あらゆることが不安で耐えられなくなる。不安障害を軽くみてはいけない理由とは

あらゆることが不安で耐えられなくなる。不安障害を軽くみてはいけない理由とは

「死にたい」という気持ちが衝動的に湧いて、そのまま衝動的に死んでしまうこともあるのが不安障害だ。「ホームに立っていて、ふと気づいたらホームの端に立っていて、そばにいた人に助けられた」というケースもあったりする。今、この不安障害にさいなまれる人が増えている。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

過度な不安や恐怖を特徴とする精神疾患

今の社会でうまく生きていくことができない若者や、場末の風俗嬢や、貧困に生きている女性などと話していると、まるでひとつの符号のように「メンクリ(メンタル・クリニック)」だとか「うつ」だとか「眠剤」という言葉が出てくる。

社会でうまく生きていくことができなくて、不安や恐怖にとらわれ、そして大事な局面から逃げたり、避けたりして、経済的にも精神的にも追い込まれていく。その根底には「不安障害」があるのだと察することができる。

不安障害は、過度な不安や恐怖を特徴とする精神疾患である。

一般的な不安とは異なり、生活に支障をきたすレベルの強い不安が持続する点に特徴がある。国際的な診断基準であるDSM-5(精神障害の診断と統計マニュアル第5版)では、不安障害は「全般性不安障害(GAD)」「パニック障害」「社交不安障害」「特定の恐怖症」などに分類される。

全般性不安障害(GAD)は、日常的な出来事や未来の不確実性に対して過剰に心配する状態を指す。患者は「最悪の事態」を常に想定し、リラックスすることが困難となる。「人に会ってミスをしたらどうしよう」「病気になったらどうしよう」「家に泥棒に入られたらどうしよう」とあらゆることが心配の種になる。

パニック障害は突然の強烈な恐怖発作を伴い、動悸、呼吸困難、めまい、発汗などの身体症状を伴う。患者は「死ぬのではないか」「発狂するのではないか」と考え、発作の再発を恐れるようになる。この結果、外出を避けるようになり、日常生活に重大な支障をきたす。

社交不安障害は、人前で話すことや注目を浴びる場面で強い恐怖を感じる障害である。日本では「赤面症」として認知されているが、単なる恥ずかしがり屋とは異なり、極端な回避行動を伴う。

私はこういうのを性格からくるものだと思っていたときもあったが、そうではなかった。これらの障害は、最近の研究では、脳の一部である扁桃体や前頭前野の働きに問題があることが関係していると考えられている。

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「不安障害の治療はクスリになる」

不安障害の患者数は増加傾向にあるという。世界保健機関(WHO)の報告によると、2019年時点で世界の約3.6%、人数にして約2億8,400万人が、この不安障害を抱えていると推定されている。

日本でも同様の傾向が見られ、厚生労働省のデータでは、不安障害の診断を受けた患者数は2020年には約123万人となっている。

しかし、患者の多くは、自分の症状が病気であることを認識せず、医療機関を受診しないまま症状を悪化させるケースが多い。特に、日本では精神疾患に対する偏見が根強く、「気の持ちよう」「甘え」と見なされることが多いため、適切な治療を受けることが遅れる傾向にある。

ある女性はSNSで「病み界隈」とつながって、そこではじめて不安障害という「病気」があることを知って、自分がそうだと気づいたという話も本人からじかに聞いた。そして、自分がそうした病気だと気づいたら、メンタル・クリニックに行こうという気持ちになっていく。

「不安障害の治療はクスリになる」と彼女は言った。

薬物療法では、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)やベンゾジアゼピン系抗不安薬が用いられる。SSRIは長期的な不安の軽減に有効だが、効果が現れるまでに数週間を要する。ベンゾジアゼピン系は即効性があるが、依存性のリスクがあるため長期使用には適さない。

