
タイとカンボジアの軍事的緊張は、突発的な事件の積み重ねではなく、長年にわたる歴史的対立の延長線上にある。これはウワサにしかすぎないが、タイのペートンタン首相があまりにもマヌケなので、フン・セン元首相は「勝負をかけても勝てる」と踏んだのではないかという話が流れている。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
この危機的な状況が戦争に発展する可能性がある
タイとカンボジア国境紛争が「戦争になりかねない」ほどエスカレートしている。「戦争になりかねない」というのは私が言っているのではない。
タイの暫定首相プムタム・ウェチャヤチャイが「係争中の国境沿いで2日目の衝突により死者数が16人に増える中、状況が戦争に発展する可能性がある」とはっきり言っている。
タイとカンボジアが本格的な戦争に突入すれば、両国は取り返しのつかない代償を払うことになる。
前線では地雷と砲撃が飛び交い、民間人の死傷は数千人規模に達する。貿易は麻痺し、観光業は壊滅。このままエスカレートしていくと、ASEAN全体の経済は混乱し、地域の投資信頼も崩壊するかもしれない。
全面戦争に至るのかどうかは見てみなければならないが、状況は芳しくない。
タイとカンボジアの軍事的緊張は、突発的な事件の積み重ねではなく、長年にわたる歴史的対立の延長線上にある。なかでも、両国の対立の象徴としてしばしば引き合いに出されるのが、カンボジア側にある「プレアビヒア寺院」だ。
1907年のフランス‐シャム条約によってカンボジアに帰属したとされるこの世界遺産は、1962年に国際司法裁判所(ICJ)がカンボジアの主権を認めたことで一度は決着がついたかに見えた。
しかし、周辺の丘陵地帯の帰属をめぐっては明確な線引きがなされず、係争地帯が残された。このあいまいさが、後年の軍事的衝突の伏線となっていく。
2008年、プレアビヒア寺院が世界遺産に登録された際、タイ側で反発が高まり、武力衝突が発生した過去がある。それ以来、軍事衝突と和平協議の繰り返しが続いてきた。今回の2025年に至るまでの緊張もまた、その一環である。
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なぜカンボジアはエスカレートさせているのか?
2025年2月13日、カンボジア軍がタイとの係争地域に一般市民を連れて入り、カンボジア国歌を歌うという事件が発端となった。これに対してタイの治安部隊が阻止に動き、現場での小規模な摩擦が発生した。
この行動はあからさまな挑発行為であり、カンボジア側の軍民混成による示威行動だったと断定できる。
2月17日には、タイの国防相がタ・ムエン・トム遺跡周辺での挑発的行為について公に懸念を表明した。その後も、両国は徐々に境界線付近での部隊配置や道路建設、陣地の構築といった行動を繰り返しながら、軍事的圧力を高めていった。
3月から4月にかけては、衛星画像によってカンボジア側の道路整備や前哨基地の設営が確認され、戦術的な地の利を得ようとする意図が明白だった。
5月1日には、両国の国境委員会がバンコクで会談し、一部の部隊の撤退と緊張緩和に合意したものの、5月下旬からはふたたび緊張は高まった。
5月28日にはチョンボク地域で両軍が交戦し、銃撃戦の末にカンボジア兵が死亡する事件が起きた。これは明確な交戦であり、偶発ではなく準備された行動の延長であった。
どちらか一方が全面的に原因であると単純化することはできないが、少なくとも挑発行為の先行はカンボジア側に偏っている。事実の積み重ねがそれを証明している。
なぜカンボジアは今になってこの国境問題をエスカレートさせているのか。
これはウワサにしかすぎないが、タイのペートンタン首相があまりにもマヌケなので、フン・セン元首相は「勝負をかけても勝てる」と踏んだのではないかという話が流れている。(ブラックアジア:タイの株式市場は7年で半分に下落。ペートンタン政権も支持されておらず弱体化)
ところが、ペートンタン首相が想定以上に愚かすぎたので、なんと首相職を解任されてしまった。ずっとマヌケがトップでいてくれたら御しやすいのだが、まさかカンボジア側も、こう簡単にペートンタン首相が失職するとは思っていなかったはずだ。

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すでに局地戦の枠を超えた交戦状態となった
2025年7月24日午前8時頃、タ・ムエン・トム寺院周辺で始まった銃撃と砲撃は、これまで断続的に続いてきた国境紛争とは明らかに異なる規模と性質を持っていた。両軍が交差火線に入る中で、タイの民間人11人が死亡し、兵士1人も戦死した。
