
人類の歴史を長いスパンで見ると、淘汰された民族は夥しいリストになる。言葉も消され、伝統も、文化も、すべて根絶やしにされる。衰退した民族が、そのまま「保存」されるのはあり得ない。衰退した国家には強大な国家が入り込み、強大な国家が衰退した民族を駆逐していく。非常に荒々しい手段で、強制的に歴史から消していく。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019メディア『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)
征服者に徹底的に破壊される歴史
動物界では弱肉強食の世界だが、人間もまたその弱肉強食のルールに支配されている。人間の歴史を紐解くと、弱い民族は常に侵略され、弱い民族の文化・言語は消し去られている。
弱い民族は、大事に保護されるのではない。侵略され、大虐殺され、結果として淘汰されるのだ。
それを一番よく知っているのは、アメリカ人だ。なぜなら、彼らはネイティブ・アメリカンの土地を侵略して国を作ったという歴史から始まったからだ。
アメリカ大陸は本来はネイティブ・アメリカンのものだったが、白人たちはこの先住民を徹底的に殺し続け、結局は彼らの95%を虐殺した。人類史上でも類を見ない「大量虐殺の歴史」がそこにあったと言うしかない。
イギリスから移住したアングロサクソンが、先住民族を淘汰して今のアメリカにしたのである。そして、かろうじて生き残った先住民族(ネイティブ・アメリカン)は、今や天然記念物のように指定地区に押し込まれて貧困の中で細々と生きている。
南米を支配していたインカ帝国もスペインによって滅ぼされた。インカ帝国は高度な文明を持ち合わせていたが、高度な武器は持っていなかった。さらに不幸なことにスペイン人が持ち込んだ伝染病にも免疫がなかった。
インカ帝国を崩壊させたスペイン人たちは、インカ文明を意図的に破壊し、奴隷にした男たちを金山・銀山の使役で徹底的に強制労働させて疲弊させ、美しい女たちはみんなスペイン人の妾にされたり、レイプされて捨てられたりした。
今やラテン・アメリカは混血国家として知られているが、それは大虐殺とレイプの結果であることを日本人はもっとよく知っておいたほうがいい。南米の混血は美しい。その美しさには血の歴史がある。この大量虐殺は古代史ではない。つい200年ほど前まで人類が行っていた所業である。
インカ帝国ではケチュア語が公用語として話されていたのだが、この言葉も含め現地の言葉もすべて抹殺され、スペイン語に置き換えられた。文明も、血も、言葉も、すべてスペイン人が乗っ取ってインカ帝国は跡形もなく消え去った。
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自分たちが弱くなれば、いつでも淘汰される
インカ帝国は偉大だったのかもしれないが、征服者(コンキスタドール)がやってくると、徹底敵に破壊されて何もかもが「根絶やし」にされた。「弱い民族」「負けた民族」「侵略された民族」の末路がここにある。容赦ない。その民族が持っていた歴史は民族ごと抹殺されるのだ。
歴史を上書きする。
それが征服者(コンキスタドール)の流儀だ。
征服者は、弱い民族を大虐殺して自分たちがそこに君臨する。だから、「自分たちが弱くなれば、いつでも淘汰される」という本能的な恐怖を持っている。自分たちがそうしたのだから、そうされるという意識を忘れない。
自分たちが征服した民族から報復されないためにはどうするのか。完膚なまでに弱い民族を虐殺し続けて、少数民族にしてしまうのだ。無害になるまで殺戮していって、歴史も文化も破壊するのだ。征服者は、自分たちが君臨するためにそうする。
オーストラリアもまた白人の国ではなかった。
しかし、イギリスから島流しにされたアングロサクソンが先住民族だったアボリジニを大量虐殺して、白人の国「オーストラリア」になった。アボリジニもその90%が虐殺されたと言われている。
アボリジニの人口は100万人ほどだったのだが、最終的には約7万人近くにまで抹殺されていた。
その頃のアボリジニは、スポーツとして狩りの対象にされていた。信じられないかもしれないが、白人たちは先住民を「獲物」にしていたのである。また、害虫駆除のつもりだったのか、アボリジニの井戸に毒を入れたり、孤島に置き去りして餓死させたりしていた。
殺して殺して殺しまくっていたのである。オーストラリアにおいてのイギリス人は「大虐殺者」なのだ。ひとつの民族、ひとつの人種を、丸ごと大虐殺して歴史から消してしまうという歴史を日本人は信じることができないかもしれない。
