ピークを過ぎた人は、弱くなっていく中でいかに生きるのかという発想が必要

ピークを過ぎた人は、弱くなっていく中でいかに生きるのかという発想が必要

自分の能力がどこまでも向上すると思うのは幻想だ。それは危険だし現実的ではない。肉体的な能力のすべては10代から20代の前半がピークであり、それ以後はどんどん衰えていくだけだ。肉体的な能力はピークを過ぎれば、その後は何をどうやっても若い頃のパフォーマンスを取り戻せない。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019、2020年2連覇で『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)

人間は劣化していく存在なのだというのを身を持って知る

若いというのは素晴らしい。それだけで未来がどこまでも拓けているような無敵感を無意識の間に感じることになる。

私も20歳の頃は、どんな将来でも選び取れるという根拠のない自信のようなものがあったのを今でも覚えている。しかし、私はこの若さを東南アジアで消費して23歳の頃にはもう将来の選択肢をすべて捨ててしまっていた。

社会の底辺で苦心惨憺している女性たちを見続けたせいか、無敵感も完全に失ってしまっていた。東南アジアで貧しい女性たちを見ているうちに「世の中はそんな甘いものではない。どうにもならない人生もある」という現実に私も打ちのめされていた。

しかし、自分自身については少しだけは希望を持っていた。確かに、社会からドロップアウトし、堕落し、親からも見捨てられ、友人も失っていた。

それでも「まだ若いのだから軌道修正すればどうにでもなるし、やりたいことは何でもできるし、向上しようと思ったらどこまでも向上できるし、好きなことも無限に楽しめる」という希望だけはほんの少し残っていた。

「今はだらしのない生活をしているけれども、その気になったらいつでも自分の能力を向上させることができる」

そんなふうに思っていたのだ。しかし、ある日バンコクの安宿でベッドに寝転びながら、ふと気がつけば自分には何もないことに気付いた。

結局は何もしないでだらだらと生きてきただけだった。「その気になったら、いつでも向上できる」「やればできる」と思いつつ、何もしないで東南アジアに沈没したり、抜け出そうとしたりして揺れ動きながら生きているだけだった。

まともに仕事はしなかったが、なぜか金だけはあったので私は無為無策のまま20代を消費して30代に入り、そのあたりから私は体力を失い、40代早々に事故に遭い、病気になり、人間は劣化していく存在なのだというのを身を持って知ることになった。

もっと早く気付けば良かったが、後の祭りだった。

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人間は劣化し壊れることによって社会的に「弱い立場」になる

人間は誰あっても劣化していく。あるいは壊れていく。そして本来持っている能力を発揮できなくなっていく。事故や病気で身体が壊れることもあるが、壊れるのは肉体だけではない。精神も壊れていくのだ。

たとえば、うつ病は精神を破壊する病である。日本のうつ病患者は治療を受けてうつ病だと診断された人だけで100万人近くいるのだが、治療を受けていない患者も含めると倍以上にのぼる。

精神的な病気はうつ病だけではない。睡眠障害、摂食障害、適応障害、統合失調症、パニック障害、発達障害、認知症と数多くの病気がある。こうした病気にかかると、どんな人でも自分が持っている能力を発揮することはできない。

それだけではない。世の中にはアルコール依存、ドラッグ依存、ギャンブル依存のようなものもあるわけで、これらのすべては人間を劣化させ、壊し、個人そのものを経済的にも苦境に落としていくことになる。

つまり、人間は劣化し壊れることによって社会的に「弱い立場」になる。

よくよく考えてみれば、誰もが「弱い立場」に落ちる瞬間がある。強い立場の人間がいつまでも強いわけではなく、必ずどこかで転落する。自分が不意の災害や事故に巻き込まれないとは誰も言えない。病気にならないとも言えない。

しかしながら、人は健康である時や絶頂期にある時は、自分の能力が減退するとか劣化するとか弱体化するということをまったく考えない。考えないが、病気にならない人はひとりもない。

多くの人は、実際に自分が病気にかかって「自分も弱くなり続けることもある」と身を持って自覚する。あるいは、自分がかつてとは違って「弱い立場」になっていることを知って、こんなはずがないと愕然とする。

