◆タイでは、野良犬も素性の知れない旅行者も同じ扱いだった

◆タイでは、野良犬も素性の知れない旅行者も同じ扱いだった

日本では野良犬が街をさまよっている光景はほとんど見ないが、海外にいくと、タイには野良犬がうろうろしていて危険なこともある。

タイではバンコクにも路上で野良犬が寝ていることも多く、スクンビットではすっかり人気になった牛のような模様の犬が秘かに人気になったりしたこともあった。

可愛らしい犬ならそれはそれで街の風物になるのだが、中には明らかに皮膚病を持った犬や、身体中が汚れてうっかり目が合うと牙を剥き出しにしてくる犬もいる。

タイの野良犬は狂犬病のワクチンを受けていないので、未だに犬に噛まれて狂犬病になる人もいる。ちなみに狂犬病は一度発病すると致死率100%であると言われている。

タイにいて私もひやりとしたことは何度もある。オンヌット地区の路地は野良犬が非常に多くて歩いていると後ろから何匹からの野良犬が私を窺いながら後を尾けてきていた。

ゆっくりと歩きながら、近くの店に入って犬をやり過ごして表に出た。走れば恐らく追いかけられただろう。ただ、バンコクで暮らす人たちによれば、こうした野良犬は滅多に人を噛まないということだ。

野良犬が人間を襲うというのは滅多にない

野良犬が次々と人間を襲ていたら、逆に放置されていることはない。だから、タイの野良犬はそれほど神経質に警戒する必要もなさそうだ。

犬好きの人であれば、野良犬であってもつい近づいて頭を撫でたりエサを上げたりしようとするし、実際に外国人でも野良犬にそうやってエサを上げたりしている人もいる。

屋台を引いている人の中にも、野良犬にエサをやっている人もたくさんいるので、そういった犬は野良犬のくせに恐ろしく太っていたりする。

よく見ていると、タイ人は野良犬との付き合い方がとてもうまい。距離感を持っている。のめり込むように可愛がることもなければ、完全に無視するわけでもない。タイ人独特の自然体でそのまま受け入れているようだ。

タイの野良犬は気候が暑いせいか、それとも国民性(国犬性?)でもあるのか、日本のようにしゃきっとしていない。昼間は暑さに負けて脱力してしまっている。

この野良犬が街をさまよい歩くのは真夜中なので、その性質は人間の野良犬たちとよく似ている。社会に飼われていない存在は、真夜中が好きなのだろうか……。

ヤワラーの旅社(安宿)の前にも野良犬が寝ていることも多いが、昼間はいつ見ても地面に手足を投げ出すようにして寝ていて、その恰好はなかなか微笑ましい。

そんな犬の姿を必死で写真を撮っている旅行者もいるので、あまりに無防備に寝ているタイの犬は、もしかしたらタイ独特の文化を身につけているのかもしれない。

白人(ファラン)などは、超が付くほど犬が好きな人も多いので、わざわざ自分から近づいて撫で回している人も見かける。本当は狂犬病のこともあって危険なのだが、もちろん多くの場合は何も起こらない。

スクンビット通りで、いつも寝てばかりいる野良犬。今はどうしているのだろう。まだ生きているのだろうか……。

ラーマ9世が愛した野良犬の子「トーンデーン」

現在、タイにはおおよそ30万匹の野良犬がいて、そのうちの半分は首都バンコクに「住んでいる」と言われている。

日本が野良犬はゼロに近いことを考えると、バンコクの野良犬の15万匹というのは、相当な数であることが分かる。

タイの野良犬が殺処分されずに自然体で放置されるようになったのは、仏教の影響と、タイで敬愛されている現在の国王ラーマ9世の影響が大きいと言われている。

仏教文化はもともと不要な殺傷を好まない文化である。それでも犬はタイではあまり好かれる動物ではなかったので、殺処分は普通に行われていたようだ。

しかし、1998年あたりからタイの野良犬に対する扱いが変わって来たという。

ラーマ9世がの病院の視察の際、野良犬が殺処分されることを聞いて、それを中止させたのがきっかけだ。国王は、その野良犬が生んだ子犬を引き取り、その子犬に「トーンデーン」という名前を付けて宮中で可愛がった。

