「タイの政治動向は再び激動になる」と噂されている理由

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タイは2006年にタクシン・シナワット首相の追放、2014年にインラック・シナワット首相の追放によって、現在はプラユット・チャンオチャ氏による軍事政権が継続している。

2006年の軍事クーデター以来、政治的混乱が続いていた状況を抑えたプラユット首相は、当初は政治的混乱に嫌気を指していた国民に歓迎された。

プラユット首相の求心力の背景には、国民に絶大な人気のあったプミポン国王の存在もあったのも大きかった。

しかし、本来は「暫定」だったはずの軍事政権はすでに4年も続いている。さらに後ろ盾だったプミポン国王も、2016年10月13日に崩御したこともあり、プラユット首相の求心力も陰りが見えるようになった。

新国王となったワチラロンコン国王は、実は素行に大きな問題のある人物だったが、このワチラロンコン国王を擁護してきたのがタクシン・シナワットであった。

そのため、現在はタイ国内から追放されているタクシンとインラックをワチラロンコン国王が恩赦する可能性が指摘されており、もしそうなるとタイを混乱させてきたシナワット一族はタイに「凱旋」することになる。

折しもタイでは1年以内の選挙も予定されている。タイは再び熱い政治的混乱に見舞われても不思議ではない。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。

原因を作り出しているのは、やはりタクシンだった

タクシン・シナワットは豊富な資金力で多くの議員を取り込んで仲間にしていき、さらに国の予算を自らの権力基盤を高めるために地方にばらまいて支持層を操ってきた。

このタクシン・シナワットの影響力はまだ衰えていない。また、タクシンの政治的野心はまだ強い。そのため、タクシンとインラックの両方がタイに凱旋していくと、タクシン支持層と反タクシン派が再び激突するのは必至だ。

つまり、筋書きのない袋小路と、武力衝突がまた起きてもおかしくないということだ。

タクシン派と反タクシン派の闘争は、そのまま中国派と保守派の闘争でもあり、田舎と都会の格差の闘争でもある。

国内問題としては、やはりこの国を知れば気づくが、バンコクに一極集中した富と、田舎の貧困が問題を引き起こしている格差問題に帰結する。

1980年代の後半からタイは工業化の道を歩み出したが、これが1990年代の格差を決定的にしてしまった。

タイは高度成長を成し遂げたのだが、それに乗れなかった膨大な人たちがそのまま取り残されたのである。取り残された多くは言うまでもなく、農村の人たちだった。

だから、農村の持たざる人々は「ばらまき」をしてくれるタクシンやインラックのような政治家を好む。

インラック首相が放逐されてしまった理由は「コメの買い上げ制度に関し、首相在任中に国に多額の損失を与えた」というものだが、農家からしてみれば政府が市場価格よりも高値でコメを買い取ってくれるのだから、実質的に政府から金をもらったのと同じである。

農家はこれによって恩恵を受けるが、政府がばらまくその金は都市部の人間からみると自分たちから絞り取った税金が財源なのだから、たまったものではない。

それをシナワット一族は露骨にやるので、だからタイは都市部と農村部で分断されて激しく対立し、衝突することになってしまうのである。

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タクシン自身は、私利私欲にまみれた政治家だった

タイの売春地帯にいる多くの女性たちは農村出身の女性たちだが、そのほとんどが「タクシンを支持(サポート)してる」と私に断言していたのはよく覚えている。その力強さに驚いたくらいだ。

一方で彼女たちはプミポン国王をも敬愛していたのだが、すでにタクシンを抑えていたプミポン国王はいない。そんなわけで、場合によってはタクシン支持は以前より迷いがない状態になっている可能性もある。

タクシンは取り残されてきた貧困層には、最後の砦になっているのである。

しかし、その表層的なものだけを見てタクシンが弱者の味方であると思い込んだら痛い目に遭う。

タクシン自身は私利私欲にまみれた政治家であり、自分の私腹を肥やすためなら何でもする政治家だ。

一族を要職に付けるのは当たり前にやってきた。土地開発の前には周辺の不動産を事前に妻に買い漁らせて、それが終わってから計画を発表して土地の値上げを享受した。

あるいはトップ外交で自分の会社の携帯電話会社のサービスや製品を各国に売り込み、最後にはそれをシンガポールに勝手に売り飛ばしてしまった。

その上に税金逃れをして蓄財に励み、旧来の財閥には利益拡大を封じ込め、王室人脈を冷遇させて、自分の利益の拡大だけに集中した。

そうやってあこぎに稼いだ金を一族で貯め込み、政治基盤を高めるための「ばらまき」には税収を使った。

つまり、タクシン・シナワットの究極の目的は「一族の影響力と利益の拡大」である。貧困層のためを思ってばらまいているわけではない。

そのような政治家だったので、タクシンは決して貧困者の代弁者でも救済者でも何でもない。その正体は大衆迎合型の「利権政治屋」である。

常に、自分たちが「第一」なのだ。だから、表層的な面で見ると「弱者の味方」に見えるかも知れないが、じっくりと裏側を見るとまったくそうではないことが分かってくる。

タイの政治動向は再び注目すべき時期に入ったのだ

ところが、タイにはもうひとつの問題がある。タクシンに対立する側も、決してクリーンではないということだ。

タクシンが登場する以前からタイを支配していた層は、王室を中心としたエスタブリッシュメントたちである。

あまり知られていないが、タイの由緒ある巨大企業の多くは王室とその取り巻きが莫大な株式を保有しており、王室の意向を汲むようになっている。

さらに多くの中小企業もまた王室人脈に「献金」している。

しかし、タクシンはその巧みな経営手腕で既存のエスタブリッシュメントたちとの利権を次々と奪っていき、利益を総取りしていくようになっていた。

2006年にクーデターが勃発したのは、既存の体制派がこのままタクシンを放置していれば既得権益をすべてタクシンに持っていかれるという危機感で起きているものだった。

つまり、タイの未来を考えて行われた行動というよりも、単に既得権益を守るためだったのだ。決して貧困層の救済やタイの国益を考えて行われている動きではない。利権を巡る権力闘争に過ぎなかった。

今後、バンコクは政治闘争の舞台となって、再び政治的混乱が起きる「兆し」が見え出している。

タクシン・シナワットの復権に危惧したプラユット首相があらゆる方策で総選挙を先延ばしにしてそれを抑えるかもしれないし、ワチラロンコン国王が恩赦を延長してタイの政治的安定を選ぶかもしれない。

だから、タクシンやインラックが絶対に凱旋できるとは決まったわけではないが、プラユット首相の支持が低下している状況の中で、タイ政治が危うい雰囲気を醸し出すようになっているのは事実だ。

こうしたことから、「タイの政治動向は再び激動になる」と噂されている。

どうなるにしろ、これからタイで起きるのは、崇高な政治家が崇高な理念で動く政治闘争ではない。だから、どちらに荷担しても意味がない。

いったん混乱が起きれば、長引くほどタイ経済にはこの影響がボディーブローのように効いて、次々と悪影響が回っていくことになる。

タイの政治動向は再び注目すべき時期に入った。(written by 鈴木傾城)

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タクシン・シナワット。いったん混乱が起きれば、長引くほどタイ経済にはこの影響がボディーブローのように効いて、次々と悪影響が回っていくことになる。タイの政治動向は再び注目すべき時期に入った。

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