オーストリア・ウィーンから東に25キロ行ったところにある郊外の小さな街に、ひとりの無職の男がいた。オーストリア人の、どこにでもいるような風貌の36歳の独身の男だった。
職業は元通信技術者。真面目で孤独で面白味のない男だった。真面目すぎて結婚の相手も恋人もいなかった。ガレージと庭のあるごく一般的な一軒家にひとりで住んで淡々と日常を暮らしていた。
無職ではあったものの、きちんとした服を着て髪をきれいに七三に分けて、乱暴な言葉遣いも態度もするわけではないこの男は、誰が見ても無害な男に見えただろう。しかし、この男の心の中には邪悪な妄想が渦巻いていた。
無垢な少女を拉致し、監禁し、飼育するという妄想だ。
融通の利かない堅物のこの男は失業中だった。36歳で、このままでは未来も何もないように思えた。そこで、この男は自分の長らく思っていた危険な妄想を現実化することを思いついた。
失業していたので時間はたっぷりあった。この男は自分のガレージの下を掘って三畳ほどの地下室を作り、出入口のドアの外には重い金庫を置いて監禁している少女が自力で外に出られないようにした。
室内は簡素な子供向けの部屋のようなインテリアにされていて、決して豚小屋のようなものではなかった。この地下室を作った後、この男は実際にここに監禁する少女を拉致することにした。この男は本気だった。