生活に困ってどん底まで落ちぶれたら、ブランドの背広を着て歩こうと思った日

生活に困ってどん底まで落ちぶれたら、ブランドの背広を着て歩こうと思った日

騙されないようにするためには、常識的な判断を身につけるということくらいしかない。やたら肩書きや家柄を強調する人には気を付ける。社会的立場を自慢する人を信用しない。肩書、経歴、資産、高級ブランドを自慢する人間とカネがかかわる話をするときは最大限に警戒する……。常識が働く人であれば騙されることはないのだが、それでも人生の中で何度かは詐欺師に騙されることもあるかもしれない。それほど、ブランドの力は強いものだと言うこともできる。(鈴木傾城)

背広を着てタイ・シンガポールに行ったときのこと

あなたは海外旅行に行くとき、ほとんどの場合はカジュアルで身動きしやすい格好であるはずだ。商用で国外に行く人は別にして、バケーションで国外に行くのに、背広をびしっと着て行くような人はいない。だいたいは身動きしやすいリラックスできる格好である。

私も国外に行くときは99%、ジーンズにTシャツである。それも、普段着のくたびれたジーンズに、シワのよった300円か400円で買ったようなどうでもいいTシャツだ。荷物もほとんど持たない。

つまり、近所のコンビニに行くような格好で適当な服を着てブランドでも何でもない普通のスニーカーでも履いて国外に行く。

しかし、2005年頃だったが、タイとシンガポールに「投資の件」で人と会う予定があるのと、現地の証券会社や銀行との契約もあるので、さすがに普段着だとマズいので日本からオーダーの背広をきちんと着て行くことにした。

すると、どうだったのか。バンコクに着くと明らかに到着から航空職員の態度や私に対する扱いがまったく違っており、荷物検査もスルーで、女性職員も満面の笑みとホスピタリティで私に接してくれた。

明らかにヨレヨレのTシャツとジーンズの時とは扱いが違っていた。これは、現地の銀行や証券会社に入ってからも同じで、私は明らかに相手から目に見える形で「厚遇」されていた。

私はただの野良犬だ。ビジネスマンでも何でもない。そんな野良犬でも、背広を着て背筋を伸ばして歩いていると、他人の見る目は劇的に違うのだというのをまざまざと思い知ったのだった。

ちなみに「商用」が終わったら背広など用がないので普段着に着替える。すると、私は誰からも相手にされない野良犬に戻った。

ブラックアジアでは有料会員を募集しています。よりディープな世界へお越し下さい。

 「カイロ大学卒業です」とハッタリを噛ます

人は相手の中身の前に、「ブランド」「イメージ」「社会的立場」というものに強く影響される動物だ。もし私が、仮に生活に困ってどん底まで落ちぶれたら、逆にブランドの背広でも着て歩こうと思ったほどだった。

ところで。ブランドと言えば、偽ブランドもどこの国でもそれなりに売れる。通常の何の変哲もないバッグに、高級ブランドのマークを適当に付けて売ると高額で売れるのだ。そんな偽ブランドを買う人は所有物の質や中身の出来なんかどうでもいい。

彼らの目的は、ただひとつ。「ブランド品を身に付けている高級な人」に見られることである。本物のブランド品を買うと高いので、ニセモノで誤魔化す。それでもブランド品に騙される人がいると分かっているので効果的なのだ。

だから、偽ブランド品を扱う業者はどんなに摘発しても次から次へと生まれてくる。こうした偽ブランド品は、絶対に根絶できない。

ブランドを身に付ければ「他人を騙せる」と思ったら、それを身に付けて他人を騙す人が出てくるのである。

ブランド品だけでなく、出自や学歴まで詐称する人も出てくる。現代社会では出自や学歴もブランドの一種だからだ。「由緒ある家系の出身」だとか「誰もが知っているあの財閥の一族」だとか、そういうのを得々と語る人も多い。

「どこの馬の骨とも分からない人間です」「売春地帯をうろうろしている野良犬です」みたいなことを正直に言っていたら、表社会では「ふん」と嘲笑されて終わりだ。

だから表社会でチヤホヤされたい人は、自分に何もなくても「あの財閥の一族です」だとか「コロンビア大学卒業です」だとか「カイロ大学卒業です」とか、それなりのハッタリを噛ます。

そうすると、他人はコロリと騙される。それほど人間は「ブランド」「イメージ」「社会的立場」に対して、脳が強く反応して本能的に酔う。無意識に、そして知らない間にメロメロになってしまう。

