インドの売春地帯にいるセックスワーカーたちの気性の荒さと粗野な態度は、恐らく世界でトップレベルのものだと私は思っている。彼女たちは自分の思う通りにならないと、心底激怒して、男を怒鳴りつけ、罵り、叩き、つねり、殴ってくる。
東南アジアの女性で女性を罵倒してくる歓楽街の女性は見たことがない。日本でも風俗嬢に粗野な風俗嬢をたまに見かけるが、その粗野さのレベルはとても大人しい。インドのセックスワーカーたちは日本人の想定を超えている。
私が今まで出会った中で、最も怒りの沸点が低かったのはインド西部の都市ムンバイで出会った女性だったかもしれない。インドはいつも誰かと口論という名の喧嘩をしなければならない国なのだが、女性を怒らせらると罵倒されるだけでなく、殴られるし、ツバも吐かれる。
私は自分の生きてきた中で、他人にツバを吐かれたのは人生で一度きりだが、それはムンバイのフォークランド通りにいた女性だった。彼女の粗野な態度は、猛獣のようだった。
彼女については、『ブラックアジア 売春地帯をさまよい歩いた日々・インド編』の「フォークランド通り。現地の男も恐れる荒くれの女たちの巣」の中で書いた。ぜひ、インド売春地帯の凄まじさを味わって欲しい。
恐らくやってくる男たちもまた揃って乱暴で、女たちを粗雑に扱っているのだと思う。インドではよく人が殺されたり暴力を振るわれたりしているが、社会の底辺に生きる人たちはみんな怒りの沸点が低い。だから、治安も悪いのだ。
そういう世界と比較すると日本は平和だと思う。しかし、それでも日本人は怒りがないわけでもないし、仏様でもない。怒りでイライラして、自分の感情が抑えられそうになくて、爆発しそうな人も大勢いる。
私はあまり怒らない方だが、そんな私でも怒りを感じることもあれば極度にイライラしてしまう日もある。以前、ある風俗嬢が「人を殺したいくらい強い怒りやイライラを感じることがある」と私に言ったことがある……。