フランス女性はヨーロッパの中でも特にタバコが好きで、世界中で禁煙運動が広がっても「タバコはフランスの文化だから絶対に廃れない」とフランス人が頑なに言っていたのが懐かしい。しかし、そんなフランスでさえも喫煙する人が急激に減った。(鈴木傾城)
タバコを吸わない決断をする人が多く出てきている
タバコを吸う人がめっきり少なくなった。20年ほど前は東南アジアでも夜の女たちは当たり前にタバコを吸っていた。
タイ・バンコクの歓楽街であったパッポンのゴーゴーバーやオープンバーにいた女たちも普通にタバコを吸っていて、若い女性が物憂い表情でタバコの煙を吐き出す姿を私はうっとりとして見ていたものだった。
タイの女性はいつからタバコを吸わなくなったのだろう。そう言えば、いつの頃だったか、タイではタバコのパッケージの裏には肺癌になった患者の生々しくもグロテスクな写真が載るようになっていった。
ああいう「タバコを吸ったらこうなる」というストレートな啓蒙はけっこう効いたのかもしれない。
東南アジアと言えば、インドネシアの夜の女性は特にタバコが好きだった。
ベッドの中で一緒に「ガラム」と呼ばれるタバコを吸っていたのは今でも良い想い出だ。丁子《クローブ》が混ざったインドネシアのタバコはとても独特で、あのニオイを嗅ぐと私は知り合った女たちの顔が鮮明に思い浮かぶ。
しかし、すでにインドネシアでもタバコを吸わない決断をする人が多く出てきている。世界中で広がっている嫌タバコの流れはタバコ大国であるインドネシアにも波及していた。
日本も、もちろん喫煙者は急激に減っている。
今はどのような感じなのか。JTが行ってきた「全国たばこ喫煙者率調査」(2018年で調査終了)によると、男女計で17.9%がタバコを吸っているという統計が出ている。年齢的に見ると40代が最も多い。次に30代と50代がほぼ拮抗する。
人数で言うと、喫煙人口は男性1406万人、女性474万人、男女計で1880万人である。これほどの逆風の中でも1880万人がタバコを習慣にしている。さそかし肩身が狭いだろう。
こんなシーンを再現したらきっと世の中の人間の大半がブチ切れる
かつてフランスの女優はみんなタバコを吸っていた。私の好きなフランス映画『突然炎のごとく』も、タバコまみれである。
この映画では、無政府主義者《アナーキスト》のペンキ塗りのスローガンを手伝っていた女性を主人公のジュールが拾って自宅に泊めた時、彼女がタバコで汽車の真似をしているシーンがあった。
今は映画でも「タバコを吸っているシーンを出したらいけない」というよく分からない決まりがあるのだが、この映画はそんなどうでもいいルールなんかない時代の映画だ。見ているととても無邪気にタバコを扱っている。
このシーンは私が特に好きなシーンでもある。
今の禁煙ムードが最高潮に達しているこの時代に、こんなシーンを再現したらきっと世の中の人間の大半がブチ切れて「何を考えているんだ」と猛抗議にさらされてしまうだろう。SNSで映画監督も女優もきっと袋叩きだ。
かつては素晴らしかったかもしれないこの男女の友情を温めるシーンは、いまはドラッグ並みに嫌われる。
2019年に亡くなったフランス人の女優マリー・ラフォレもタバコが好きな女優だった。マリー・ラフォレは映画『太陽がいっぱい』で映画ファンの記憶に残っているのだが、この女性はシャンソン歌手でもあって、いくつもの歌を歌っている。
その中で「Je suis folle de vous」という歌があるのだが、この歌のシーンは彼女がタバコを吸うシーンである。
これは、1968年当時は「とてもエレガント」だったのだ。
それでもタバコについては郷愁のようなものが捨てられない
わが愛するジュリエット・グレコもタバコが大好きなシャンソン歌手だった。(ブラックアジア:ジュリエット・グレコ。私が愛していたフランスのシャンソン歌手が亡くなった)
彼女もタバコをくわえたジャケット写真を残している。とてもムーディーな写真で、私は彼女がタバコを吸っている写真が大好きだ。「これぞフランス女性」というイメージが私の中にはある。
