(2019年12月14日、アンナ・カリーナが亡くなっている。彼女はフランスを代表する多くの名作に出ている女優だったが、ブラックアジア的には、この『女と男のいる舗道』がベストだ。フランスの売春を描いた映画である)
タイ・バンコクの売春地帯のひとつにはスクンビット通りがあるのだが、このスクンビット通りには「ナナ」と呼ばれる駅や区域がある。
初めてこの「ナナ」という場所が売春地帯になっていると知ったとき、私の脳裏にはエミール・ゾラの小説『ナナ』がすぐに思い浮かんだものだった。
ナナ……。バンコクの売春地帯と、エミール・ゾラの小説が、「ナナ」という呼び名でリンクしている。そんな偶然に不思議な縁と感銘を覚えた。
エミール・ゾラはフランス人だ。だから、「ナナ」という名前は欧米ではフランス女性だけなのかと思った。
ところが、ある時出会った、このナナ地区で売春ビジネスをしていたロシア女性の名前も「ナナ」だった。ますます、私には「ナナ」という言葉と売春が密接にリンクした。(娼婦ナナ。戦争を始めるのは男たち、代償を払うのは女たち)
エミール・ゾラの小説『ナナ』は何度も映画化されているが、映画と言えば、このエミール・ゾラとはまったく無関係の映画も女性の主人公の名前が「ナナ」だったこともあった。
それがジャン=リュック・ゴダール監督の1962年の映画『女と男のいる舗道』である。この映画が興味深いのは、1962年当時のフランスの売春ビジネスの光景をしっかりと説明しているからだ。