大阪のドヤ街「あいりん地区」はどんな光景だったのか?

大阪のドヤ街「あいりん地区」はどんな光景だったのか?

かつて労働者の街と呼ばれた大阪のドヤ街「釜ヶ崎」は今では「あいりん地区」と呼ばれるようになっているのだが、名前が変わったのと同様に、街の性質もまた変わっている。

この街はもう労働者の街ではなく、福祉の街である。福祉の街というのは、福祉が行き届いた街という意味ではなく、年老いた労働者が生活保護や年金を搾取されながら暮らす街になったということだ。

生活保護を受給するためには、そうした交渉に慣れた人間が一緒にいくと受給しやすくなる。

そのため、あいりん地区ではドヤを経営する人間、介護施設、NGO団体、宗教関係者、政党が労働者を囲い込んで生活保護を受給させるように手配する。

そして、それを搾取する構造ができている。

もらえる福祉の金を搾取する。だから皮肉を込めて「福祉の街」と言われるようになっているのである。

そして、生活保護で生きながらえている高齢者から、さらにパチンコ店、ゲームセンター、中国人が経営するカラオケ居酒屋が金を散財させるように朝から晩まで老いた労働者を呼び込んでいる。そんな街を歩いてみた。

あいりん総合センター付近

労働者がいる街は、必ずこうした労働者を団結させて蜂起させる団体が活動をしている。現行の政府、あるいは資本家に対する怒りの勢力、そして反体制というのは貧困の中で育つ。

あいりん地区の「あいりん労働公共職業安定所」のまわりは仕事にあぶれた労働者で溢れている。この職業安定所は特別だ。建物のまわりだけでなく、建物の中でも労働者が寝ている。

ブルーシートが道の脇を占拠している。それぞれが労働者たちの商売道具や所持品である。そして、ブルーシートそのものが労働者の必需品でもある。

洗濯物を干したりしている人もいる。この路上が生活の場になっている。このブルーシートの奥で寝ている人もいる。通りかかると、小便の臭いが漂う箇所もあったりする。

仕事にあぶれた人が、職業安定所の前で談笑したり、情報交換したりしている。等間隔に荷物が置かれたりしているので、それぞれ縄張りがあることが分かる。

読書をしている人もいる。労働者の中には意外にも、前身が小説家だとかミュージシャンだとか、そういった職業だった人も多いと言われている。山谷では身寄りがなくて行き倒れになって死んだ人が、実は小説家だったという話もあった。人生はいろいろだ。

新聞を読んで時間をつぶしている高齢者もいる。新聞には、何か有益な情報が載っているのだろうか。

段ボールの山の中で寝ている人もいる。仕事にあぶれたら、体力の温存のために寝るのが一番だ。10月はまだいいが、真冬になると、凍り付くような寒さの中で路上で寝るのも大変だろう。

こうしたところに集まっている人たちの多くは60代以上の高齢者だ。もう「労働者」は老いてしまったのだ。

あいりん地区の街

あいりん地区の至るところで見る「まんぷく」屋。あいりん地区の高齢者に支持されている。中には「ライスだけ」を買いに来る労働者もいた。

あいりん地区というよりも、大阪全体で目立つ「スーパー玉出。相変わらずパチンコ屋のような看板である。あいりん地区でも3軒はあった。やはり、いろんなものが安い。その変わり、食品も飲料も、聞いたことがないようなメーカーのものばかりだ。

缶ジュースは50円から。相変わらず安い。

立ち飲み屋のような店も目に付く。大通りは安宿目当てで来た外国人も、物珍しく思って立ち寄っているようだ。労働者は安酒と一緒にホルモン焼きを食べている。

要塞化している「西成警察署」。1990年代はしばしば襲撃されていたのでこうなったのだが、今では街が高齢化して暴動が起きそうにない。この警察署の前に座り込んでいる人もいるが、他の地区と違ってあいりん地区では慣れた光景のようで警察も放置している。

