日本では年間約34,000例の突然死が発生しており、そのうち約19,000例(56%)が心臓突然死と推定されている。医学は進歩し、病気の治療法は増えた。それにもかかわらず、働き盛りの突然死が阻止できていない。そして、その突然死の多くが浴室で発生している。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
突然死は総死亡の10〜20%を占めている
ある日、健康そのものに見えた40代の中年男性が、自宅のキッチンで崩れ落ちた。心筋梗塞による突然死だった。彼は毎年の健康診断で問題なしと診断されており、家族も医師も誰ひとりとしてその瞬間を予測していなかった。
別の事例では、定年を迎えたばかりの女性が趣味のハイキング中に倒れ、命を落とした。原因は脳動脈瘤の破裂。彼女もまた、健康な生活を送っていたとされていた。
さらに別の事例では、浴室で突如として意識を失ってそのまま亡くなってしまう人も報告されている。じつは、浴室で突然死する人は多い。
こうした突然死の事例は、特異なものではない。現代社会では寿命が延びている一方で、「突然死」が広がりを見せている。統計上、日本人の平均寿命は男性で81歳、女性で87歳とされ、世界的に見ても最長寿国のひとつだ。
ところが、突然死も多い。日本では年間約34,000例の突然死が発生しており、そのうち約19,000例(56%)が心臓突然死と推定されている。医学は進歩し、病気の治療法は増えた。それにもかかわらず、働き盛りの突然死が阻止できていない。
ひとつの答えは、ストレス社会だ。過労、家庭問題、経済的不安、これらが交感神経を過剰に刺激し、血管や心臓に知らず知らずのうちにダメージを蓄積させる。そして、蓄積した負担がある日限界を超える。そして、突然死する。
現代の食生活もリスクを助長している。
加工食品、ファストフード、高糖質の飲料、これらが日本の食卓を占拠している。栄養の偏りや過剰なカロリー摂取は肥満や糖尿病を引き起こし、結果として心臓や血管に過度の負担をかける。これらはすべて、突然死を招く要因となる。
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無症状のまま重症の心疾患を引き起こす
長寿の側面については言うまでもなく顕著な進歩が見られる。2023年の世界保健統計によれば、過去50年間で世界の平均寿命は20年以上延びている。この中で日本は特に注目される存在だ。
総務省が2023年に発表したデータによると、90歳以上の人口が206万人となり、はじめて200万人を突破したと報告されている。
一方で、突然死の増加も統計的にあきらかだ。日本救急医学会のデータでは、心筋梗塞や脳卒中などの急性疾患による突然死の発生率は、ここ10年間で約1.5倍に増加しているのだ。
この背後には、高齢者だけでなく、働き盛り世代の突然死も含まれている点が注意を引く。その多くが心臓と血管にかかわる突然死となっている。
心臓発作や不整脈に関する研究では興味深いデータもある。国立循環器病研究センターによると、日本人の突然死の約7割が心臓に関連しており、その多くが事前の兆候を見逃しているという。
高血圧や糖尿病といった生活習慣病も突然死のリスクを大幅に高めている。この2つの要因はどちらも、血管にダメージを与えるものだ。
高血圧は特にそうだが、血管壁に持続的な負担をかけ、動脈硬化を促進させ、心臓や脳の血管に重大な障害をもたらす。致命的な脳出血や大動脈解離、心筋梗塞などは、だいたいが高血圧が原因となっている。
糖尿病は血管の損傷を進行させ、全身の臓器に悪影響を及ぼす。特に、心臓の冠状動脈に影響を与え、無症状のまま重症の心疾患を引き起こすことがある。また、自律神経障害により、致命的な不整脈が生じるリスクも上昇する。
不整脈は恐ろしい。じつは、私も2023年の夏に歌舞伎町にいたときに急激に体調がおかしくなって、そのまま救急車で大久保病院に運ばれたことがあった。突然の不整脈でそうなった。(ブラックアジア:土曜日に倒れてしまいましたが、今日からまた普通の生活に戻します)
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働き盛りの人が突然死で亡くなる
高齢者の突然死、基礎疾患を持つ人たちの突然死もあるが、働き盛りの人が突然死で亡くなるのは、かなりショックが大きいはずだ。抱えているものが大きいこともあるのかもしれない。
