事業をやっている男や、親から莫大な遺産を相続して金が有り余っている男が世の中にはいる。そういう男は、銀座のクラブやらキャバクラやら高級風俗店などに出入りして金を散財するのだが、金に糸目をつけないので女たちには好まれる。
私の知っているある風俗嬢は、それほど出勤日数もなければ凄まじく美しいというわけでもないのにトップランカーだったのだが、それは彼女が「金持ちの太客《ふときゃく》」をしっかりつかんでいたからであった。
「マンションの家賃と月々のお小遣いで毎月60万円払うから仕事をやめて愛人になってくれ」
彼女は既婚の金持ちの男に、そのように言われたと述懐した。もしその通りにしたら、相手にするのはたった一人で良くて、さらにそれなりの金も入るので悠々自適で暮らしていける。少なくとも風俗の仕事をして生きるよりは安全でリスクがない。しかし、彼女は即座にそれを断っている。
「どうして、受けなかったの」
そのように聞くと、彼女は「ひとりに依存するってヤバいと思う。彼は家庭を持っていて、自分はいつ捨てられるか分かんないし、自分の自由がなくなるみたいでストレスじゃない? だから、絶対にやりたくない」という話を私にした。
言われてみれば、確かにそうだった。毎月60万円くれると言っても、しょせん既婚者の口約束である。しかも、いつ切られるのか分からない。しかも、いつ来るのか分からない男を待って常にスタンバイしていなければならない。そして、絶対服従を強いられる。それは、ストレスだろう。
男は「衣食住を与えてやるのだから女は泣いて幸運を喜ぶはずだ」と思っているのかもしれないが、必ずしもそうではないということだ。