絶対貧困が増え、膨大なストリート・チルドレンが街を覆い尽くす国も出てくる

絶対貧困が増え、膨大なストリート・チルドレンが街を覆い尽くす国も出てくる

日本人のほとんどは、ストリート・チルドレンに揉まれた経験がない。そのため、彼らを無視できない心境になる。無視したくても、それを上回る執拗さと粘り強さであなたの施しを求めてくる。あなたが誰かひとりに施すと、それ以上の子供たちがあなたを取り囲む……。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019メディア『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)

絶対貧困に落ちた子供たち

日本ではほとんど見かけないが、一歩でも日本を出ると普通に見かけるもの。それは、物乞いをする子供たちの姿である。あるいはホームレス状態で生きているストリート・チルドレンである。

2020年。コロナ禍で世界の貧困は絶望的に悪化した。今年1年で絶望的なまでの絶対貧困に落ちる子供たちは15%増加し、数にすると最大8600万人もの子供たちが「新たに」絶対貧困に落ちたとユニセフは述べている。

募金を募るアグネス・チャンは豪勢な家に住んでいて、清潔な室内で何か歌でも歌いながら暮らしていられるが、絶対貧困に落ちた子供たちはほとんどが支援など届かない状態の中で、それこそ地を這いつくばって生きている。

知らなかっただろうか。いや、私たちは世界の貧困層の人々が恐ろしいほど困難な生活に落ちているのを知っている。そして、育ち盛りの子供たちが空腹に身悶えしていることを知っている。

そして、彼らの一部が物乞いで暮らしていることも知っている。

日本も貧困が広がっているのだが、まだ行政が対応できる国力があるので絶対貧困に落ちている人たちの姿はほとんど見かけない。しかし、極貧の子供たちは途上国にはどこにでもいて、路上で人々に施しを求めている。

アフリカでも、ブラジルでも、インドでも、ヨーロッパでもそうだ。ヨーロッパではロマの子供たちは流浪の生活の中で学校も行かないで過ごしているので、子供の頃から物乞いや窃盗や万引きや置き引きなどの犯罪に巻き込まれている。

こういった子供たちのひとりに施しを上げたら、どっとやって来て無限に金を要求する。だから、冷たいようだが、心を鬼にしてやり過ごさなければ、持っている金は一瞬にしてなくなる。

私たちの持っている金は無限ではない。かわいそうだが仕方がないと思う。私も長らく東南アジアの貧困地区にいて、そういった規律はずっと持っている。心は痛むが、子供たちに施しはほとんどしない。あなたもそのはずだ。

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「お腹がすいた、何か食べたいの」

たまたまストリート・チルドレンがいる国に訪れた旅人は、街を散策しようとして歩くと、必ず小さな子供たちにまとわりつかれる。とても寂しそうで、愛くるしくて、しっかりと抱きしめて守って上げたいような、あどけない表情をしている。

着ているものはボロで、薄汚れていて、髪も長く梳かしていないのかボサボサだ。そんな子供が、「お腹がすいているの」「食べ物がないの」「お金がないの」と切実なまなざしで訴えてくる。

子供たちは外国人には言葉を話しても通じないのを知っているので、言葉を話すことはない。ただ、全身で訴えるのだ。

「お腹がすいた、何か食べたいの。お金ちょうだい」

このような子供たちに、何十分もつきまとわれる。どんなに無視しても無駄だ。早足に歩いて「もう引き離した」と思って振り返ると、子供たちがまだ追いかけていて、今にも泣きそうな切ない表情でこちらを見つめている。目が合うと再びゼスチャーで必死で訴えるのだ。

「お腹がすいた、何か食べたいの。お金ちょうだい」

その子供を振り切って逃げても、また違う子供がやってくる。どこかで食事をしていても、タクシーに乗っていても、考えごとをしていても、ストリート・チルドレンはあなたに押し寄せてくる。あなたはやり過ごすことができるだろうか……。

ある人は、放っておけないと感じて持っている小銭を子供たちに渡す。あるいは、屋台で何かを買ってあげて子供たちに渡す。子供たちは感謝する。しかし今度は、大勢の仲間を連れてくることになる。

