◆男をカモにする女。女が計算に弱いとは、誰が言ったのか?

◆男をカモにする女。女が計算に弱いとは、誰が言ったのか?

タイ編
アジアには、驚くほど美しい女がいる。カンボジア・プノンペンの薄汚れた置屋にも、ジャカルタの売春窟にも、タイ南部のスンガイコーロクの寂れた置屋にも……。

特に、アジア最大の歓楽街と言われていたパッポンの華やかなゴーゴーバーの一角では、思わず息をのむような美しい女と出会う。しかし美しい薔薇には棘(とげ)があるように、美しい女も棘を持っていることが多い。

一大歓楽地帯へと成長したバンコクのパッポンは、棘を持った薔薇のような女たちが山のように棲息しているとはよく言われる。それは本当なのだろうか。

もちろん、本当だ。

思わず息をのむような美しい女

パッポンのゴーゴーバー「キング・キャッスル1」で、そういう女と知り合った。細かい雨が降りやまず、汗ばんだシャツが肌にべったりと張りつくような湿度の高い夜だった。

キング・キャッスル1は、美しい女性が多いと言われているパッポンの中でも、とりわけて美しい女性が揃っている。

人の風評は当てにならないので、実際に行ってみると噂ほどでもなかったり、時間によっては売れっ子が軒並みペイバーされて店にいなかったりすることもある。

しかし、大体どんな時にでもキング・キャッスル1だけは盛況なのを見ると、やはりそれなりに評価を得ているのだろうというのが分かる。何しろ、この店はキングス・グループの中でも稼ぎ頭なのだ。

この日、雨が降りしきる中でも店内は混雑していた。ぶらりとバーの中に入ると、ひとりのウエイトレスが奥に案内してくれた。しばらくこの女性と冗談を言い合ったり、ふざけ合ったりした。

彼女のニックネームはチップ(Tip)と言った。「そんなにチップ(chip)が欲しいのかい」とチップに引っかけてからかうと、彼女は大声で笑うのだった。

チップは性格の良い女だったが、もう30代に入ったような顔をしており、元々そんなに美しいわけでもなかった。彼女がこの世界で生き残るのは恐らく大変なことだ。

チップが「あなたは、どういう女が好きなの?」と聞いて来た。「キュートでスリムでロングヘアーでビューティフルアイな女」と冗談めかして言っていると、彼女は別のウエイトレスに何かを耳打ちした。

やがて目の前に現れたのがフォンだった。

彼女はダンサーではなく、ウエイトレスの制服を着ていた。そして、どことなく恥ずかしそうにこちらを見ていた。上目づかいで控えめな笑顔。まさにその顔やしぐさは好きなタイプのものだった。

ショートは4,000バーツよ

人間は誰しも自分が理想とする女性の顔や姿形がある。彼女はまさに理想に合致しており、思わず感激に声が漏れたほどだ。

フォンを隣に座らせて改めて彼女をよく見つめたが、その驚くほど整った顔にはため息が出てきた。

「どこから来たのですか」「いつ来たのですか?」「名前は何ですか?」「何歳ですか?」というマニュアル通りの話を彼女は英語で言った。

一生懸命に相手の言葉を聞き取ろうとする態度や、言ったことを理解したときに浮かべる何気ない笑顔にとろけそうになった。

ちなみに「いつタイに来たのですか?」と質問されて「今日」とフォンに答えた。この日、カンボジアの旅を終えてバンコクに降り立ったばかりだったのだ。

「今日タイに来たの?」

彼女は驚いていたが、その驚きのしぐさがまたチャーミングで可愛らしかった。一目惚れという言葉がある。この美しい女に一目惚れしてしまった。

この女が欲しい。この女以外には誰もいらない……。

そう思わせるほどフォンは理想の女性のタイプにぴったりと当てはまっていた。一刻も早く彼女と一緒にバーを出たくなり、かなり唐突だったが「一緒にホテルに来てくれ」とフォンに伝えた。

店に入って5分、彼女に会って1分も経っていなかった。フォンは「この上に部屋があるので、そこでどう?」と尋ねた。一緒にいたチップも「それがいい」とうなずいている。

それではイヤだと駄々をこねた。そして、どうしてもフォンを自分のホテルに連れて帰ると言った。ずっと彼女と一緒にいたかったからだ。

ところが、なぜかチップもフォンも必死になって「それはできない」と言う。「なぜ?」と聞いても「とにかくダメだ」の一点張りだった。

パッポンの娘をカンクン(泊まり)で交渉することは今までに何度もあった。パッポンではカンクンで交渉しても問題はなかったはずだ。最初からあっさりと断られたのは今回がはじめてだった。

