売春地帯をさまよい歩いた日々

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◆さよなら、女たち(4)。ヌーリの故郷メダンを訪れて想う

インドネシア編 翌朝、ヌーリを一度セチア・ジャヤに帰したが、昼下がりにはすぐセチヤ・ジャヤに行って彼女と合流した。 翌日、バタム島を経由してシンガポールに戻るつもりだった。それを伝えると、彼女は不安そうな、落ち着きのない表情をした。小さな顔の大きな目が、食い入るように私を見つめている。 「今度はいつ来るの?」 カレンダーを見つめ、恐らく大丈夫だろうと思われる2ヶ月後を指差した。 「戻ってきたら、ま […]

◆さよなら、女たち(2)。ヌーリの手首に自殺未遂の切り傷

インドネシア編 リッキーにセチア・ジャヤへ急いでもらう。すっかり陽が落ちており、夜のセチア・ジャヤに向かう道は、街灯のまわり以外は漆黒の闇の中であった。 狭い「秘密の路地」を抜けて見えてきたセチア・ジャヤの建物も、半分以上が闇に溶けて薄気味悪い。しかし、それを見て逆に安心した。 いくら何でも、こんなところにやって来る客もいないだろうと思ったからだ。時計を見ると、もうとっくに7時を過ぎていた。2階の […]

◆さよなら、女たち(1)。セチア・ジャヤで出会ったヌーリ

インドネシア編 初めてインドネシアのビンタン島を訪れたのは雨期の頃だった。 空はどんよりと曇っており、タンジュン・ピナンに降り立つと小雨が降っていた。雨足は強まるばかりで、ホテルに着いた時はすっかり濡れそぼっていた。暗く、陰鬱だった。 それから私はたびたびビンタン島を訪れているが、この島はいつも陰がつきまとっているように思えた。 ビンタン北部にはリゾート地がある。しかし、そこには訪れたことがなく、 […]

◆タンガイルのアイシャ(2)。隙間だらけのアイシャの部屋

バングラデシュ編 このようなこともあり、この日は通常の倍以上の時間をかけてタンガイル入りした。 この地方都市はアリチャやナラヤンゴンジとは違って、あまり歴史を感じさせない。 砂塵が舞い散っているせいか、まるで砂漠が近くにあるような、乾いた感じの雰囲気を醸し出している。ヒンドゥー教徒も多く、街中にヒンドゥー寺院もあった。 リキシャの群れを横目で見ながら売春地帯に入っていくと、昼間だと言うのに、すでに […]

◆巨大売春地帯の崩壊(2)。爛熟すれば破壊されるのが運命

バングラデシュ編 バングラデシュの政党は、配下に暴力団を持っている。そして、その暴力団が売春地帯を支配している。 つまり、バングラデシュにある売春地帯はすべて、その地域の政治家の利権の温床なのだ。 ナラヤンゴンジのタンバザール地区にある同国最大だった売春地帯も、また民族主義党系の暴力団からショバ代として利権を吸い上げられていた。 それが、この長い歴史を持つ売春地帯の悲劇のはじまりだった。 ナラヤン […]

◆人生を捨てた女の瞳。山奥の売春地帯にいたエラの静かな威厳

インドネシア編 人生を捨てた女の目を、あなたは見つめたことがあるだろうか。それは、とても強烈なものだ。 寂然(せきぜん)の瞳というのだろうか。ままならぬ人生に長らく耐え、もの哀しさを抑えた瞳。それでいて、猛烈な意志の強さをまだ失っていない瞳。 エラの眼差しを忘れることはないだろう。 貧困、家族との別離、そして差別と言った理不尽な仕打ちに耐えながら、何百人、何千人の男に身体を預けて来た女の、激しいけ […]

