暴力空間としてのインターネット。ここが平和な空間になることは絶対にない

暴力空間としてのインターネット。ここが平和な空間になることは絶対にない

多くの人は人格を傷つけるような誹謗中傷にさらされると、それを気に病み、恐れ、傷つき、落ち込む。しかし、それは「弱い」のではない。それが普通の人の姿なのだ。そんな中で、特に「繊細な心」を持った感受性の強い人たちは、激しい批判が続くと心が萎縮し、次第に精神のバランスを崩してしまうことになる。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019メディア『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)

必ず意見の違う人間同士がぶつかり、敵対し、対立する

最近、著名人がインターネットによる誹謗中傷で自殺したり、誹謗中傷と戦って慰謝料を取ることに成功したりするニュースが相次いでいるので、改めてインターネット内の誹謗中傷の問題がクローズアップされている。

2020年になってから政府は「投稿者の電話番号の開示」「迅速な情報公開を可能とする裁判手続きの新制度創設」などの検討に動いており、今後は加害者を特定しやすくなる。現段階で、発信者情報開示請求で得られる情報は以下のものである。

・氏名
・住所
・メールアドレス
・IPアドレスとポート番号
・インターネット接続サービス利用者識別符号
・SIMカード識別番号
・タイムスタンプ

誹謗中傷に遭ったら、証拠となるスクリーンショットを撮り、それを元に警察に相談に行き、警察からサイト・掲示板の運営会社に働きかけてもらい、弁護士を通して正式に発信者情報開示請求し、加害者を特定したらそのまま裁判で損害賠償(慰謝料)を請求するのがいい。

しかしながら、手間もかかれば費用もかかり、それを加害者に負担させることができるかどうかも確約できないので、個人ではなかなか動けない。

国はこうした発信者情報開示請求の手続きの簡素化や迅速化をすると共に、安価で弁護士を利用できるシステムと、損害賠償(慰謝料)の高額化をきちんと整備しておくと良い環境になるのではないか。

しかし、こうした誹謗中傷が「対策」で消えると思ったら大間違いだ。インターネット空間は誰でも何かを書き込める自由があるのだから、必ず意見の違う人間同士がぶつかり、激しい言葉を交わし、敵対し、対立する。そして、それが誹謗中傷として広がっていく。

きれい事など通用しない。美しい世界は永遠にない。互いに激しい言葉で傷つけ合う。インターネットとは、そういう世界なのだ。

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どんなに批判を受けようとも我を貫き通す人物

インターネットに蔓延する誹謗中傷の嵐に、ツイッターやフェイスブック等のSNS各社は、何度も何度も対応を迫られている。

しかし、状況はかんばしくない。接的な誹謗中傷は対策の抜け道を探して、言葉を変え、表現を変え、場所を変えていくので対策は後手後手になってしまう。対応しても対応しても新たな問題が出てくる。

その結果、もはやネット空間は「繊細な人」が生きていけないような無法地帯になっているように見える。自殺までに至らなくても、「インターネットは怖い」と吐露する人が私のまわりにも増えた。攻撃が先鋭化しているのだ。

一方で、この世には批判されても中傷されても罵倒されても袋叩きにされても、まったく何の痛痒も感じないばかりか、むしろ他人の中傷・罵倒をエネルギーにして燃え上がっていく人間もいる。

トランプ大統領は、まさにそんな時代に現れた現代の象徴だったとも言える。トランプ大統領の攻撃的な言動は敵を作り、反発と憎悪を呼びやすい。

さらに、トランプ大統領は言論空間を支配しているリベラルなマスコミをも敵に回している。だから、トランプ大統領はマスコミからも理不尽で容赦ない攻撃を受け続けてきた。ところが、それでもトランプ大統領は折れないのである。

それにしても、容姿から人格から政策まで、ほぼすべてに渡って凄まじい批判と中傷のネガティブ攻撃を受けても、気にしないでいられるというのは尋常ではない神経だ。

他人の評価のすべてを弾き飛ばす凄まじい闘争本能が最初から備わっている人物であるとも言える。トランプ大統領はツイッターを駆使した大統領だが、まさにインターネット向きだ。

企業家の中にも、やはり激しい罵詈雑言を浴びてもまったく意に介さない人間がいて、たとえばスティーブ・ジョブズなどはその典型だった。

どんなに批判を受けようとも我を貫き通し、逆に自分を批判する人間を痛罵し、平気で切り捨てるような荒々しい性格だった。社員であっても容赦しなかった。その荒々しさでジョブズも毀誉褒貶の多い人生を送った。