映画『エマニエル夫人』で時代を席巻したシルビア・クリステルもまたタバコを愛していた女性だ。『エマニエル夫人2』では葉巻を吸っているシーンがある。映画を観るとあまりタバコを好んでいないような吸い方をしているのだが、私生活の彼女は実はヘビースモーカーだったことが知られている。
女優カトリーヌ・ドヌーブも、映画の中で好き放題にタバコを吸っているシーンがいくつもある。フランスの悪女ブリジット・バルドーも、ジャンヌ・モローも、当たり前にタバコを吸っている。映画でも私生活でもパーティーでもそうだ。
鮮烈な印象を残した映画『ベティ・ブルー 愛と激情の日々』でベティを演じた女優ベアトリス・ダルも映画の中でタバコを吸っていた。
もちろん男優もみんなタバコを吸っている。アラン・ドロンもそうだし、ジャン=ポール・ベルモンドもそうだ。
フランス女性はヨーロッパの中でも特にタバコが好きで、世界中で禁煙運動が広がっても「タバコはフランスの文化だから絶対に廃れない」とフランス人が頑なに言っていたのが懐かしい。
しかし、そんなフランスでさえも喫煙する人が急激に減った。かつては成人の80%近くが吸っていたタバコも、今は30%近くにまで落ちているという。世界を覆い尽くしている禁煙運動の流れはフランス人の文化意識ですらも粉砕してしまった。
フランス人までもがタバコを吸わなくなっていくというのが時代の流れで悲しいことなのだが、この流れはもう止められないように見えるので、近い将来、タバコを吸っている光景は昔のフランス映画で記録されているだけになるのかもしれない。
タバコの煙が嫌いだ、ニオイが嫌いだ、吸っている人が嫌いだという人は多くなり、タバコを吸ったら肺癌になると脅される世の中だが、それでもタバコについては郷愁のようなものが捨てられない。タバコを吸っている女性に惹かれてしまう。
誰か「タバコを吸ったらコロナにかからない」みたいな陰謀論をこっそり流して欲しいものだ。
フランス人がこんなタバコ好きだとは知りませんでした。
でも個人的なことを言えばタバコが禁止されて良かった。
においがめっちゃ苦手で。
うちの親戚のひとりがタバコ好きで身体中にタバコが染みついてます。
あと女はタバコ吸ってほしくないです。
キスしてタバコの味がしたらうっとなる。
あ これってポリコレ?
そうそう、エマヌエルでシルビア•クリステルの葉巻の吸い方っちゃあ何やらせわしないというか落ち着かない感じを見事に醸し出してましたね。
今となっては自宅でひとり寂しく喫煙して憩うのみです、もうね、嫌煙禁煙喫煙者死ねのムーブメント(ムーブメントなのか?)については、私はなーんにも言うことはありません。頭を垂れて口をつぐむのみでございます。飲酒についてもしかりでございます。
しかしあれですよねえ、コロナ騒ぎで、酒タバコもそうですが社会的に「夜っぽいもの」(笑)全排除ですよねえ。
高度に社会的な病の筆頭といえばライですが、コロナも先々のなりゆき如何によっては双璧のように後世で語られることになるかも…いや、ならないことを祈ります。
その国の喫煙率と経済力は反比例するみたいです。
喫煙率が高い国はやはり貧しい国が多数です。
ただ先進国もこれから下流に堕ちる人たちが増えるので
喫煙率もあがる可能性があります。
フランスのタバコといえばジタンかゴロワーズですね
とうとう去年からバーやレストランでの喫煙が禁止になってしまったようです
フランス文化の店先のオープンテラス席はどうなったのでしょう
私の記憶に残る映画の喫煙シーンはオードリー・ヘップバーンです
「ローマの休日」の町での初タバコ、「テイファニーで朝食を」の長いキセル、「シャレード」での喫煙
映画の立派な小道具ですね、本来ならなくてもいいシーンなんですが、ものすごく魅かれます、今時こんなこと言うと禁煙派に殴られますね
本来アルコールとタバコ、コーヒーとタバコはとてもゆるくて相性がいんですが、これ以上持論を展開すると禁煙派に殺されかねない現状ですね
筒井康隆の短編「最後の喫煙者」は面白いですよ