◆不気味なインドネシア・モロ島と、打ち捨てられた村の女性

インドネシア編 目的もなく、はっきりとした予定もなく、ただひとりで好きなように地を這うのが私の旅だ。そこに行けば何があるのか分からないので、そこに行く。 何もないかも知れない。しかし、何もないということが印象に焼き付いて、忘れられなくなる。 インドネシアのリアウ諸島に「モロ島」という島がある。そこに行ったのも、ただ行ってみたいと唐突に思っただけで、予定に組み込んでいたわけでも、何かを探していたわけ […]

◆デリア(2)デリアはどこかに隠れて見ていたはずだった

インド編 寡黙なデリアと、威厳のある老人のふたりに導かれてデリアの部屋に入る。狭い部屋はむっとした空気に包まれており、じめじめして気持ちが悪かった。 デリアは小さな木枠の窓を開けた。外側から金網が頑丈に張っていて、誰も入れないし、逃げられないようになっている。 (ああ、ここもケージ(鳥かご)なんだな……) 何となくそんなことを考えた。こんなものは壊そうと思えば壊せるが、心理的な圧迫感はある。 ムン […]

◆デリア(1)。暗闇の中でじっと私を見ていたベンガル女性

インド編 インドの売春地帯で知った顔が増えてくると、あちこちの女性と話し込むことも増える。 女性たちも、異国から来た男に慣れてくると、暇つぶしにちょうどいいと思うのか、帰ると言っても帰してくれない。 話の内容は、どの女もほとんど決まっている。 他の女の悪口か、自分はいかに金がなくて生活がつらいかという愚痴である。そして、最後には「金をくれ」「バクシーシ」となる。 どうしても男が金を出さないと、金切 […]

◆ジーナ(2)頼りなげな女性でも出稼ぎに行かざるを得ない

フィリピン編 (前編はこちら) もっと話を聞きたいという気持ちはあったが、もうこの件に触れるのはやめた。 中東での経験は彼女に深い心の傷を与えていることがその表情で分かったし、すでに彼女は身体を硬くしていた。その態度で察するものがあった。 (性的ないやがらせをされたな……) この小柄なフィリピーナは、苦しい仕事に耐えて、やっとの思いでフィリピンに逃げ帰って、今では外国人相手に売春をする生活をしてい […]

◆ソウビター。幼児の横で売春ビジネスをするモラルなき女性

インド編 インドでは出会う女性すべてが、禍々しいまでに強烈だ。 強烈な個性、強烈な行為、そして信じられないまでの強引さと予期せぬ行動……。 日本や東南アジアで培ってきた常識や暗黙の了解は、インドの女性にはまったく通用しない。気質も、性格も、行動様式も、何もかもがまったく違う。 常識が通用しないし、合理性も、一貫性もない。そして、大きなものがひとつ欠けている。それは「モラル」だ。 ソウビターという女 […]

◆40度を超すコルカタで、生まれて初めて「太陽が憎い」と感じた

インド編 あなたは、太陽が憎いと思ったことがあるだろうか。私はある。インドで、生まれて初めて太陽が憎いと思った。 熱帯の国が好きだったはずだが、インドで膨大な熱を放出する燃える赤い球体に文字通り、殺意を覚えた。 来る日も来る日も続くこの灼熱地獄に苦しめられていると、だんだん自分の中でどこか正常な感覚が壊れていく。身体の内部から熱くなって悶え苦しむ。 何しろ、真夏のコルカタの気温は簡単に40度を超す […]

◆アジアの女性は、貧困に落ちた日本人でも愛するだろうか?

フィリピン編 フィリピンをさまよっていると、どんな場所に行っても、たとえ知らないスラムに紛れ込んでも、会うことになる「女性」がいる。それは、「日本語ができる女性」だ。 路地裏の、どこかの店で歩き疲れた身体を休めようと座る。そうすると、すぐに人が大勢集まって、好奇心いっぱいに声を掛けてくる。 「どこから来たの?」「何してるの?」 日本から来たと答えれば、まわり中に「日本人がふらふらやって来た」と噂が […]