「ショートならペイバーしてもオーケーなのかい?」と尋ねる。フォンはうなずいた。そして「ショートは4,000バーツよ」と英語で言った。

4,000バーツ……。

それは相場の2倍以上だった。我が耳を疑った。

なぜ最初にそれを聞かれるのか

あまりのぼったくりぶりに驚いて呆然としていると、フォンはこちらの手を取って熱い妖しい視線を送って来る。そして耳元で「アナタガ、スキデス」と舌足らずの日本語で言うのだった。

ほとんどキスせんばかりの距離で目と目が合った。フォンはうっとりした視線で、じっとこちらを見つめている。

しかし、熱く燃え上がっていたフォンに対する思いは、この瞬間に一気に冷めて氷のようになっていた。彼女が心の中でしたはずの「冷酷な計算」が読めてしまったからだった。

彼女は、男がタイに来たばかりで相場を知らないと考えたはずだった。

そして、男は彼女の容姿に酔いしれて我を忘れてしまっている。カンクンにこだわった男の態度で確証を得たはずだ。

つまり、ひとことで言えば「相場を知らない男が、一目見た女に魂を奪われている」という状況だ。まさに男はカモにされようとしている状況であり、フォンはそれを見逃さなかった。

めったに一目惚れはしないが、久しぶりに一目惚れしたらすぐにこのありさまだった。女には心を許すなという警告なのだろうか、それとも相手が悪かったのか……。世の中はまったく皮肉だ。

男の手を取って自分の手に重ねる彼女のかわいらしいしぐさや、男を上目づかいで見るうっとりした表情、セックスを求めているような甘い視線は、すべて4,000バーツのための「お芝居」だった。

冷めてしまえば嘘臭い演技も、恋心に燃え上がっていればきっと気がつかなかったに違いない。

ゴーゴーバーに行くと、必ず「いつタイに来たの?」と聞かれる。なぜ最初にそれを聞かれるのか、今まで気にもとめなかった。せいぜい挨拶代わりくらいにしか思っていなかったのだ。

今ではよく分かる。「いつタイに来たの?」という何気ない質問で、女たちは目の前の男が相場を知っているのか知らないのかを注意深く探っているのだ。

まじまじと目の前のフォンと見比べた

「タイに来たばかりだ」と言うと、カモにされる確率は格段にアップする。

パッポンは、カネ・カネ・カネ、すべてカネで動いている。まさにそのとおりだ。うっかりしていると、どんどんカネをむしり取られていく。

今、まさにそんな状況だった。

カモにしようとしているフォンに首を振って「1,000バーツ」と切り返した。一瞬、絶句した彼女の表情は、逆に演技ではなかった。結局、延々と値段交渉を続けて1,700バーツで合意した。

実を言うと値段交渉をしている間にどんどん白けていって、最後にはもう彼女が欲しいとも思わなかった。

フォンの方も男からぼったくる計算が狂って、機嫌を損ねているのがちょっとした表情で読み取れた。

それでも連れ出してしまうというのは、男の哀しい性(さが)だろうか。それとも後に引けなくなってしまった人間の愚かな選択だったのだろうか。

タクシーの中ではお互いにバツが悪く、会話もほとんどなかった。

そして、ホテルのカウンターで鍵をもらおうとすると、受付の女性がフォンにIDカードを見せるように言った。そこでフォンの機嫌はさらに悪化した。

この日泊まっていたホテルはジョイナーフィーが必要であり、連れ込む女性のIDカードを細かくチェックしていたのだ。

フォンはそれが不服のようだった。すったもんだのあげく、やっとIDカードをホテルに提出した。カードは写真だったが、それをのぞき込むと、どう見てもフォンとは別人の顔に見えた。

フロントの女性も思わずそのIDカードをのぞき込んで、まじまじと目の前のフォンと見比べた。

フォンは顔を反らし、気まずい空気が流れた。彼女がそれを返してくれと頼むと再び揉めたが、結局フロント側が折れてカードに書いてある名前等を台帳に書き写してからそれを返した。

わたし、整形したのよ

部屋に入ると、もう一度そのIDカードを見せてくれと頼んだ。彼女は大反対したが、最後には根負けして見せてくれた。やはり、別人のような顔がそこにあった。

田舎から出てきたばかりのような、野暮ったい暗い顔の娘がこちらを恨めしそうに見ていた。それは彼女に似ているのだが、やはり別人のようだ。

なぜ写真と本人がこんなにも違うのかは、考えなくても理由はひとつしかない。彼女はバレたというのが分かったらしく自分から話した。

「わたし、整形したのよ……」

IDカードの暗い目をしたおかっぱ頭の娘は、大都会の夜に翻弄され、何人もの男たちに無垢な身体を蹂躙され、そして蛹(さなぎ)が蝶々になるように、原色の女として新しく生まれ変わったのだ。