この一日で確認された死者数は、2025年2月から続いてきた一連の衝突の中で最多である。攻撃は寺院エリアを超えて広がり、住宅地にも被害が及んだ。カンボジア側の人的被害の詳細は不明だが、反撃による損傷も多数に及んだと見られる。
タイ側は、ドローンと長距離砲を使った「限定的報復攻撃」と発表したものの、目撃された爆発の規模や空爆の範囲から判断して、すでに局地戦の枠を超えた交戦状態である。
空軍によるF-16の出撃、ロケット砲による集中射撃、そして前線部隊の急速展開は、軍事作戦として十分に準備された大規模な作戦だった。現地報道では、タイ第2軍管区からの増援部隊がすでに現地に入り、さらなる動員が進んでいると伝えられている。
一方、戦闘の影響は戦場にとどまらず、周辺住民の生活を直撃している。
タイ東北部のスリン、シーサケット、ブリーラム県では、避難命令が出され、数万人規模の住民が学校や公共施設へと避難した。カンボジア北西部でも同様に、住民が前線から離れる動きが急速に広がっており、双方で数十万人規模の避難民が発生している。
物流と経済にも大きな打撃が走っている。タイ側はすでに6月末から、カンボジアと接する5県の全国境を閉鎖しており、7月に入ってからはチョンボク、チョング・アン・マ、チョング・サイ・タクといった主要検問所が相次いで閉鎖された。
これにより、越境貿易はほぼ完全に停止し、両国にとって重要な石油・ガスの流通も遮断された。カンボジアはタイからのエネルギー輸入に依存している。6月23日の段階でタイからの全輸入停止を通達して以降、燃料不足が深刻化している。
しかし、カンボジア軍はシアヌークビルのリーム海軍基地から大量の弾薬と武器を前線に輸送しており、戦闘の長期化に備えた備蓄が進んでいることも明らかになった。BM-21ロケット弾500発、AK弾50万発、対空弾やRPGが数千発単位で前線部隊に送られている。これは、防御というよりも攻撃継続を前提とした軍事行動である。
民間人への被害も拡大している。7月16日には、タイのパトロール部隊が地雷を踏み、兵士が足を切断。23日には、別のパトロールが同様に地雷を踏み、軍曹が重傷を負い、4人が軽傷を負った。
すでに数百個単位の地雷が前線に敷設されており、その脅威は兵士だけでなく、将来的には地元住民にも及ぶことは避けられない。
フン・セン元首相は戦争で成り上がった男
2025年7月24日の全面衝突以降、戦闘は断続的に継続しており、外交的な収束の兆しは見られない。問題は単に軍事衝突にとどまらず、タイ国内での反カンボジア感情の高まりや、民族的暴力の兆候が現れ始めている点にある。
7月下旬、タイ各地ではカンボジア人を標的とした暴行事件が報告されている。警察報道官が「市民がカンボジア人を攻撃すれば、逮捕し法律の最大限で訴追する」と警告する事態となった。
外交の場でも崩壊が進んでいる。6月にはカンボジアが国際司法裁判所への提訴を表明し、タイ側はASEANなどの仲介提案を拒否し、直接交渉を主張するなど、国際的な枠組みの中での対話も不安定化している。
6月18日に明らかとなった、カンボジアとタイの首脳間の非公式電話会談の漏洩は、タイ人によるペートンタン首相への不信感を増長させた。それもそうだ。ペートンタン首相がフン・センを「おじさん」と親しげに呼び、自国の軍を「対立側」と位置付けていたのだった。
すでに数百発のロケット弾が発射され、数万人が避難し、地雷が敷設され、兵士と民間人の死傷が現実になっている。
仮にこの衝突がさらに拡大し、両国が全面的な総力戦に突入すれば、タイ東北部やカンボジア北部の地域は壊滅的な打撃を受けることになる。インフラは破壊され、医療・教育・水道といった公共サービスは機能不全に陥る。
エネルギー供給は遮断され、国家の運営自体が困難となる。地域経済も崩壊し、周辺国を巻き込んだ難民問題や国際的な制裁の導入も現実味を帯びてくる。果たしてどこまで武力の行使がエスカレートしていくのか。
カンボジアのフン・セン元首相は戦争で成り上がった男だ。戦争は嫌いではない。本格的な戦争がはじまったら、これまでの東南アジアの経済発展は吹き飛んでしまうだろう。私も、この紛争を固唾を飲んで見守っている。
ロシア・ウクライナ戦争のようにならなければいいのだが……。
7月下旬、タイ各地ではカンボジア人を標的とした暴行事件が報告されている。警察報道官が「市民がカンボジア人を攻撃すれば、逮捕し法律の最大限で訴追する」と警告する事態となった。




コメント
タイ・カンボジア間での軍事衝突の規模はかなり大きいと新聞で読みました。死傷者こそ少ないですが。
これ以上被害が拡大しないことを祈ります。
今日、タイ・カンボジア間で停戦合意が発表されたとニュースで聞きました。
両国間の緊張が解け、現地人の生活が早く元通りになることを祈ります。