◆真夜中のムンバイ。路上生活者が静かに行う性行為の哀しさ

インド編 はじめてムンバイに入ったのは、真夜中だった。空港からタクシーで中心街に入る際、じっと外の光景を見ていたが、絶句するしかなかった。 (ここは戦争でもあったのか?) くすんだバラック小屋。焚き火。道ばたで崩れ落ちるようにして眠っている莫大な人々の群れ。 道路の片隅にうずくまって、じっとこちらを見つめる陰気な目。暗闇でゆらめいている真っ赤なサリー。 想像を超える貧困の光景に、言葉を失ってしまっ […]

◆見えない鎖(2)。私とサンティは、社会の嫌われ者だった

インドネシア編 サンティが嫌われて皆から遠ざけられている理由は、ふたりでテラスに出てから知ることになった。 そこでは3人ほどの娘たちがビデオCDをテレビで見ていた。中にはビデオに合わせて鼻歌を唄っている娘もいた。 ところがサンティは、そんな先客にお構いなく、いきなりビデオCDを切ってしまった。それから中のCDを勝手に取り出して、代わりに自分の好きなCDに入れ替える。 さっきまで気持ち良さそうに鼻歌 […]

◆見えない鎖(1)。わざと嫌われることをして孤立するサンティ

インドネシア編 自分が好きになった相手を思い浮かべて欲しい。好きになった相手に、自分と同じ「波長」を感じないだろうか。 人は、自分と同じ心理・境遇・人生・悩み・欠点を相手から感じると、「同じ匂いがする」とか「波長が同じだ」と表現する。 相手のやること、なすことが自分に似ている。自分と同じ欠点があるので、行動や心理が読める。あるいは、相手の置かれている立場が似ている。 だから、相手の気持ちが説明され […]

◆インド売春地帯を徘徊する暴力団を、身を縮めてやり過ごす

インド編 インド・コルカタのムンシガンジ・スラムの一室で窓の外を眺めていると、ギャングの一団が見えた。 女性を威圧するような目つきで歩く男たちの姿は、遠くから見ていてもどこか背中が冷たくなるような緊張を覚える。 「ほら、ギャングがいる」 一緒にいた女性に言うと、彼女は恐る恐る窓の外を眺めたが、やがて静かに窓を閉めた。 彼女の大きな目はどこか不安げだった。ギャングたちを怖がっているのがその挙動で分か […]

◆アドレナリン・セックス。ラクミが暴力で教えてくれたもの

インド編 インドの売春地帯に放り込まれた女性は、文字が読めないどころか、まったく教育を受けたこともないことが珍しくない。 そんな中で、激しい自己主張を繰り広げ、生きるために信じられないほど荒々しく、粗野になった女性も多い。 売春地帯では年中、どこかから女性の罵声や悲鳴が聞こえてきたり、女性同士が殴り合って喧嘩している姿を見る。 欧米や東南アジアの売春地帯では、男というのは「誘う」ものだが、インドの […]

◆ミミンの匂い(3)私の大切なミミンの匂いが消えてしまった

インドネシア編 昔、子を失って悲嘆に暮れている母ザルがいたという。 愛する子供が死んでしまったのだ。母ザルは泣き声を上げ、悲しみに暮れ、やがてその母ザルもまた子供を追うように死んでしまった。 その母ザルの腸は、失った愛児の死を想うあまり、ズタズタに傷ついてちぎれていたそうだ。 それから、自分の身体が傷ついてしまうような悲愴な哀しみのことを「断腸の思い」というようになった。 愛する者を失った失意とい […]

◆ミミンの匂い(2)結婚して、ふたりの子供を作りましょう

インドネシア編 夜が近づくにつれ、だんだん落ち着かなくなってきた。 頭の中にあったのは、今日の朝の別れ際に切ない目でこちらを見ていたミミンの顔だった。 気がつかない振りをしていたとしても、ミミンのすがるような目つきは脳裏に焼きついていた。 約束を破ったら、ミミンはきっと失望する。考えてみれば、ミミンは思っていることがそのまま顔に出てしまうような危うい素直さを持っている。 しかし、会いに行けば深みに […]

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