
日本では一度減少した自殺が2020年以降にふたたび増加し、特に若者の比重が高まっている。背景には、過度な学歴競争や教育格差、家庭の貧困があり、努力しても将来を描けない状況が広がっている。孤独を抱えた若者はSNS上の「病み垢」に居場所を求めるが、もちろんそれはより精神状態を悪化させる。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
自殺者全体の約27%が10歳から39歳の若者
日本の自殺者数は、長い間「3万人」という水準で高止まりしていた。1998年以降、年間の自殺者は3万人を超え続け、社会問題として深刻に扱われてきた。
その後、政策の強化や地域での対策も重なり、2010年代半ばからは減少傾向に入り、2019年には2万169人と統計開始以来で最少の数値を記録した。自殺率も10万人あたり15.9まで低下し、一時は改善の兆しが見えた。
ところが、2020年以降の統計は大きく反転し、ふたたび増加局面へ入った。
警察庁と厚生労働省の発表によれば、2020年の自殺者は前年から約900人増え、2万1081人となった。この増加は2009年以来の逆転現象であり、特に女性と若年層に目立った。2021年以降も自殺者数は2万1000人前後で推移し、減少には至っていない。
注目すべきは、若年層における割合の高さである。2023年の統計では、自殺者全体の約27%が10歳から39歳の若者で占められ、これは世代別に見て非常に大きな比重を持っている。
小中高校生に限定した数値を見ても深刻さが際立つ。2023年には513人、2024年には529人が自ら命を絶った。これは統計開始以来で最多であり、過去のどの時点よりも高い水準に達している。
児童生徒の自殺は一過性の増加ではなく、ここ数年にわたり増加基調が続いている。10代前半から後半の時期に命を絶つという事実は、日本社会の「ゆがみ」を如実に示すものかもしれない。
増加が顕著なのは若い女性である。2019年から2020年にかけて、女性の自殺者数は約15%増加した。特に20代の女性での伸びが目立ち、これは雇用の不安定さや非正規労働の割合の高さと強く結びついている。
たしかに女性全体の自殺率は男性に比べれば低いが、変化率で見ると女性の増加が際立つ。背景には経済的困難に加え、家庭内での負担増、孤独感の拡大がある。