これだけ「働き方改革」とかいわれながらも、多くの人々が職場での競争、人間関係、長時間労働、過重な業務量、成果主義のプレッシャー、雇用の不安定性、ハラスメント、経済的な不安に直面しており、これが身体に深刻なダメージを与えている。
ストレスは交感神経を刺激し続け、血圧を上昇させ、心臓に過度な負担をかける。さらに家庭でもうまくいっていなければ、ストレスはより重くなるだろう。この慢性的な負荷が、ある日突然限界を超えて命を奪う。
劣悪な食生活も見逃せない。健康的な食事が推奨されているにもかかわらず、突然死する人の食生活は、その逆をおこなっている場合が多い。
過去数十年間で加工食品や高脂肪・高糖分の食品が普及し、これが肥満や生活習慣病の増加に直結している。冷凍食品やインスタント食品、スナック菓子などは、手軽さと保存性の高さから広く普及し、現代ではスーパーやコンビニの棚を埋め尽くす存在となっている。
加工食品の多くは、高脂肪・高糖分・高塩分だ。食品を美味しく感じさせるための工夫として砂糖や脂肪分が多用され、さらに保存性や見た目を良くするために人工添加物や塩分が加えられている。
加工食品を常食しても、すぐに死ぬわけではない。しかし、それは徐々に身体を変質させていく。厚生労働省の調査では、日本人の成人の約3割が肥満傾向にあり、これが心血管疾患のリスクを高めている。
あと、皮肉なことだが「現代医学の進歩が逆にリスクを助長している側面もある」と述べる医師もいる。
多くの疾患が治療可能になったことで、人々が健康管理を軽視する傾向が生じているのだ。定期的な健康診断を受けない、医師の指示を守らないといった行動を取る人が増えている。それが、突然死を招く原因となっている。
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浴室で突然死する人が多い理由とは?
突然死の約7割が心血管系の問題に起因しているのだから、心臓と血管が脆弱になっている人が突然死のリスクが高いということになる。心臓や血管に関連する突然死の典型的な例は、心筋梗塞だ。
この疾患は特に高齢者に多いが、最近では働き盛りの40代や50代の男性でも増加傾向にある。その要因は、ストレスや喫煙、肥満、不規則な生活習慣にある。
心筋梗塞が突然死を引き起こすのは、心臓の電気系統が乱れ、心室細動という致命的な不整脈が発生するためだ。これが起こると、数分以内に処置をしなければ命を救うことは難しい。
不整脈もまた、突然死の主要な原因のひとつである。不整脈には無害なものも多いが、中には命にかかわる危険なタイプも存在する。
特に、心室細動や完全房室ブロックなどの不整脈は、心臓が正常に血液を送り出せなくなり、急激に血圧が低下して死に至る。こうしたケースでは、前兆がほとんどなく、「健康だと思っていた人が突然倒れる」という事態が発生する。
浴室で突然死する人が多いのは、急激な温度変化が血圧を急激に変え、心臓に大きな負担を与えるからである。
冬場では暖かい部屋から寒い浴室に移動することで体温が急激に低下して血圧が上昇する。そのあとに浴室に入って身体が温まると、今度は血管が急激に拡張して血圧が急低下する。この急激な血圧変動が心筋梗塞や脳梗塞を引き起こすのだ。
心臓と血管に問題がある人は、浴室はもっともリスクある場所でもある。
厚生労働省の研究班の調査によると、入浴中の事故死の数は年間約1万9,000人と推計されている。交通事故死は約2,600人だから、道路よりも浴室のほうがよほど危険なのだ。
他人事のように書いているが、私も不整脈で倒れているし、食事はかなりの偏食でジャンクフードまみれだし、健康診断も受けることはないので、突然死予備軍といえるかもしれない。突然、ブラックアジアの更新が途絶えて消息がなくなったら、死んでいると思ってもらったほうがいいかもしれない。
健康診断ってよほど会社でない限り受ける機会ってないですよね。
ワンコイン検診とか人間ドックもあるにはあるけど予約、来院、待ち時間とか考えると億劫でまぁ良いかって思っちゃう。
ブラックアジアの更新止まって消息がなくなったら皆心配しますよ。
市町村の市民健診はオプション入れなければ、基本無料です。健康管理に関わる身としては、傾城さんに経験のためでも良いので、健診を受けて欲しいです(無理だろうなあ)。