1999年のカンボジアの売春地帯では何があったのか。実話を元に組み立てた小説、電子書籍『スワイパー1999』はこちらから

 誇大な肩書きを思いきり「情熱的」に演じる

だから、詐欺師の多くは詐欺をするときには、とても入念に外観を飾り、出身や家系を創作する。どうせ騙すなら「でっかく騙す」方がいいというわけで、途轍もなく壮大な経歴の大風呂敷を広げる人もいる。

たとえば、日本にクヒオ大佐と名乗る詐欺師がいた。生粋の日本人なのだが、たまたま外見がハーフに見えるので、この男は外国人になりすまして女性を騙す詐欺を思いついた。

この男は「自分はハワイ出身の、アメリカ空軍特殊部隊パイロットである」と言って日本女性に近づき、「父はカメハメハ大王の末裔、母はエリザベス女王の双子の妹」と名乗っていた。どう考えても荒唐無稽極まりない与太話だ。

ところが、こんな誇大妄想を真剣に信じた女性もたくさんいて、次々とこの男に騙されていった。1億円も騙し取られた女性もいたのだから、「なぜこんな見え透いた嘘に騙される女性がいるのか」と騒然となった。

しかし、これも「ブランド」「イメージ」「社会的立場」を全開にして仕組まれた詐欺だった。

・立派な外国人という「イメージ」。
・カメハメハ大王、エリザベス女王という「ブランド」。
・アメリカ空軍特殊部隊パイロットという「社会的立場」。

クヒオ大佐と名乗るこの男の経歴は嘘八百だったのだが、詐欺師は往々にしてこの誇大な肩書きを思いきり「真剣」かつ「情熱的」に演じる。自分の作り上げた「高級ブランド」になりきる。自信満々にカリスマを演じる。

そのため一部の女性は、「彼が言っていることは本当なのかもしれない」とその作られた虚飾の高級イメージに酔ってしまう。

インドの貧困層の女性たちを扱った『絶対貧困の光景 夢見ることを許されない女たち』の復刻版はこちらから

 それほど、ブランドの力は強いものだ

酔ってしまうというのは相手だけではない。実は詐欺師というのは、もともと自己陶酔型の人間も多い。そのため、こうした嘘を情熱的に演じ、自分で演じているうちに自分も酔ってしまい、それが「本当」だと自分自身で思い込むようになる。

普通の人は「自分はアメリカ空軍特殊部隊だとか言っていたら馬鹿だと思われる」と自分で醒めてしまうのだが、詐欺師は逆だ。自分がその気になって燃え上がっていくのである。そして、雰囲気に飲まれやすい人がそれに巻き込まれていく。

こうした詐欺師の誇大妄想に引っ掛かった女性を嗤《わら》う世間も、実はそれほど大して立派でもない。たとえば、政治家はみんな実力があるとか、社長はみんな優秀だとか、一流大学の教授はみんな頭が良いと、無邪気に信じ込んでいる人もいる。

中には「テレビで物知りのジャーナリストが言っていたから本当だ」とか、この時代になっても思っている人さえいる始末だ。これは、クヒオ大佐に騙された女性と大差ないレベルにあると言っても過言ではない。

しかし、仕方がない面もある。人間は「ブランド」「イメージ」「社会的立場」を持った存在には陶酔してしまう本能を持っている以上、こうしたものに騙されやすい傾向を誰でも持っている。

そんな中で騙されないようにするためには、常識的な判断を身につけるということくらいしかない。

やたら肩書きや家柄を強調する人には気を付ける。社会的立場を自慢する人を信用しない。肩書、経歴、資産、高級ブランドを自慢する人間とカネがかかわる話をするときは最大限に警戒する……。

常識が働く人であれば騙されることはないのだが、それでも人生の中で何度かは詐欺師に騙されることもあるかもしれない。それほど、ブランドの力は強いものだと言うこともできる。

『女帝 小池百合子(石井 妙子)』

ブラックアジア会員登録はこちら

CTA-IMAGE ブラックアジアでは有料会員を募集しています。表記事を読んで関心を持たれた方は、よりディープな世界へお越し下さい。膨大な過去記事、新着記事がすべて読めます。売春、暴力、殺人、狂気。決して表に出てこない社会の強烈なアンダーグラウンドがあります。

心理カテゴリの最新記事