国王と言えば、血統書付きの由緒ある犬を飼ってもおかしくはない。しかし、国王が選んだのは殺処分されかけていた雑種の野良犬が生んだ子犬だった。

こうした優しさがタイの国民を感動させて、タイ人は大きな影響を受けたようだ。この「トーンデーン」の物語は書籍や映画にもなって、タイでは知らない人がひとりもいない犬だ。

それからタイでも野良犬に暖かい目を向けたり、犬を飼う人も増えたという。そうしたこともあるので、タイでは野良犬が今日も放置されていて、あちこちで脱力しながら寝ている。

また、ワット(寺院)も病気になった犬を積極的に保護して皮膚病にかかった犬が寺の境内で静かに丸まっていたりする。

さらに野良犬を保護する「フアヒン・ドッグ・シェルター財団」というのもあって、タイからは狂犬病が減っていると言われている。

国王とトーンデーン。国王と言えば、血統書付きの由緒ある犬を飼ってもおかしくはない。しかし、国王が選んだのは殺処分されかけていた雑種の野良犬が生んだ子犬だった。

狂犬かもしれない野良犬でもそのまま受け入れる

東南アジア一帯は2004年にスマトラ沖大津波で甚大な被害を受けたが、タイも西側の海岸が被害に遭って多くの人が犠牲になった。

このとき、警察は大量の犬を引き連れて人命救助に当たったのだが、このときに警察が連れていたのは引き取った野良犬を警察犬として訓練した犬であったとも言われている。

野良犬とも共存しようとしているタイらしい一面は大いにニュースになっていた。

ただ、あまりにも野良犬も増えすぎているという側面もあって、再び野良犬との共存がテーマになりつつあるようだ。バンコクもさらに都市化していくと、野良犬が住めるところもどんどん減っていくことになるのかもしれない。

それでも、タイ人と野良犬は近すぎず、離れすぎず、適度な距離感で付き合っていきそうな気がする。

タイ人の野良犬の扱いを見ると、よくよく考えればタイ人は旅行者もまた同じように接しているような気もしなくもない。

どんな人種や人間であっても拒絶せずに受け入れ、かと言って深入りもせず、付かず離れず共存していく。タイ人というのはそうした気質がある。

だから、このタイの距離感に心地良さを感じて、タイに沈没してしまう人もたくさんいるのだろう。

タイのワット(寺院)では、野良犬を受け入れて飼うわけでもなく、放置するわけでもなく、「ほどほどの距離感」で住まわせている。

2015年10月、パタヤで54歳のロシア人がタイの売春女性に貯金60万バーツ相当をすべて盗まれ、ホームレスになってジョムティエンのグラタントーン寺院に流れ着いたという。

日本であればすべてを失った白人がホームレスになって寺に紛れ込んだらすぐに警察に通報するのだろうが、この寺院はこの白人をそのまま何も言わずに「住まわせた」という。

結局、彼は3日後に自殺してしまうのだが、素性も分からず金もない「野良犬」のような白人をそのまま受け入れるというのがなかなかタイらしいと思わないだろうか。

タイでは野良犬も素性の知れない旅行者も同じ扱いなのだと、私はニヤリとしたものだった。タイ人の気質は代わっていないようだ。狂犬かもしれない野良犬でもそのまま受け入れるタイという国が好きだ。

タイでは野良犬も素性の知れない旅行者も同じ扱いなのだと、私はニヤリとしたものだった。タイ人の気質は代わっていないようだ。狂犬かもしれない野良犬でもそのまま受け入れるタイという国が好きだ。

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