世の中には男を騙すことしか考えていない「悪い女」も大勢いる。そんな女性にハメられたことは何度もある。人間なんて何を考えているのか分からないものだ。女性が本気で騙してきたら見抜けるはずなんかない。
真夜中を野良犬のようにうろついていると、多くの出会いがあって別れがあるのだが、多く出会った分だけ痛い目や悲しい目に遭わされてきた。さんざん騙されて、盗まれて、たかられて、ワナにかけられて、罵られてきた。
しかし、何もかも過ぎ去って、ただ想い出だけが残って振りかえった時、そんな「悪い女」ですらも懐かしくなることがある。「いや、彼女は本当に危ない女だった。今ごろ、どうしているのだろう」と思ったりする。
普通の人からすると、最初から騙すつもりで近づいてきた女性や、物を盗む女性や、罵倒してツバを吐くような女性を思い出したら、怒りでいっぱいになるかもしれない。しかし、私はそうではなかった。
どの女性も一緒にいたのは大して長い時間でもなかったし、私自身も人間関係に濃密なものを求めない性格だったからかもしれない。
とは言え、確かに騙されて嬉しいわけではない。その時は呆然として立ち尽くす。相手を見る目がなかった自分が情けなくなったり、後悔したり、頭を抱えてうめく。数日は苦々しく思って苦しむ。
しかし、騙されたから報復しようとか、復讐してやるとか、探し出して痛い目に遭わせてやるとか、そのような発想にはならなかった。
もし自分の手に負えないほどの悪女につかまって、全財産を取られたとか、殴られて身体に障害が残るような目に遭わされたというのであれば、また話が違ってきたかもしれない。私は、幸いそんな致命傷を避けられた。だから、私は今でも女性不信にならずに済んでいる。