「犯罪者御用達銀行」だったカンボジアの銀行がとうとうライセンス剥奪された

「犯罪者御用達銀行」だったカンボジアの銀行がとうとうライセンス剥奪された

フイワン・ペイが、とうとう銀行ライセンスを取り消されたのが2025年3月だった。フイワン・ペイの親企業であるフイワン・グループは、違法なオンラインマーケットプレイスに関与し、マネーロンダリングや詐欺などの不正取引をフイワン・ペイを介しておこなっていた。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

フイワン・ペイのライセンス取り消し事件

暗号通貨を扱うアンダーグラウンドの人間の中で、もっともよく知られていた銀行がある。カンボジアの新興銀行「フイアン・ペイ」だ。

このフイワン・ペイが、とうとう銀行ライセンスを取り消されたのが2025年3月だった。カンボジア国立銀行が銀行免許を剥奪したのだが、その理由は「規制当局が定めた既存の規制および勧告に違反したため」と発表されている。

フイワン・ペイの親企業であるフイワン・グループは、違法なオンラインマーケットプレイスに関与し、マネーロンダリングや詐欺などの不正取引をフイワン・ペイを介しておこなっていた。

具体的に言うと、フイワン・グループが運営するプラットフォームが、世界最大級の違法オンラインマーケットプレイスとして知られるフイワン・ギャランティである。

ブロックチェーン分析企業エリプティックによると、フイワン・ギャランティの取引高は240億ドル(約3兆7500億円)に達し、その大部分が詐欺やマネーロンダリングに関連していた。

実のところ、フイワン・ペイは「犯罪者御用達銀行」だったのだ。

誰がどう見ても怪しい銀行だが、この銀行の幹部にはカンボジアの独裁者フン・センの一族も在籍していたので、犯罪資金の利権をフン・セン一族も吸い取っていたというのがもっぱらの噂だ。

しかし、さすがに国際的にも圧力がかかり、2025年3月6日の発表では、フイワン・ペイのTRONアドレスにあった2962万USDTがテザー社によって凍結されたこともあきらかになっている。

カンボジア国立銀行は、このような違法行為を放置できなくなってしまった。そこでとりあえずはフイワン・ペイの銀行業務を停止させることで規制の強化を図ったという形である。

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暗号通貨取引の90%が犯罪に絡んだものだった

フイワン・グループは、カンボジアを拠点とする企業であり、フイワン・ペイはその金融部門を担う子会社である。このグループは、表向きには決済アプリや暗号資産取引所を運営する合法的な企業として活動しているが、その実態は極めて不透明で不正に満ちていた。

エリプティックとチェイナリシスの調査によると、フイワン・グループのプラットフォームでおこなわれる暗号通貨取引の90%以上が、マネーロンダリング、ギャンブル、カジノ関連の不正取引に利用されていたとされる。

そこが壊滅したのだから、アンダーグラウンドの影響は甚大だ。

フイワン・ペイは、カンボジア国内だけでなく、国際的な怪しい暗号資産取引や決済サービスをも引き受けていた。ライセンス取り消しにより、フイワン・ペイの顧客は資金へのアクセスを失い、預金や取引中の資産が凍結されるリスクに直面している。

特に、テレグラムを介した違法マーケットプレイスで活動していた犯罪者たちが資金の引き出しが不可能になり、パニックが広がっている。

Xの投稿では、「史上最大の違法オンラインマーケットの金融部門が崩壊した」との声が上がり、利用者間の混乱が起きている。フイワン・ペイのライセンス取り消し後、カンボジアの暗号資産市場では取引量が急減した。

これにより、何も知らないでフイワン・ペイを普通に利用していた一般人も巻き添えになった。ちなみに、カンボジアでは預金者の保護制度はない。

今後、フイワン・ペイが規制違反を繰り返していた事実が明るみに出たことで、他の銀行や金融機関に対する監視が強化される可能性が高いので、他の銀行の預金者も戦々恐々としている。

今、利用者のパニックは、SNS上で拡散する情報によってさらに増幅されており、正確な情報が不足する中で混乱が続いている。もともと、カンボジアは信用のない国なのだが、これによってますます銀行への信頼が失われ、その信頼の回復には時間がかかることが予想される。