認知行動療法は、患者が自身の思考パターンを見直し、不安を引き起こす要因を認識し、適応的な行動を学習する治療法である。研究によれば、不安障害患者の約60%が認知行動療法によって症状の改善を実感している。

ただ、問題はSSRIもベンゾジアゼピン系も、いずれも精神的依存が発生してしまうことである。だから、「病み界隈」ではクスリの売買がおこなわれたりして、オーバードーズなどが発生したりするのだ。

「病み界隈」では自殺も多いが、これも抗不安薬が自殺を誘発しやすい「副作用」があることからきていると述べる医師もいる。

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自信を失い、落ち込み、将来に失望する

「病み界隈」が社会の裏側で広がっているのを見てもわかるとおり、不安障害の増加には、現代社会のストレス要因が深く関与している。

まず、現代は学歴社会なのだが、そうするとそこからこぼれ落ちた若者たちは早くから自分が落伍者になったことを知り、将来に強い不安を感じるようになる。学校が終わって就職先を探しても非正規雇用の仕事しかない。

結局、そうしたところで働くと自分が社会に敗北したことを自覚させられるわけで、それが大きなストレスとなる。自信を失い、落ち込み、将来に失望し、自分がうまく生きていけるのか不安が募るばかりとなる。

それが不安障害にまで突き進んでいく。

悪いことに現代はデジタル社会である。SNSの普及で、容易に他人と比較することができる。それも、「だめな自分」を意識させて不安を助長する。若年層は「他者からの評価」に過度に依存しているので、自尊心が低下する傾向が強い。

そうやって負のスパイラルに落ちていくと、社会的に孤立していくようになり、経済的にもダメージを受けることになる。この経済不安が、ますます不安障害を悪化させる。この状況下では、将来への希望を持つことが困難になり、抑うつ症状が併発するリスクも高まる。

このような複合的な問題に直面すると、自己肯定感や自尊心が低下し、いったん仕事を辞めたりすると社会復帰への意欲も失われがちになる。結果として、不安障害からの回復がさらに遠のくことになる。

厚生労働省の調査によれば、2020年以降、メンタルヘルスの相談件数が急増しており、特に若年層や女性の不安障害の発症率が上昇している。社会が悪化していけばいくほど、状況はもっと悪化するだろう。

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不安障害に苦しむ人の自殺行動とは?

不安障害が悪化し、対処することもなく不安の嵐に揉まれていると、行きつく先は自殺となる。不安障害では、特定の条件下で自殺リスクが顕著に高まることが知られている。

不安障害の中でも危険なのがパニック障害と社交不安症である。これらは、自殺念慮や自殺企図と強く関連している。これらの障害を抱える患者は、持続的な緊張状態にさらされることが多く、動悸や発汗、震えといった身体化症状が日常的に現れる。

このような症状は、本人にとっては「耐えがたい苦痛」である。そして、その苦痛と症状そのものへの恐怖が患者を追いつめる要因となる。

特に社交不安症では、他者評価への過敏さから社会的孤立を招き、「自分なんか、もう死んでしまったほうがいいのではないか?」という自殺念慮を抱くケースが多い。

不安障害に苦しむ人の自殺行動は、うつ病患者のように計画性を持った自殺とは違って、衝動的なものが多いことが知られている。

「ホームに立っていて、ふと気づいたらホームの端に立っていて、そばにいた人に助けられた」というケースもあったりするのだが、「死にたい」という気持ちが衝動的に湧いて、そのまま死んでしまうのだ。

不安障害と、うつ病が併存する場合は、自殺リスクがさらに高まる。

長く不安にさいなまれていると、その持続的な心配や認知のゆがみによって問題解決能力が低下してしまう。そして、極度に気持ちが落ち込んで「うつ」状態に入っていく。この状態が続くと、自殺企図率が単独の不安障害よりも高まってしまうのだ。

そう考えると、あらゆることが不安で耐えられなくなる「不安障害」は、けっして軽く見てはいけないものであることがわかる。それは、「死」に直結する。

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