ここ2年、ほとんどタイ古式(トラディッショナル)マッサージを受ける機会がなかったのだが、街を歩くと至るところにタイ・古式マッサージの看板が目につくので、久しぶりにマッサージを受けてみることにした。
私は運動をほとんどしない上に、ここ10年は座りっぱなしでいることも多くなった。そのせいか、持病と言ってもいいくらいひどい腰痛を抱えている。一年に一度は腰が痛くて歩けなくなるほどだ。「爆弾」を抱えているような気持ちになる。
以前は東南アジアをさまよい歩きながら、暇があればマッサージを受けていた。特にタイはトラディッショナル・マッサージが林立していて、どこに入っても安くて技術力も高いので、マッサージは日課のようになっていた。
パタヤに常在している時は毎日、マッサージ店を変えて巡り歩いていたくらいだ。
タイの安さに慣れていると、日本のマッサージ店の料金の高さに臆して急に行かなくなってしまうのだが、それでも身体が求めている時は古式マッサージが恋しくなって足が向く。
この日も、目についた雑居ビルの二階のマッサージ店に向かって「本当に腰が凝っていて技術力のある方にお願いしたい」と言って、マッサージをお願いした。タイで何度も古式マッサージを受けていたという話もすると、この店のナンバーワンの技術を持った女性を付けてくれると言ってくれた。
臙脂《えんじ》色の服を着た女性は30代の短髪で物静かな女性だったが、古式マッサージ特有の技を次々と繰り出してくれて「ああ。これだ」と私は久しぶりに味わう心地良さに酔いしれた。
足から始まり、身体をねじられ、腕を引っ張られ、セン(日本で言うところのツボ)を押さえつけられ、なすがままにされていると身体がほぐれて暖かくなり、次第に眠くなって意識が消えそうになる。
この感覚が好きだったのだと思い出した。