哀しいとき、あるいは感銘を受けたとき、人は涙を流す。これを「情動の涙」というが、人間だけが流すことのできる独特の涙である。
この涙は、目にゴミが入ったときに流れる涙とは根本的に違うものである。感情や共感が涙を誘うのだ。
なぜ人間だけがこの涙を流すことができるのかというと、人間の脳のうち、情動の涙は前頭前野(前頭連合野)に関係しているからである。
前頭前野は脳の中でも非常に重要な働きを持っており、「考える」「決断する」「学習する」「想像する」「記憶する」という部分のほとんどを担っている。
生物は、食べて寝て繁殖していれば本能で生きられる。しかし、人間は、考えて、想像して、感動する能力が極めて発達しており、本能以外に発達した部分が「人間らしさ」を生み出しているというのが分かるはずだ。
だから、「感動はまったくしないし、感動で涙を流したことがない」とうそぶく人がいたら、いろんな意味で問題があるということが分かる。