そうであれば、病気に細心の注意を払い、ストレスにも注意して精神的に追い込まれないようにすれば弱い立場になることはないのか。いや、それでも弱い立場になるのは時間の問題だ。

なぜなら、「老い」が必ずやってくるからだ。老いはアンチエイジングで緩和することができる。しかし、逃れることはできない。

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何をどうやっても若い頃のパフォーマンスを取り戻せない

自分の能力がどこまでも向上すると思うのは幻想だ。それは危険だし現実的ではない。肉体的な能力のすべては10代から20代の前半がピークであり、それ以後はどんどん衰えていくだけだ。

30代に全盛期を迎えているかのように見えるアスリートもいるのだが、それでもピークは20代の前半にあって以後は経験によってパフォーマンスが維持できている状況である。

肉体的な能力はピークを過ぎれば、その後は何をどうやっても若い頃のパフォーマンスを取り戻せない。

超絶的な能力を持っていたアスリートも、やがてはスピードが落ち、キレが落ち、持久力が落ち、回復力が落ちていく。つまり、どんどん弱くなっていく。

楽観主義でいようが、最新精鋭の機材とスタッフを揃えようが、最高の医師のアドバイスを受けようが無駄だ。まわりをすべて最高にしても、自分の衰えは止められない。そして、遅かれ早かれ競技から脱落していく。

「老兵は死なず、ただ消え去るのみ」とダグラス・マッカーサーは言った。マッカーサーのこの言葉は、消え去るというのは死ぬということではなく、「消え去ったまま生き続ける」ことを示唆している含蓄のある言葉だ。

肉体的なピークを売りにするのはアスリートだけではない。

若い女性も、自らの肉体の美しさを売りにして稼ぐ。しかし、どんなに若くて美しい女性であっても、30代に入れば肉体的な衰えは隠せなくなっていき、40代に入ればほぼ脱落する。

どんなに必死に若さを維持しようとしても無駄で、美容整形などであがけばあがくほど身体に負担をかけて「崩壊」が早まっていく。いくら大金をかけても、老いからは誰も逃れられない。

普通の生活をして、普通の仕事をしている人であっても、ある程度の体力は求められるのだが、20代の頃に持っていた体力は30代、40代、50代と年齢が上がれば上がるほど失われていくので無理が効かなくなる。

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老いても自分の知的能力は劣化しないと思うのは大間違いだ

脳はどうなのか。もちろん、脳も老いれば老いるほど判断力も思考力も集中力も落ちていく。世の中の変化についていけなくなり、やがては新しい社会現象が分からなくなっていく。

老いても自分の知的能力は劣化しないと思うのは大間違いだ。必ずどこかの段階で知的能力が落ちていき、全盛期に及ばなくなる。

一般的には40代が限界で、以後はなだらかに能力が消え去っていくことになる。

もちろん個人差は大きいので、誰もが40代で目に見えて劣化するわけではない。しかし、いつまでも若々しさを保てる臓器や器官はないので、脳も劣化するのは100%約束されている。

遅いか早いかの違いだけで、物理的に脳も劣化する。それに伴って脳の働きも弱くなっていき、脳が司っている知的能力の部分もまた劣化していく。

だから、将来は自分の体力や知的能力が失われる前提で計画を立てておくのはいつでも正しい。30代を過ぎれば、もう今後は衰える運命だと思わなければならない。

向上するのではない。衰えていくのだ。

特に40代を過ぎると「今後の自分は今の能力が発揮できない状況になる」と発想を転換しなければならない時期になる。

以後は「より劣化する」というのが自分でも意識できるようになっていくので、将来の自分の能力を過信しないのが重要になっていく。

病気になっても、老いても、能力が発揮できなくなっても、すぐに死ぬわけでない。死ぬのではなく、衰えていくのだ。衰えて弱くなっていく。そして、弱い状態の中で生きなければならなくなっていく。

自分が向上することを前提としてはいけない。それは正しい現実認識ではないからだ。それよりも、劣化することを前提としなければならない。つまり、肉体と知能のピークを過ぎたと実感した人は、弱くなっていく中でいかに生きるのかという現実主義の発想が必要となっていく。

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