日本で月給制から週給制の流れが広がったとき、何に気づかなければならないのか?

日本で月給制から週給制の流れが広がったとき、何に気づかなければならないのか?

企業にとって有利ということは、働く人々にとっては不利な環境なのだ。景気変動の影響を直接受けやすくなり、少しでも景気が悪くなったり、悪くなる兆候が見えたりすると、クビを切られやすくなり、仕事が見つかりにくくなる。週給制が定着すると、経済的苦境に落ちていく人は増えるだろう。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

「週給制」になっていくのか?

今、日本は正規雇用でも非正規雇用でも「月給制」になっているのだが、資本主義は「従業員は使い捨て」の方向に走っているので、いずれ「月給制」よりも「週給制」になっていくようにも思える。

かつて労働者は「一生、同じ会社が当たり前」だったのだが、1990年代後半から非正規雇用が増え、リストラも増え、従業員に対してドライな扱いをする企業が増えた。

従業員は、景気が悪くなったり、効率化が進んだり、業態が変わったりすると、とたんに従業員が要らなくなるので、それなら簡単にクビを切れる従業員のほうがメリットがあるのだ。

そうなると、月単位ではなく、週単位で給料を払って辞めさせることができるほうが微調整が効いていい。企業がそう考えるのであれば、いずれどこかの段階で月給制から週給制になっていったとしても不思議ではない。

昭和の時代の日本企業の多くは、終身雇用制度と年功序列型賃金体系を採用し、月給制を基本としてきた。懐かしいと思う人も多いだろう。今は、経済のグローバル化や技術革新、労働市場の流動化などの要因により、この伝統的なシステムは忘れ去られようとしている。

労働者側の視点からも、フリーランスやギグワーカーが増加しており、従来の月給制では対応しきれない多様な働き方が広がっている。特に若年層を中心に、短期的な仕事や複数の仕事を掛け持ちするスタイルが増加している。

要するに「短く働いて、さっさと給料をもらって終わり」という形が増えている。日雇いは日給が基本だが、だいたいの仕事やプロジェクトは数ヶ月くらいのスパンなので、それならば日給よりも週休のほうが使い勝手がいい。

アメリカのブルーカラーの仕事は週給制のことも多いのだが、企業が「労働者の使い捨て」を進めれば進めるほどそうなっていくのだ。逆に、会社にとってなくてはならない幹部候補、経営幹部、技術者などは、逆に年俸になって会社に定着してもらうようになる。

大切な人材は年俸制に、どうでもいい使い捨ての人材は週給制に。そういうことになっていくのではないか。

デリヘル嬢の多くは普通の女性だった。特殊な女性ではなかった。それは何を意味しているのか……。電子書籍『デリヘル嬢と会う:あなたのよく知っている人かも知れない』はこちらから。

働く人々にとっては不利な環境

週給制への移行が実現した場合、日本の労働環境は大きく変わっていくだろう。企業にとっては人件費の柔軟な管理が可能となって便利この上ない。人工知能やロボット技術の発展により、短期的な労働力の需要が増加する中で、週単位での雇用調整が容易になる。

しかし、この潜在的な変化は同時に多くの課題も生み出す。労働者、特にブルーカラー労働者にとっては、週ごとに次も引き続き契約してもらえるのか、それともクビを切られるのか、不安定さが増す。

週給制の下では、長期的な雇用保障が弱まる。しょっちゅう、週単位でクビを切られると、収入の不安定さが増す恐れがある。また、社会保障制度や福利厚生の面でも、従来の月給制よりも劣る。

企業にとって有利ということは、働く人々にとっては不利な環境なのだ。景気変動の影響を直接受けやすくなり、少しでも景気が悪くなったり、悪くなる兆候が見えたりすると、クビを切られやすくなり、仕事が見つかりにくくなる。

景気が悪くなると、すべての企業がいっせいにクビを切って、いっせいに新規採用を絞るので、そんなことになる。

そのため、週休制が定着すると、人々は月単位での収入計画が立てにくくなり、住宅ローンや各種保険料の支払いなど、長期的な金銭的コミットメントに対応することが困難になるはずだ。

それに、週給制が当たり前になると、労働市場の流動性は高まるかもしれないが、毎週のように新しい仕事を探して、新しい環境のところに向かって、仕事をしないといけなくなるのでストレスが高じる。

若い人たちにとっては、より短期的な視点で仕事を選択できて、さまざまな経験ができて、スキルアップや転職の機会を増やすことができると考えるかもしれないが、年齢がいけば、いつまでも使い捨てで仕事も落ち着かないことになる。

