システムだが、未来が不透明な時期には過敏に反応する傾向がある。
わずかな変化や不確定な情報でも、脳はそれを「危機の兆候」として認識し、心拍数の上昇や筋肉の緊張、睡眠の質低下といった身体的な反応を引き起こす。
この状態が長期間続くと、「不確実性に対する恐怖」が増していく。
これは、「結果が予測できない状況」そのものに強いストレスを感じることによって生まれる心理状態だ。この特性が強い人は、やがて精神的にむしばまれていき、何もできないような鬱に近い心理になっていく。
不安定な情勢が続くと、この心理的圧力はさらに強まる。これは単なる気の持ちようではなく、脳の学習によって形成された反応である。
不確実な未来に直面すると、人は安心の根拠を外部に求め続ける。ところが、その外部環境自体が揺らぎ続けているので、求める安心感は手に入らない。この「安心の欠如」が慢性的に続くことこそが恐怖感をより深めていくことになる。
未来に対する不安と恐怖が、知らないあいだに心理を悪化させていくのだ。
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現代の社会環境はこの心理的連鎖を増幅させる
社会が混乱し、情勢が悪化するたびに、人々の不安感は確実に深まっていく。今、まさにそれが起きている最中であると言える。
政治の混乱、経済の停滞、失業率の上昇、物価高騰、国際紛争、大規模災害などが短期間に繰り返されると、脳は不安と恐怖に疲れ果てる。心は常に危機モードに入り、冷静な状況判断が困難になる。
この心理的な不安と恐怖は、ひとつの危機が去ったあとも消えることがない。
たとえば大きな災害が収束しても、同規模の災害がすぐに来ると考え、過剰な警戒を続ける。経済が一時的に良くなったように見えても、次の危機に身構える。結果として、心理的悪影響は想定以上に長引き、自分を苦しめていく。
現代の社会環境はこの心理的連鎖を増幅させる。
社会構造そのものも、不安の悪化を後押ししている。雇用は安定を欠き、非正規雇用や短期契約が増え、将来の生活設計は立てにくくなっている。企業は長期的な雇用保障を避け、業績悪化時には即座に人員削減に踏み切る。
年金や医療などの社会保障制度も持続可能性に疑問が投げかけられ、安心感を支える基盤が揺らいでいる。
そこに、SNSやニュースサイトは、危機的な出来事を瞬時に拡散し、大きく取り上げて人々を苦しめる。アルゴリズムは、人々が感情的に反応しやすい不安をあおる情報を優先的に提示するため、利用者は否応なく危機的ニュースを繰り返し目にする。
こうした中で、不安は自らを強化する循環に入る。
この循環は一度始まると、外部環境が多少改善しても解消しにくい。むしろ、次の危機を予期し続けることで、心の中の恐怖は日常生活に常駐するようになる。この状態が長期化すれば、個人はもちろん社会全体の活力も低下し、さらなる停滞と混乱を招くことになる。
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自分で自分を守らなければならなくなっている
不安定な時代において、政府や企業、さらには家庭までもが、確実に個人を守ってくれるとは限らない。むしろ、個人は見捨てられるフェーズに入っている。
国家は災害や経済危機に対して政策を打ち出すが、その多くは後手に回る。制度の整備には時間がかかり、必要な支援が届く頃には状況が変わってしまっている。経済政策も為替や株価の急変を抑えきれず、生活の安定を保障するまでには至らない。
企業もまた、従業員の長期的な生活安定を優先するとは限らない。
業績悪化時には人員削減や非正規化を進め、福利厚生を縮小する。グローバル競争の中で企業は生き残りを最優先するため、従業員一人ひとりの生活を守ることは二の次になる。
かつての終身雇用や年功序列といった仕組みは事実上崩壊し、安定を企業に委ねることはもはや現実的ではない。
家庭という最小単位の安全網も、機能するとは限らない。
経済的な余裕を失った家族は、互いを支えきれなくなる。親の介護、子供の教育費、住宅ローンといった負担は増え続け、家族内での資金や時間の余力は急速に減っていく。結果として、家庭が経済的にも精神的にも「避難所」としての役割を果たせなくなりつつある。
このように、あらゆる外部の安全網が揺らぐ中で、最終的に自分の生活と生命を守るのは自分でしかなくなる。情報の取捨選択、収入源の確保、健康管理、危機時の行動計画……。すべて、自分で考えて先手を打っておかなければならない時代だ。
不確実な未来が恐ろしいのは、もうすでにセーフティーネットが壊れ、『自分ひとりで生き延びるしかない時代』に入っているからだ。かつては国や組織や地域の共同体が一定の安全網として機能していたが、すべて壊れた。
そのため、先行きが読めない現代では、そこはかとない恐怖が個人の内部に定着しやすくなっている。外部要因による安心が期待できないという事実こそが、人々の不安をより深く、より長く持続させ、人々の心のバランスを壊していく。
精神的にタフにならないと生きていけない時代のようだ。




コメント
私自身も安月給で、しかも精神障害者手帳3級を持っているため老後は野垂れ死にするかもしれません。
ついでに男性に嫌われるタイプなので結婚に逃げることもできませんし。
ただ、私の仕事は資格職で需要が高い職業でもあるので食いっぱぐれることはおそらくないと思いますが…。
未来の事を考えると不安でたまりません。
両親が遠くない未来に逝ってしまう事も怖いです。
躁状態の時は積極的で前向きになれますが、鬱状態に転じると何事もしんどいです。
睡眠薬を飲んで無理やり眠っています。