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人間の憎悪を止める方法は、発見されていない

誰もがドナルド・トランプやスティーブ・ジョブズのような、批判を物の数とも思わないような性格を持ち合わせているわけではない。

多くの人は人格を傷つけるような誹謗中傷にさらされると、それを気に病み、恐れ、傷つき、落ち込む。しかし、それは「弱い」のではない。それが普通の人の姿なのだ。

そんな中で、特に「繊細な心」を持った感受性の強い人たちは、激しい批判が続くと心が萎縮し、次第に精神のバランスを崩してしまうことになる。インターネットが精神を蝕む。

繊細な心を持った人たちは、インターネット時代になって壮絶に生きにくい時代に入っている。

インターネットの世界では、顔の見えない相手から突然、何の前触れもなく凄まじい批判が飛んでくる。そして、その批判と罵詈雑言は永久に記録されてそこに残る。

批判にさらされやすい有名人だけでなく、ごく普通の人たちでさえもそうなのだ。だから、インターネットの誹謗中傷が原因で深く落ち込んだり、鬱病になったり、自殺したりする人たちも激増した。

成人であっても誹謗中傷に耐えるのは覚悟がいる。

しかし、インターネットは成人だけのものではない。今や子供たちもスマートフォン経由でインターネットに接続し、SNSで友達とつながっている。だから、子供たちの間でもインターネットでのいじめが蔓延している。

インターネットは人々のコミュニケーションを円滑にする道具なのだが、それと同時に悪意と憎悪を相手に届ける道具でもあるのだ。

ここでは、憎悪が直接的で剥き出しだ。

そのため、もはや繊細な人たちが生きる場所は存在しないと思えるほど荒廃した社会になった。言論の自由があり、対策には抜け道がある以上、この荒廃はもっと加速していく。さらに深刻化する。

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誰もが暴力と対峙しなければならない日がくる

誰もが暴力的な言葉の攻撃に巻き込まれて他人事ではなくなり、恐ろしいことになる。もちろんインターネットの規制は強化されるが、いかに規制されたとしても、それでインターネットが平和で牧歌的な幸せ空間になることは絶対にない。

人間の憎悪を止める方法は、発見されていない。それは自分の身の回りの人間関係を見れば分かる。リアルの世界でも人間関係の対立やもつれや決裂があるのだから、インターネットでもそれが持ち込まれて当然だ。

人間は誰でも闇を抱えており、それはインターネットという空間にも充満する。そして、目を背けたくなる一歩手前まで状況は悪化していくことになる。

インターネットが深刻なのは、中傷や罵倒がいつまでも残って当事者を傷つけ続けるということだ。言葉の暴力が延々とリピートされる。言葉の暴力は世界の隅々にまで拡大し、浸透していく。

だから、現代社会で最も深刻な危機にあるのは「繊細な心の持ち主」なのである。今後は、素直で優しく感受性が強く敏感でナイーブな性格の人間が生きられないような世の中になる。

こうした人たちは実は人間社会で最も重要な人たちである。彼らは社会に潤いと優しさと慈しみを与えてくれる。彼らは愛を表現することができる。

繊細であるが故に、その繊細な機敏を文学や音楽や絵画によって私たちに気付きを与えてくれる。その繊細さが、私たちに思いやりの重要さを教えてくれる。美しい文化は、繊細な人たちの偉業で成し遂げられている。

ところが繊細な心の持ち主が生きていけないほどの罵詈雑言と誹謗中傷と叩き合いが蔓延するようになっている。そして、そうした叩き合いに耐性がついた人間が君臨していく世の中になっている。

叩き合いに耐性がついた人間というのは、自分が叩かれるのも平気だし他人を叩きのめすのも平気だ。もともと、そういう性格の人がいるのだが、全世界でこうした人間たちが台頭し、言葉の暴力が吹き荒れ、突き刺さる危険な世の中になっていく。

これは誰にとっても他人事ではない。暴力に満ち溢れた社会では、誰もが暴力と対峙しなければならない日がくる。

「繊細な心」は今後の世の中を生きる上で致命傷になってしまうのだろうか。今のままで推移すると、どうやらそのようだ。あなたは、暴力空間としてのインターネットで生きていけるだろうか……。

『他人を支配したがる人たち(ジョージ・サイモン)』

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