文明の進化とは「肉体感覚を喪失させる方向」で進んでいることは以前から指摘されている。
肉体感覚の喪失は、都市化された文明の最先端で顕著だ。人々は歩かなくなった。車が普及し、交通が発達し、歩かなくてもよくなったからだ。
エアコンディションもまた肉体感覚を喪失させる。温度を一定化させることによって、肉体感覚を感じないようにしているのだ。
私たちはシャワーを浴びて清潔な状態を保ち、ふかふかのベッドで快適に寝ることができる。清潔な状態も、心地良いベッドもすべて、肉体感覚を喪失させるものであることに気付いている人はいるだろうか。
現代人は体臭を嫌うようになっているのだが、それもまた肉体感覚の喪失に邪魔なものだからだ。
医学の発達もまた肉体感覚を喪失させていくものだ。病気を消し、身体の痛みを消し、違和感を消し、症状を消す。医学はまさしく、肉体感覚を喪失させようとしている。
文明の方向性はすべて、肉体感覚の喪失を目指して突き進んでいる。(鈴木傾城)