しかし、それはいつの時代でも「普通に起きていること」だ。
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弱体化した民族は他民族にとっては「獲物」
弱い民族は一方的に駆逐され、歴史から抹殺される。そんな民族が生きていたという痕跡すらも消し去られる。そうやって歴史は無数の弱小民族を消してきた。長い歴史の中で、記録すらされないで消えていった民族もあるだろう。
人類の歴史を長いスパンで見ると、淘汰された民族は夥しいリストになる。言葉も消され、伝統も、文化も、すべて根絶やしにされる。
衰退した民族が、そのまま「保存」されるのはあり得ない。衰退した国家には強大な国家が入り込み、強大な国家が衰退した民族を駆逐していく。非常に荒々しい手段で、強制的に歴史から消していく。
いったん衰退が確実となると、それが故に他民族がその真空を埋めていく。長期化する内戦は、その民族に大きな危機をもたらすのである。もしかしたら、それが絶滅のきっかけになる可能性もある。
弱体化した民族は他民族にとっては「獲物」なのである。
現代文明の下で、私たちはすでに人類が石器時代のような弱肉強食の社会ではなくなったと考えている。しかし人類の歴史は、いつでも弱肉強食の社会に戻る危うさを秘めている。
「人類は進化したのだから、もう大虐殺なんかしないだろう」と能天気に思っているのであれば、中国を見てみればいい。民族抹殺は現在進行形で起きている。
チベットはどうなっているのか。ウイグルはどうなっているのか。これらの国を見ると、今もなお弱肉強食の歴史が刻々と進行しているのが分かる。にも関わらず、世界中が見て見ぬふりをして放置しているのである。
チベットは国際社会に見捨てられる中、今も大虐殺の中で生きている。ウイグルの弾圧も徹底して続いている。このままでは、ウイグル人の自治区も文化もすべて抹殺されてしまいかねない状況となっている。
さらに中国はここにきて内モンゴル自治区にも侵略の手を伸ばしている。(ブラックアジア:民族浄化の嵐が吹きすさぶ。習近平のチャイナ・ドリームは実現するだろうか?)
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人類の歴史は虐殺の歴史だ
中国は弱体化した民族がいたら、それを見逃さない。チベットやウイグルで起きている悲惨な現実は、様々な場所で再現される可能性があるのだ。世界中がそれを知っているのに止められない。
弱体化した民族が住む国土は、次々に侵食されていく。衰退を放置していれば、その民族は危険な事態を招く。
弱いと見なされた民族は、「周辺国に滅ぼされる」可能性が高い。今までの人間の歴史がそうだったのであれば、必然的にそうなってしまうと考えた方が自然だ。国家の力関係とは、暴力の力関係である。
膨張政策を実行し続ける中国は、今や南沙諸島でベトナムやフィリピンの主権をも脅かそうとしており、尖閣諸島にも沖縄にも侵略の手が伸びている。もし、日本が弱体化しているのであれば、日本もまた弱肉強食の歴史の渦に巻き込まれていく。
今後10年の日本は、明らかに「侵食されていく国」となっていくだろう。
日本の少子高齢化は異常なまでのスピードで突き進んでいるし、政治家も国民も少子高齢化に本気で対処しようとしない。少子高齢化によって日本は萎縮し、国力を低下させ、国際的影響力も減退していく国になる。
さらに高齢化によってイノベーションにも遅れ、軍事力も弱体化してしまうことは避けられない。
そうであれば「侵略」が深刻化していくというのは、誰が考えても分かるはずだ。中国・韓国・北朝鮮はもとより、ロシアもアメリカも弱体化していく日本を見て領土的野心を剥き出しにしないとも限らない。
日本は今後10年で存続の危機に立たされてしまうような目に遭う可能性を日本人はまったく考えていないようだ。
敵対勢力に対抗する力がなくなってしまえば、日本がどんな長く立派な歴史があったとしても、かつてのインカ帝国のように完全に歴史から抹殺されてしまうだろう。「平和を叫べば侵略されない」とか「話し合えば分かる」とか「憲法第九条があるから侵略されない」とか、馬鹿なことを思っているようであれば日本も終わりだ。
人類の歴史は虐殺の歴史だ。日本人はもっと歴史をきちんと学んだらどうなのか。歴史はいかに血まみれで残虐なのかを日本人は学ぶべきだ。

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