体調不良時でも無理して出勤してしまう傾向が強まるだろう。健康リスクも高まっていくはずだ。

鈴木傾城が、日本のアンダーグラウンドで身体を売って生きる堕ちた女たちに出会う。電子書籍『暗部に生きる女たち。デリヘル嬢という真夜中のカレイドスコープ』はこちらから。

経済的な安定はそこにはない

かつての終身雇用の時代、人々は会社に守られてはいた。不景気だろうが、病気だろうが、滅多なことではクビにならないので、安心して働けたし、ライフプランは立てやすかったし、住宅ローンを組むにしても安心だった。

しかし、その代わりに、濃密な人間関係で苦しんだり、滅私奉公を強いられたり、有能だろうが無能だろうが同じ給料だったり、不本意な仕事を押しつけられても耐えるしかなったり、多くの弊害もあった。

「日本経営の特徴だった終身雇用に戻せ」という人もいるのだが、終身雇用が絶対的に良かったわけではない。

そういう意味では、自分のスキルで仕事を終わらせて対価がもらえて、自分の好きなときにさっさと辞められる非正規雇用や短期労働やギグワークスは、それはそれで良い環境だと考える人は大勢いる。

その代わり、経済的安定はそこにはない。生活の保障もない。スキルや実力がある人でも病気になったりすると、一気に使い捨てとなって次も雇われることがなくなるので、どん底に落ちる。

ほとんどの人は「普通の人」である。普通の人は企業にとっては使い捨て要員となるので、正社員から非正規雇用へ、月給から週給へと移行させて、景気の悪化やビジネス環境の変化が起きたらいつでもクビを切れるようにするようになる。

今の日本企業は海外企業との激しい競争にさらされており、より柔軟な雇用形態を求める傾向が出はじめている。従業員に対しては、需要の変動に応じて迅速に雇用を調整する必要性が高まっている。

代わりがいくらでもいる仕事をしている従業員に対して、月単位ではなく週単位での給与支払いが資金管理上有利になるのであれば、企業はいずれそうするだろう。

日本には社会の裏側を流れ流れて生きる女たちがいる。路上で男を待つ女、日本全国を流れて性産業で生きる女、沖縄に出稼ぎに行く女、外国から来た女、場末の風俗の女……。 電子書籍『野良犬の女たち: ジャパン・ディープナイト』はこちらから。

経済防衛が必要になる合図

週給制の移行は、結局のところ「使い捨て労働の次のステップ」なのだ。

「もう、労働で安定を手に入れられると思うな」という世界である。現代の弱肉強食の資本主義では、労働環境は悪化していくばかりだが、月給制から週給制の移行もまた、そのひとつなのだ。

労働者の権利も守られない。企業側の都合で、いきなり解雇されたり、労働時間を削減されたりするようなケースが増加する恐れがある。

ストライキやボイコットをしたとしても、週給制なのであっさりクビを切られて、会社はすぐに別の人間を雇って何ごともなかったように事業を続ける。

現在の健康保険や年金制度は、月給制を前提として設計されているが、週給制への移行が進んでいくと、必然的に健康保険も年金制度も崩壊していくのかもしれない。政府は年金制度が今後も破綻しないみたいなことを言っているが、今どきそういうのを信じている人もいないはずだ。

人口動態的にも、労働形態的にも、年金制度はいずれ破綻するか、破綻しなくても取るに足らない金額のものになっていく可能性がある。そうなると、日本人の老後は悲惨なものになっていくはずだ。

私自身はもう日本の政治や社会に、何か期待するような段階は終わっていると思っている。日本人の経済的苦境は今後ますます悪化していく一方であると確信しているので、自分で生き残る方向に視点を向けている。

おそらく、今後は多くの人が日本の政治や経済に何かを期待するのをやめて、自らの力で生き抜く道を模索せざるを得なくなる。国や企業に頼らず、個人の能力と創意工夫で収入を確保し、生活の質を維持する必要性が高まる。

このような変化は、個人の自立性と責任を高める一方で、社会の分断や格差の拡大といった深刻な問題を悪化させていく。だが、多くの日本人にとって、これは避けられない現実である。

もし、月給制から週給制の流れが広がったとき、「ああ、さらに日本経済は下に落ちていくんだな」と早めに気づいたほうがいい。ますます、経済防衛が必要になってくる合図だからだ。

ブラックアジア会員募集
社会の裏側の醜悪な世界へ。ブラックアジアの会員制に登録すると、これまでのすべての会員制の記事が読めるようになります。

ブラックアジア会員登録はこちら

CTA-IMAGE ブラックアジアでは有料会員を募集しています。表記事を読んで関心を持たれた方は、よりディープな世界へお越し下さい。膨大な過去記事、新着記事がすべて読めます。売春、暴力、殺人、狂気。決して表に出てこない社会の強烈なアンダーグラウンドがあります。

経済カテゴリの最新記事