今では逆に男を手玉に取るまでに成長し、パッポンの毒々しい花のひとつとなって目の前に立っている。スタイルも抜群だった。男がどういう身体を好むのか計算して作り上げたボディがそこにあった。

夜の花に生まれ変わったフォンを抱くと、彼女はポルノ映画の中の女優のようなワザとらしい「よがり声」を上げはじめた。セックスで男をとりこにするコツもしっかり学んでいるようだ。

「君は女優だな」

そう言うと、彼女は苦笑いをして頬を平手で叩く真似をする。もうこれ以上セックスを続ける気持ちにはなれず、精神的にも肉体的にもすっかり萎えてしまった。セックスをやめると、彼女は訝しげにこちらを見た。

「どうしてセックスをしないの」

そう尋ねるので、「君が女優だから」と答えた。

危険で熱い女だった

彼女はしばらく黙っていたが、やがて何を思ったのか「わたしの胸は小さい。ノー・グッド」と言い出した。どうも自分の胸が小さいのが不満で男がセックスをやめたのかと心配しているらしかった。

冗談でイエスとでも答えると、彼女は本気にして豊胸手術さえやりかねない。徹底的に自分を改善してパーフェクトになるのが彼女の理想らしいことが分かってきた。

彼女はしきりに自分の胸を触りながら、「グッド? ノー・グッド?」と意見を求めてくる。突然、そんな彼女の真剣な態度がおかしくてしょうがなくなった。

フォンがサイボーグのようにどんどんパーツを取り替える場面が頭の中に思い浮かんで、滑稽でしかたがなかった。

笑い続けていると彼女も釣られて笑いはじめ、とうとうふたりで笑い転げた。結局、ふたりでスナック菓子を食べながら、テレビを見たり、どうでもいい雑談をして別れた。

再度セックスを求めれば彼女は応じただろう。しかし、もう彼女が欲しくなかった。

別れ際、彼女は紙に自分の携帯電話の番号を書いて、プリクラで撮ったらしい小さな写真を貼ってくれた。翌日もバンコクにいると言うと「必ず電話して!」と、くどいほど念を押す。

セックスもしないでカネをくれた客をキープしたかったのか、それとも好意を持ってくれてもう一度会いたいと思ったのかは分からない。さりげなく別れのキスをして、フォンはパッポンに戻って行く。

ひとりホテルのベッドに寝そべって、いろんなことを考えた。明日、彼女に連絡するつもりは毛頭なかった。連絡しない方がいいと思ったからだ。

どうも会う気がしなかった。

彼女は男を参らせるありとあらゆる手練手管を身につけた危険で熱い女だったからだ。

若い女の手練手管にはかなわない

より多くのカネを手に入れるために自分の顔を整形し、好きになったフリもすれば、感じている演技もする。こういう女の本心を見抜くのは難しい。深みに入ると、いつの間にか躍らされて泣きを見る。

女は男の感情を操ることのできる生き物だ。これは水商売の女に限った話ではなく、素人の女性にも当てはまる。

どんな風に甘えれば男が参るのかを女たちは本能的に知っている。年端のいかない子供でさえ、甘い声を出して父親に欲しいものを買ってもらったりしている。女は生まれながらにして、そういう魔術を身につけているのだ。

その魔術を極限まで磨いたのが夜の女だ。一年間で何千人もの男と出会い、ベッドを共にするのがプロ……。野心を持った女であれば、どうやったら男が喜んでカネを出してくれるのかを熟知している。

さしずめ、フォンはその典型的なタイプだった。初対面では恥ずかしそうな態度で、あまり男のことをよく知らない風に接しながら、心の裏ではどうやったら目の前の男を落とせるか激しく頭を回転させている。

パッポンやタニヤでひとりの女に数百万円も注ぎ込んだ男は捨てるほどいる。日本での仕事を捨て、惚れたパッポンの女の元にやってきて裏切られて失意のどん底に落ちた男の話も聞いた。

名前を聞けば誰もが知っている一流企業の役員でさえ、とあるタニアの女に入れ込んだあげく、会社を辞める事態となってしまった。社会的に見れば、頭のキレる男でさえ、学校も満足に出ていない若い女の手練手管にはかなわないのだ。

巧妙な女になると、最後の最後まで男をだまし続け、男は自分が女に躍らされてカモになっていることすら気がつかない。女が計算に弱いとは、いったい誰が言ったのだろうか。きっと、女を知らない男がうそぶいたに違いない。


夕方のパッポンストリート。これから夜が更けて行くと、美しく「変身」した女たちが色を添えて、世界中の男を惑わす。

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