今後、避妊に関して特効薬が発売されそうだ。「YCT-529」である。これは「男性」が飲む経口避妊薬である。
これまでの避妊といえば、女性にその責任がのしかかっていた。低用量ピルなどの経口避妊薬は、その代表だ。しかし、これはホルモンバランスの乱れや体調不良を招くなど、女性の心身に大きな負担がかかるものが主流であった。
だが、ついにこの構図を変えうる画期的な男性用経口避妊薬が登場しようとしている。ホルモンではなく、『レチノイン酸(ビタミンAの誘導体)の受容体、RARα(レチノイン酸受容体アルファ)を阻害することで精子の生成と放出を抑制する』という新しいメカニズムで作用するのだという。
平たく言うと、YCT-529は、これまでのようにテストステロンなどの男性ホルモンに依存しない。テストステロンを抑える男性用避妊薬だと、体重増加、性欲低下、攻撃性の増加といった副作用が出るのだが、これを回避できる。
動物実験段階では、マウスで99%の避妊効果が確認されている。精子生成の可逆性も確かめられた。すなわち、服用を中止すればふたたび生殖機能が回復するため、将来の子供を望むことも可能である。また、マウスやサルの段階で重篤な副作用はいっさい報告されていない。これは非常に大きな成果である。
過去には男性ホルモンを抑制する避妊薬が複数開発されたが、いずれも副作用が多かった。そうした背景を踏まえると、YCT-529の登場は避妊の常識を塗り替えるものとして、大きな期待が寄せられている。
今後は、男性自身も避妊に主体的にかかわれるようになるのだ。副作用のない男性用避妊薬が実用化されれば、避妊は男女共通の責任となり得る。そう言った意味では歓迎すべきものであるのは間違いない。
だが、私自身はこれは混乱と問題を引き起こすものになるのではないかと思っている。どういうことか……。