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北朝鮮のハッカー集団「ラザラス・グループ」

フイワン・グループの主要サービスであるフイワン・ギャランティは、今もテレグラム上で詐欺師向けのマネーロンダリングサービスを提供している。このプラットフォームでは、数千人のベンダーが、盗まれた個人情報、マネーロンダリングツール、詐欺に必要な技術を提供しているようだ。

その取引高は240億ドルに上る。特に、「ピッグブッチャリング詐欺」と呼ばれる手口に使用される資金の大部分がフイワン・ギャランティを経由しており、被害者が長期間にわたって信頼を築かれたあとに資金を奪われるケースが多発している。

さらに、人身売買に関連する電気手錠の販売も確認されており、犯罪の深刻さが浮き彫りになっている。

北朝鮮のハッカー集団「ラザラス・グループ」も、盗んだ暗号資産のロンダリングに、このフイワン・ペイを好んで使っていた。そのため、2024年7月にテザー社は北朝鮮による盗難資金に関連するウォレットがフイワン・ペイのアカウントに資金を送っていたことを理由に、そのアカウントを凍結した。

この事件は、フイワン・グループが国際的なサイバー犯罪組織と連携している証拠とされており、北朝鮮が暗号資産を介して制裁を回避する手段として利用していた可能性を示している。

エリプティックの報告では、フイワン・グループの取引に北朝鮮関連の資金が含まれていることが確認されており、その規模は数百万ドルに及ぶ。

フイワン・グループの活動は、真っ黒な犯罪組織としての特徴を明確に持つ。独自のステーブルコイン「USDH」を発行し、従来の規制を回避する仕組みを構築したことも、その意図を裏づけている。

USDHは、テザーのような既存のステーブルコインが凍結されるリスクを避けるために設計されており、フイワン・グループのユーザーが不正資金を自由に移動させるためのツールとして機能していた。

フイワン・グループは、カンボジアの緩い規制環境を利用して犯罪的な活動を展開してきたことがよくわかる。

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自分の預金まで巻き添えで停止されるかも

カンボジアの銀行セクターは、国内銀行19行と外国銀行35行から構成されており、合計54行が営業をおこなっている。外資規制が極めて緩いので、多くのアジア系銀行が多く進出している。

カンボジアの銀行セクターの総資産のうち、44%を外国銀行が占めており、国内銀行のシェアを上回っている状況だ。

外国銀行の進出は、カンボジアの経済成長と密接に関連している。2010年代以降、カンボジアは製造業や観光業を中心に急速な経済発展を遂げており、それに伴い金融ニーズが増加した。

外資系銀行は、高い金利やドル建て預金の提供を通じて市場に参入し、特にアジア地域からの投資を呼び込んでいる。

たとえば、カナダ・ナショナル銀行の子会社であるABA銀行は、2020年にカンボジア最優秀銀行に選ばれ、年利4.75%のドル建て定期預金を提供している。また、マレーシアのパブリック銀行も安定した経営で知られ、シェア率5.4%を誇る。これらの銀行は、カンボジアの緩い規制を活用し、迅速に市場シェアを伸ばした。

外資規制が緩いことは、競争を促進し金融サービスの多様化をもたらすが、同時に不正行為やマネーロンダリングの温床となるリスクをはらんでいる。フイワン・ペイの事例は、まさにこの脆弱性を象徴している。

カンボジア国立銀行は、銀行セクターの監督を強化する方針を示しているが、規制の実効性には疑問が残る。下手に何も知らないで適当に預金を預けたら、フイワン・ペイのようにライセンス剥奪で自分の預金まで巻き添えで停止されるかもしれない。

もし、カンボジアでどこかの銀行に自分の預金を預けなければならなくなったら、どこしたらいいのだろうか?

カンボジアでもっとも大きな銀行は、アクレダ銀行である。この銀行は、カンボジア国内の銀行業界で最大のシェアを持ち、貸付残高の54.6%、預金残高の58%を占めている。私なら、どうしても預金するという話になったら、アクレダ銀行にする。

ただ、カンボジアの銀行セクター全体が預金保険制度を持たないため、万が一の倒産時には預金が全額失われる危険性がある。カンボジアというのは、しょせんそういう国である。

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