路上で細々と何かを売っている人がいた。何を売っているのだろうか。近づいてみる。

靴を売っていた。新品なのか中古なのかよく分からないのだが、見栄えはきれいだ。

路上で寝ている老人と、大声で「こんなところで寝たらあかん!」と大声で諭している女性。かつては、路上に行き倒れるように寝ている人も多かったようだが、最近ではあまり見かけない。

あいりん地区の労働者支援で有名な「いながきひろし」氏の事務所前。

支援所自体が、もうだいぶ古くなってしまっている。しかし、炊き出し等の活動はまだ続けておられるようだ。

西成区は創価学会もまた強い地盤を持っていることで知られている。

街のあちこちで公明党のポスターが貼られていた。「希望がゆきわたる国へ」というのだが、あいりん地区ではいささか虚しいスローガンのように見える。

そう言えば、脅し系もある。「酒の悪霊、博打の悪霊、淫乱の悪霊、人殺しの悪霊、病気の悪霊、嘘つきの悪霊」を追放してくれるのだという。ところで、この「赤い十字架」だが、この十字架には気を付けた方がいい。「赤い十字架」は普通のキリスト教とは違って裏がある。

座り込んだら立てなくなり、必死で立とうとしている高齢者の姿もある。

杖をついてよたよたと歩いている高齢者もいる。足腰が弱ってしまったら、肉体が資本の労働者はもう何もできない。あとは生活保護や福祉で細々と生きていくしかない。

まだそれほど寒くないのだが、冬物で厚着している高齢者もいる。重ね着しているのだろうか。重ね着している労働者には他にも多く会った。

座り込んでいる労働者。イヤホンで音楽を聞いていたり、ファッション系の指輪をしたりしているのだが、もしかしたらミュージシャン崩れだったのかもしれない。

柱に向かって、あたかも現実逃避しているような人もいた。

歩いている人は、高齢者の姿が圧倒的に多い。

もしかしたら病気なのだろうか。おぼつかない歩き方で簡易ホテルに入っていく高齢者。スリッパだ。

ただ、立っているだけのように見えるが、30分ほどして同じところに通ると、まだ同じ姿勢で立っていた。恐ろしく気が長い熟考だ。

介護施設もあって、車イスで介護士と街に出ている高齢者の姿もある。

その介護士の向こうには、くず集めをしている人が台車を押していた。

よく注意してみれば、あいりん地区では、こうして台車を押している人はかなりの頻度で見る。

「覚醒剤一掃宣言地域」の看板。かつてあいりん地区は覚醒剤が路上で密売されていたのだが、ここ最近は警察の目が厳しくなって廃れたと言われている。

仕事にあぶれた顔馴染み同士は路上で酒を飲みながら、延々と何か話している。

疲れ果ててしまったような労働者の姿もある。まだ座って眠っているだけでも体力が残っているということなのだろうか。

あいりん地区ではコインロッカーも良い商売になっているようだ。ほとんどが埋まっている。

他の労働者と交わらず、ひとりでいたい労働者もいるようだ。

大勢の労働者が座り込んで時間をつぶしている。仕事にあぶれたら、一日やることがない。

あいりん地区の商店街

商店街は、中国人がやっているカラオケ居酒屋だらけになっている。最近、中国人がどんどんあいりん地区の商店を買い取っていると言われており、気付けばこのあたりは中華街になっているのかもしれない。

中国人カラオケ居酒屋、飲み屋、パチンコ屋、ゲームセンター、麻雀屋。堕落が商店街を埋め尽くす。

麻雀屋に「男の美学」なるものが貼っていた。「20代30代は男に成りたい。40代50代は男でありたい。60代70代は男で死にたい」とある。同意する。

特集:ストリート漂流

 

ドヤ街、ちょんの間、歓楽街……。鈴木傾城が日本のいわくつきの場所を歩く。ブラックアジア「ストリート漂流」。

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