私が「アジア」と言ったとき、私の中にあるのは「東南アジア」のことだ。生まれて初めて海外に出て、生まれて初めて放浪した大地は、まさに東南アジアだった。
私はバンコクを抜けてタイを南に下っていき、現在は独立闘争で揺れているタイのヤラー県をさまよい歩いて、東南アジアの豊穣に感銘を受けていた。
あれから私の行動範囲はとても広がって、一時はメキシコにまで惹かれたこともあったが、ふと気がつくと東南アジアが懐かしくて仕方がなくなって、また東南アジアに戻っていった。
タイは今でも私のお気に入りの国だが、ちょうど1990年代からこの国は工業化の流れに乗ってどんどん経済発展していった。
街の至るところが工事中になって、いつの間にか私が想い出を持っていた光景は、ひとつ、そしてまたひとつと消えて行った。