その迫りくる貧しい子供たちの数に「とても全員を救うことはできない」と気づく。しかも、その日だけ何とか対処できても、子供たちの苦境は一日だけではない。

そこにいると朝から晩まで毎日毎日毎日毎日、子供たちに「お金ちょうだい」「お金ちょうだい」「お金ちょうだい」とずっと懇願されるのだ。

そして、遅かれ早かれ悟ることになる。個人が小遣い程度の金を与えて子供たちを救うことなど、決してできないという現実を……。

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職業だと知っていても動揺する

ストリート・チルドレンは世界中に大勢いる。そうした子供たちを抱えている国では、母親もまた絶望的な貧困にある。障害を持った子供を抱えた、本当に切羽詰まってどうしようもない表情の母親もやってきて、必死になって金をねだる。

どの母親も、その表情は尋常ではない。あなたが金を上げないと、その一時間後には死んでしまうのではないかというような、一刻の猶予も許さないような表情なのである。

子供も一緒になって、本当に心からあなたに「助けてほしい」と懇願してくる。彼らはどこから見ても困窮者であり、とても捨てておけない。あなたは、もちろん旅をしているくらいだから、小銭くらいはいくらでも持っている。

かわいそうな子供、そして子供を何とか食べさせてやりたいと必死になって、今にも泣きそうな母親を前にして、あなたは冷酷に無視できるだろうか?

「困った人は助けなければならない」と真っ当な教育を受けてきた私たちは、動揺しないで目の前の困窮者を見て、平然と無視することができるだろうか。

「物乞いにひとり施していても、次々とたかられて全員を助けることはできない。彼らもプロなのだから最初から上げないのが正解です」

そのような基本は誰もが知っている。しかし、現実を目の前にしたとき、その貧困の有様に衝撃を受けて、気がつけば金を与えている人もいる。

ところで、厄介な現実もある。彼らは本当に困窮者なのだが、同時に彼らにとって物乞いは職業である。物乞いそのものが、ビジネスとしての側面を持っている。

だから、切羽詰まった表情やしぐさや暗い目は「演技」も入っている。どのような表情をすれば効果的に金を恵んでもらえるのかを毎日ストリートで実践している。すると、効率性を求める子供たちほど演技が過剰に入る。

しかし、ほとんどの場合、たまに途上国を訪れる旅行者には、それが気づかない。圧倒されるのだ。彼らの必死な表情は、24時間あなたから離れることはない。仮に職業だと気づいても動揺する。

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きれい事ではやっていけない世界

日本人のほとんどは、ストリート・チルドレンに絡まれた経験がない。そのため、「無視すればいい」と聞いていても、無視できない心境になる。いや、無視したくても、それを上回る執拗さと粘り強さで彼らは小銭を求めてくる。

どんなに振り切っても、次から次へと、無尽蔵に彼らはやってくる。あなたが疲れ果て「金がない」と説明しても聞いてくれない。なぜなら、金がなければ、旅に来られるはずがないのはストリート・チルドレンでも知っているからだ。

だから、「お腹がすいた。お金をちょうだい」と懇願してくるのである。

私自身はたまに小銭を渡すこともあるのだが、ほとんどは無視する。基本的に目の前で子供が涙を流しても助けることはない。このように書くと、私は冷酷無情で血も涙もない人間に思われるかもしれないが、そうではない。

最初は私も「目の前にいる困った子供たちを助けないでいいのか?」と葛藤があった。今でも東南アジアやインドに旅すると、目の前の子供たちに心が揺らぐこともある。

しかし、極貧の子供たちはあまりにも膨大で、一個人はあまりにも無力だ。結局、私は「助けない」ことを基本にした。かなり早い段階で私はそれを身に付けた。徹底して傍観者であることを選択した。

そうでもしないと一日で私自身の所持金がなくなってしまうからである。

困り果てている時、ほんの少しでも助けてくれることはどんなに嬉しいことか、私も理解している。できれば、困っている人を助けて上げたいという気持ちもある。しかし、きりがない。

数千人のストリート・チルドレンを、たまたま旅のためにやってきた私が助けることはできない。彼らを救済するのは「私の仕事」ではなく、「現地の政府の仕事」なのである。それを私は自分自身に叩き込んだ。

しかし、現実には目の前に次から次へと「本物の困窮者」が助けを求めてやってくる。感受性の強い人ほど、どうしていいのか分からなくなって、自分自身が現状に苦しんでボロボロになってしまうのは分かる。

心理的苦痛が積み重なるのである。

2020年代は貧困が広がっていき、途上国の状況は特に悪化するだろう。膨大なストリート・チルドレンが街を覆い尽くす国も出てくるはずだ。きれい事ではやっていけない世界を前にして、あなたは何を思うだろう……。

絶対貧困の光景
『絶対貧困の光景 夢見ることを許されない女たち(鈴木 傾城)』

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