日本でも地方には古い町並みが残されていることがある。たまにそういったところを歩くと、郷愁を覚えたり、子供だった頃のことを思い出したりすることも多い。
古い町並みには、その雑然としたものが醸し出す何か不思議な雰囲気があって、それは多くの人を惹きつける。
古い町工場の油の音、八百屋の店員の声、駄菓子屋の毒々しい色をしたお菓子、下町の長屋から漂う夕食の匂い、子供の泣き声、狭くて雑然とした路地裏……。
当時を生きていたときは、そんな光景に意味があるとは誰も思わない。
しかし、そういった光景を失って何十年も経つと、あの雑然とした空間が、実は自分たちを育んでくれた大切な繭(まゆ)だったことに気付く。
都市開発はどんどん進み、古い建物は取り壊されてなくなっていく。そうやって街は知らない間に変わっていき、私たちはかつての光景を懐かしみながらも、今を生きるしかない。