自分を取り戻す方法。「過去のドアを開ける鍵」はどこにあるのか?

自分を取り戻す方法。「過去のドアを開ける鍵」はどこにあるのか?

ボブ・ディランの『時代は変わる(The Times they are a changin’)』という歌で、このような一節がある。

「あなたは、泳ぎ始めた方がいい。そうしないと石のように沈んでしまうだろう。時代は変わって行くのだから」

時代は常に変わっていく。それは止められない。昨日と今日はまるで同じ一日に思えるのだが、それでも10年前と今日では確かに時代が違っていることを私たちは振り返ることで理解できる。

誰もがそれを自覚している。しかし、人々があまり意識していないのは、時代が変わると共に、自分もまた変わっていることだ。誰もが無意識に、時代に合わせて自分を変えていく。

時代の空気を吸収し、新しく出現したいろんなモノを試し、適応し、それによって自分自身の生活や考え方も変えていく。10年経ち、20年経つと、誰もが昔の自分と同じではなくなっている。

それは時代に即して生きているのだから良いことなのだが、あまりにも流れに身を任せっぱなしでいると、やがて問題も起きてくる。捨ててはいけない「核」の部分まで捨ててしまい、その結果、自分が何者か分からなくなってしまうのだ。(鈴木傾城)

The Times they are a changin’

それは、自分の原点を見つけた心の躍動

時代は変わり、それに合わせて無意識に私たちは変わった。生き残る過程で、私たちは過去を捨てて現代に生きる。だから、人はふと自分を見失う。時代に合わせて変わることを必死で自分に強いて、自分が分からなくなるのである。

自分を見失った時、人はどうするのか。必ず自分の過去を振り返り、そして過去に戻っていこうとする。

人には過去があって、現在の自分がある。過去は永遠に自分の人生から去ることはない。自分が歩んで来た道はずっと記憶の中に残って、それは水彩画のようなイメージとして心の中に沈んでいる。

過去の出来事の積み重ねが今の自分を作り上げてきた。自分が何者か分からなくなったら、常に過去を辿っていかなければならない。

人の心はもろい。ふとしたことで傷つき、ふとしたことで自分を見失う。

もし深く傷つき、誰かに慰めて欲しいと思った時、私たちは気心知れた「昔からの友人」に会いにいく。最近知り合った友人よりも、古くから知っている友人に会いたいと思う。

なぜ「旧友」を無意識に求めるのか。旧友こそが昔の自分を知っていて、自分を理解してくれると感じるからだ。時代は変わっても旧友の性格や性質は変わらない。そのまま、そこにいてくれる。

過去に戻っていくことが重要なのを、人は無意識に知っているのである。

人は傷ついた時、昔に戻っていく。過去に戻るというのは、心を自浄する作用がある。郷愁を感じた時、私たちは何とも言えない心の和らぎや心地良い興奮を感じないだろうか。

それは、自分の原点を見つけた心の躍動だ。

進むべき道を見失った時にすべきこと

まだ自分が若かった頃の楽しかった「あの頃のこと、あの頃の人」は、「自分だけの宝」だ。当時は何でもなかった出来事も、それが郷愁にまで昇華したとき、それが自分にとっての幸せとなる。

その想い出が今の自分を作り上げた原点なのだから、過去を振り返ることこそ、自分の原点を取り戻すことになる。

たとえば、知らない街に辿り着き、方向を間違い、進むべき道を見失ってどうしていいのか分からなくなったら、誰でも分かるところまで戻る。そして、自分の居場所をしっかりと確認してから、正しい道に向かって歩き出す。

人生の道も同じだ。自分を見失ったら、過去に戻って原点をしっかりと確認してから、再び未来に向けて歩き出す。

自分を見失った時こそ、静かなひとりの時間を見つけて、しっかりと自分の原点を見つめる作業が必要になる。何が自分にとって正しいのかは、過去に答えがある。進むべき道は過去に聞かなければならない。

容赦なく変わっていく時代の渦に溺れて自分が分からなくなったら、立ち止まってひとりになり、静かに過去に戻る準備をしなければならない。

過去の想い出が自分の原点だ。タイムマシンに乗ったように自分の人生を逆に辿っていくと、そこに自分が忙殺されて忘れていた「生きている意味」を再発見することができる。

自分と同じ人生を歩んでいる人間は世界中どこにもいない。自分の人生は自分のものだ。だから、過去に戻るという作業は、他人に任せることはできない。自分が自分の原点を見つけに行かなければならない。

過去に戻る「きっかけ」になるもの

まだ若かった頃、夢中になって読んでいた本、夢中になって聞いていた音楽、夢中になって見ていた映画がそれこそ山のようにあるはずだ。

時代が変わったと気付くのは、そういった「昔、夢中になっていたもの」に触れるときだ。あれだけ好きだったものが、いつしか時代に取り残され、そして大勢の人たちの記憶からも消えている。

しかし、自分がそれに夢中になっていたとしたら、それは決して消え去らない。自分の人生に織り込まれているからだ。

重要なのは、その時代、その時期に、自分が心から惹かれた本、音楽、映画に改めて触れるというのは、簡単に過去に戻るための方法でもあるということだ。

古い本、音楽、映画が決して消え去らないのは、多くの人にとってそれが自分の過去を振り返るための「きっかけ」だからだ。それに触れた瞬間、まるで魔法でも作用したかのように、一気に過去に戻っていく。

他人にとって評価されないものであっても、自分がそれに夢中になったということは、自分の人生にそれが織り込まれたということでもある。それこそが、自分の宝なのだ。人生で非常に重要なものなのだ。

あなたも、「それ」に触れた瞬間に、一瞬にして過去の郷愁に戻れる何かを持っているはずだ。

音楽であれば、それを聴くたびに、自分が輝いていた頃、つまり原点を想い出すものがあるはずだ。それは、「過去のドアを開ける鍵」なのである。

すべてのドアは合う鍵が違うように、過去に戻るためのドアを開ける鍵は人によってすべて違う。あなたが過去に戻る「きっかけ」になる本・音楽・映画は、何だろうか?(鈴木傾城)

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