
厚生労働省が平均寿命に関して報告しているが、日本人の平均寿命は男性が81.09歳、女性が87.14歳となっており、あいかわらず日本人の平均寿命が高いまま維持されていることが確認された。だが、人間には自立した生活を送れる期間というのがあって、男性は71.19歳、女性は74.21歳が健康寿命である。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
問題は健康寿命なのだ
2024年7月26日、厚生労働省は平均寿命に関して報告をおこなっている。2020年の日本人の平均寿命は男性が81.09歳、女性が87.14歳となっており、あいかわらず日本人の平均寿命が高いまま維持されていることが確認された。
女性の平均寿命が87.14歳というのは世界1位であり、これが平均であるということは逆に言えばそれ以上生きる女性も大勢いるわけで、90歳から100歳まで生きるのが当たり前の時代がやってきていると言えるだろう。
男性も81.09歳歳だから90歳近く生きる男性も多くなる。つまり、どちらにしても「人生100年時代」は現実のものになっているということでもある。
だが、人間は100歳まで健康でいられるわけではない。
人間には自立した生活を送れる期間というのがあって、その期間を「健康寿命」と呼ぶのだが、日本人の例でいくと、男性は「71.19歳」、女性は「74.21歳」が健康寿命である。
このあたりは個人差があるのだが、だいたいにおいて70代後半からは、ほとんどの人が何らかの介護が必要となる。100歳まで生きるとすると、20年から30年近くは誰かに面倒を見てもらいながら生きる人生となるのだ。
子供や家族が面倒を見てくれるのであればいいが、子供がいなかったり、子供に介護の意志がなかったり、そもそも介護にかかる費用が出せない場合はどうするのか。
2019年6月3日。金融庁の金融審議会は『高齢社会における資産形成・管理』の報告書を出しているのだが、ここで「年金だけでは老後の資金を賄うことができないため、95歳まで生きるには夫婦で2,000万円の蓄えが必要になる」と述べて国民を動揺させたのは記憶に新しい。
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現役世代が受給世代を支える
ほとんどの高齢層にとって、公的年金は老後の人生を支える重要な生命線である。しかし、この年金制度が揺れている。
なぜか。今の日本の年金制度は、「現役世代が受給世代を支える」という仕組みになっている。そのため、高齢者が増えて子供が減る「少子高齢化」が進むと、現役世代の負担があまりにも重くなり過ぎるからだ。
結局、政府は2004年に現役世代が負担する保険料率の上限を決めて、「支給額を調整する」という施策を取り入れた。
ここでは「調整」という言葉に注意して欲しい。現役世代が払えないから支給額を「調整」する。それは、言うまでもなく「支給水準を下げていく」ということに他ならない。
この過程で政府は「年金は100年安心」と謳ったのだが、この安心というのはこういう意味だったのだ。
「年金が足りなくなったら支給額を下げて、100年持つように調整する」
足りない財源の中で年金支給が100年持つように「調整」したというのは、政府は何かマジックを使ったわけでも何でもない。単に支給額を「マクロ経済スライド」だとか言って減らしただけに過ぎない。
高齢者が増えて長生きするようになったので現役世代の負担が高額になってしまう。そこで現役世代の負担に上限をつけて受給者の支払いを減らした。それだけの話だ。
だが、下げると言っても際限なく下げて年金が雀の涙ほどの支給額になったら、年金制度は機能していないも同然と化す。そのため、政府は「所得代替率50%は維持する」と歯どめをかけた。この意味は「現役世代の手取り収入の50%を年金として受け取れる」というものだ。
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「所得代替率50%」は公的年金で暮らせるギリギリの額
「所得代替率50%」と政府が言ったのは、それが「公的年金で暮らせるギリギリの額」だと政府が考えたからだ。しかしながら、その「所得代替率50%」も本当に維持できるのかどうかなどわからない。
日本は少子高齢化がもっと進むのはわかりきっているのだが、そんな中で社会保障費の増大していけば、ますます年金財政は逼迫する。
年金だけでなく、政府が負担する医療費も、暮らせなくなった高齢者の生活保護費も「爆発的」に増えていくので、遅かれ早かれ「所得代替率50%」も見直しになるとしても誰も驚かない。
そして、日本政府は今になって「年金だけでは老後の資金を賄うことができない可能性がある」と言い出しはじめ、「2,000万円を用意しろ」と国民の自助努力を促しているのだ。
ところで、政府の言っているこの2,000万円だが、この数字は金融資産を保有する60代の世帯ではどのように見えるのだろうか。
金融経済教育推進機構の2024年調査によると、60代の金融資産保有世帯の平均保有額は2,588万円であり、中央値は1,200万円となっている。これを見る限り、政府が示す2,000万円という金額は「平均的には達成可能な水準」に思えるかもしれない。
ところが中央値を見ると、実際には半数以上の世帯が1,200万円以下しか保有していないことになる。つまり、2,000万円の蓄えを持つ60代世帯は、けっして一般的ではないのだ。
中央値が1,200万円であるということは、むしろ政府の2,000万円という試算が現実的ではない可能性を示唆している。さらに、持たざる世帯の実態を考慮すると、老後資金不足の深刻さが浮き彫りになる。
この状況は「不意打ち」だろうか?
政府は「年金だけだと人生100年時代には対処できないから2,000万円用意しろ」と国民に言うのだが、日本国民の大半は60代で2,000万円の資産を持つというのは、かなり難しいことなのだ。
しかし、このような状況になるというのは、私たちにとっては「不意打ち」だろうか。いや、不意打ちではない。
年金がこのような状況になってしまったのは、少子高齢化が原因なのだが、少子高齢化についてはすでに20年以上も前から「放置していたら日本最悪の問題となる」と多くの識者が警鐘を鳴らしていたはずだ。
日本の政治家と官僚はバブル崩壊の処理を誤って不況を30年も長引かせたし、その結果として若者が超就職氷河期の中で次々と貧困に落ちていく中でも「自己責任」だと言って突き放してきた。
その結果、その「少子高齢化」によって年金制度がきしむようになって、国民は政府に「どういうことだ」と怒っているのだが、少子高齢化を放置したら年金財政は逼迫することくらいは、誰でも想像できたはずだ。
1. 高齢者が増えて子供が減る。
2.現役世代が高齢者を支えられなくなる。
3. 社会保障費の増大に政府が苦しむ。
4. 年金額が削減され、受給年齢も引き上げられる。
5. 年金だけで生活できなくなる。
べつに難解な話ではない。「少子高齢化を放置したらこうなります」と言われてきたことが、そのまま起きているだけである。
本来であれば政治家全員が「少子高齢化対策議員」になって挙国一致で対策を打って実行しなければならないのだが、日本ではそのような動きはまったく起きていない。
また、日本国民も日本の現状に危機感を抱こうともせず、「人口が減ってもロボットに仕事させればいい」だとか「人口は8,000万人くらいでちょうどいい」とか「先進国は人口減が当たり前だから受け入れるべき」とか、他人事のように捉えていた。
その結果、年金制度が揺らぎ、65歳以上の高齢者3461万人の生活が危機に瀕していこうとしている。「2,000万円を用意しろ」と政府は言っているが、ほとんどの高齢者はそんな額を用意できないまま老いていくことになる。
金がいきなり沸いて出てくることはない。強烈なまでの「高齢者貧困」が、これからの日本社会を覆い尽くす。そして、高齢者を支える若者も負担増にのたうち回る。
平均寿命? 国がボロボロになったら今後は一転して下がっていくことを私は言っておきたい。国富が消えたら高齢者の寿命も延ばせなくなる。そんなのは当然の話でもある。

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