学歴は経済と格差の問題が深くかかわっている
追いつめられているのは女性だけではない。男性の自殺者数も依然として高い水準にある。自殺が多いのは40代から50代の働き盛りの層なのだが、それでも若者の比重が大きくなっている事実は看過できない。
全体の自殺者数が減少しない原因のひとつとして、若年層の増加が全体の数字を押し上げていることがある。学業や進路に対する不安、経済的困窮、家庭不和、そして孤独が複雑に絡み合って、若者を追い詰めている。
どこの先進国もそうだが、日本も長らく学歴を強く重視してきた。
大学の序列は厳然と存在し、有名大学への進学が就職や将来の生活水準を左右する。進学実績が学校や地域の評価に直結し、家庭でも学歴に対する期待が子供に強い圧力としてのしかかる。
特に都市部の高校生は、早い段階から受験競争に組み込まれ、失敗すれば将来を失うかのような感覚に追い込まれている。
ところで、その学歴だが、経済と格差の問題が深くかかわっている。
裕福な家庭では、塾や予備校への通学、家庭教師の利用、留学経験など、多様な教育投資がおこなわれる。一方で貧困家庭では、そもそも進学に必要な費用を用意できない場合が多い。
日本学生支援機構の調査によれば、大学生の半数近くが奨学金を利用しており、その返済負担は卒業後も長く続く。非正規雇用が増える中、奨学金返済が生活を圧迫し、精神的な重圧となっている。
教育投資を受けられるかどうかは家庭環境に依存し、その差が若者の進路と自己肯定感を大きく分けている。
子供のうちから「学業に失敗したら終わり」と追い立てられ、無理して進学しても奨学金という名の借金が重くのしかかり、就職に失敗したら人生が詰む。そういうストレスがずっと若者にのしかかある。
これでは、死にたくなってもしかたがない。
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「病み垢」と呼ばれる匿名のアカウント群
学歴競争と貧困の二重の圧力は、若者に「逃げ場がない」という感覚を生み出す。勉強で成功できなければ将来は閉ざされ、家庭の経済力でハンディキャップを背負わされる。社会の枠組みはあまりにも硬直的に見える。
こうして若者は自ら命を絶つという最悪の選択に追い込まれていく。
そんな中、自殺に至る前に、学歴競争や貧困の中で孤立感を強めた若者が向かう先のひとつが、SNSに広がる「病み垢」と呼ばれる匿名のアカウント群である。
そこでは死にたい気持ちや孤独感、自傷の衝動などが赤裸々に書き込まれ、同じ境遇にある者同士がつながり合っている。表面上は共感や支えを得られる場のように見えるかもしれない。
だが、実態はきわめて危険な側面を持つ。
病み垢の特徴は、日常生活で口にできないような感情をためらいなく吐き出せることだ。現実社会で理解されない苦悩も、ネット上なら共感を得られる。
周囲に打ち明けられない若者にとって、この匿名性は救いとなる。だが、同時に、否定されることなく「死にたい」という言葉が並ぶ環境は、悩みを共有する以上にその感情を強化してしまう。
孤独を和らげるどころか、死への思考を強化する装置のように機能する。
病み垢が世間から危険視されているのは、オーバードーズやリストカットが許容され、具体的な自殺方法や自傷の手段が共有されることがある点だ。SNSのアルゴリズムは、類似した投稿をさらに見せ続ける仕組みを持つため、一度病み垢に触れると関連投稿が絶え間なく流れてくる。
かくして「病み垢」は、自殺を加速させる温床になっていく。
病み垢の中では、死や自傷は特別なことではなく「普通の行動」として扱われている。この普通ではない価値観の共有が、若者を現実社会からさらに切り離していく。
しかし、病み垢は完全に排除できるものではない。現実で居場所を持てない若者にとって、病み垢は数少ない吐き出しの場でもある。現代社会において病み垢は、うまく生きていけない若者と切り離せない存在になっているのはたしかである。
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自ら命を絶つ若者はもっと増えていくのだろう
「病み垢」を見ていると、今後も若者の自殺はとまらないのではないかと思えてくる。そもそも、日本の社会環境はこれから良くなるわけでも何でもない。将来は、さらに苛烈な社会環境が待ち受けている。
学歴競争は今後も和らぐことはなく、むしろ構造的に激しさを増していく。
さらに、AIやハイテクの進展は若者に新たな格差を突きつける。技術革新によって単純労働や中間層の職業は淘汰され、高度なスキルを持つ者とそうでない者との間の差が拡大する。
学歴やスキルを持たない若者は、ますます低賃金かつ不安定な仕事しか得られなくなる。結果として、教育格差と経済格差は一体化し、努力の有無にかかわらず社会的な立ち位置が決定されてしまう。ほとんどの若者は使い捨てになるのではないか。
今後、若者の貧困はレベルが違うものとなり、より絶望的な状況になっていくだろう。
現状でも非正規雇用が全労働者の約4割を占めている。安定した雇用に就けない若者は珍しくない。親世代が非正規で低収入の場合、その子供は教育投資を受けられず、ふたたび低所得層へと組み込まれる。
この再生産の仕組みは固定化しつつある。格差は広がるのではなく、階層として固まってしまい、そこから抜け出すことが難しくなっている。若者の自殺は、この「抜け道のない社会」の中で増えることになる。
若者を追い込む環境は悪化する。教育の機会を十分に得られない者は、低所得に直結する将来を歩むことになる。学歴競争に敗れた若者や、貧困によって学歴を獲得できなかった若者は、社会的に居場所を失い、孤立を深める。
こうした問題は、政治が解決しなければならないのだが、それでは今の政治家連中の能力を見て欲しい。彼らが若者を生きやすい社会にする政治的な力量があるだろうか。そんな力量があったら、最初から若者は追い込まれていない。
とすれば、自ら命を絶つ若者はもっと増えていくのだろう。残酷な社会だ。

鈴木傾城の新刊
「うち、生きることに執着ないんで」。日本社会の「ポジティブ」が唯一の正義とされる「表側の世界」とは真逆に、心に傷や孤独を抱える若者たちが集う匿名のコミュニティが「病み垢界隈」だ。ここでは「病んでいる」こと自体がアイデンティティとなり、自傷行為や市販薬OD(オーバードーズ)の過剰摂取が赤裸々に語られ、共感の「いいね」が飛び交う。
その圧倒的な「闇」を体現するのが「やむやむさん」だった。オーバードーズを「人生そのもの」と語り、幻覚に心地よさを感じ、度重なる救急搬送にも「怖くない」と笑う。彼女の壮絶な半生には、機能不全家族での育ち、家庭内暴力、望まぬ妊娠、そして発達障害による社会での生きづらさが深く刻まれている。
はじめに [うち、生きることに執着ないんで]
第1章 [過剰摂取] 目を閉じると星が流れる
第2章 [試行錯誤] 1時間くらい吐いてた
第3章 [ボーダーライン] 集中力が続かない
第4章 [自殺志願者] 人間、死にたいのが普通
第5章 [人体実験] 身体の中の邪悪なもの
第6章 [家庭崩壊] 生まなきゃ良かったと言われた
第7章 [死ぬ計画] 血を吐いて助からなかった
市販薬を飲んでオーバードーズすると、どういう状況になるのか。いったい彼女はどのような飲み方をしているのか。どんな市販薬をオーバードーズしているのか。オーバードーズが日常の女性の人生を本書で余すところなく記しました。お手に取って頂ければ幸いです。



コメント
私は15歳から精神を病んでおり、(自殺願望がありました)その頃からほぼずっと向精神薬を飲んでいます。
大学には奨学金を全く払わずに出たものの、仕事での人間関係がこじれてうつ病を発症し、うつ病が再発した25歳の頃には精神障害者3級の手帳持ちとなりました。
特に春先にうつ病を何度も発症しているので私も人生に希望が持てません。