欲望の渦巻くアジアの夜の街は、マラム(夜)になってもさまざまな人間があたりを徘徊している。 近くの村からは自家栽培した芋や野菜を天ぷらにしたものを売りに来る老人もいるし、いつまでも寝ないで駆け回って遊んでいる子供も多い。 客を待っているのか、暇を持て余しているのか、根の生えたように売春地帯で暇をつぶすオジェッの運転手もいれば、ある女性に惚れているらしく、彼女の側を離れようとしないオジェッの若い男も […]
いつもの如く、夜も9時を過ぎた頃にソナガシの奥の奥を歩いていると、大勢固まって立っている女性のひとりが飛び出してきた。そして、腕をがっしりとつかんで離さない。 アーリア系民族独特の高く隆起した鼻、そして落ち窪んだ眼窩に、幾重にも折り重なったまぶた。典型的なインド女性の姿だった。目尻に皺が見える。 「ジキジキ!」 彼女は大声でそう叫ぶ。そして、建物の中に引きずり込もうとする。普通、男に選んでもらおう […]
リヤンティという名のインドネシアの女性と出会ったその日、男という生き物とは「いったい何なのか」が分かったような気がした。 リヤンティと出会ったとき、彼女は赤ん坊と遊んでいた。そのときの彼女の赤ん坊を見つめる「目」と、彼女が夜のビジネスを終えて男を見る「目」は同じだった。だから、はっと気がつくものがあった。 そうだった。赤ん坊も、男も、女の身体に依存している。男は赤ん坊のときに女性の乳房を与えられ、 […]
インドリィという娘の転落はどこにでもある話だった。彼女は不器用な女性で、人見知りはするし、それほど聡明でもない。そんな女性が何もない田舎から都会に出てきて、働くところが見つからないまま転落して夜の世界に堕ちていった。 それは絵に描いたような転落話で、「ありふれた話だ」と多くの男が見向きもしない。しかし、それは彼女自身にとっては、ありふれた話ではない。 自分の人生に起きている失意の出来事に驚き、そし […]
コルカタにはボスティ(スラム)が多く存在する。そして大小は別にして、ボスティのまわりには売春地帯が存在する。スラムから抜け出せない男が、スラムから抜け出せない女を売るからだ。 コルカタのある川沿いに拡がるボスティにも売春宿が立ち並んでいるのはよく知られている。ここはソナガシと違い、外国人の姿はほとんどない。ここは現地の男たちがさまよう売春地帯である。 評判は芳しくない。 何しろ治安が悪く、昼間でも […]
女性はいずれ若さを失い、華々しさを失い、男たちにちやほやされなくなり、やがては恋愛の第一線から退いてしまう。それで女性の人生は終わってしまうのだろうか。 実は、案外そうでもなさそうだ。インドネシアの山奥に棄てられた女たちを見てきてそう思う。 そこは売春が渦巻く堕落した村のはずなのに、老いた女性たちがとても慈愛を受けた生活をして、静かに、優しく人生を送っている。熱い身体で男たちを悩殺してきた女性が、 […]
インド売春地帯ほど、資本主義が剥《む》き出しの場所はない。多くの日本人が耐えられないほどの格差と残酷さがそこにある。そこは「地獄」と言っていいかもしれない。 それがインド売春地帯である。 資本主義は豊かな者と貧しい者を|乖離《かいり》させる。富める者はますます富み、貧しい者はますます奪われていく。 インドでは中部の農村とニューデリーやムンバイの中流階級では収入が百倍にも二百倍にも違ってくる。昨今の […]
今までさまざまな女性を思い起こして、その女性の不幸を思い返して哀しい気持ちになったり、どうしているのかと想い返したり、気にかけたりすることがある。 中には、とても不幸を感じさせるガラス細工のように壊れそうな娘の思い出もあり、それをふと思い出しては、切なく哀しい気分になることもある。 アニス。彼女もまた、そんな女性のひとりである。 今、目の前に一枚の写真がある。水色のワンピースと肩の部分がシースルー […]
シンガポール・チャンギ空港に着いたのは夜中だったが、そのままタクシーに乗り込んで、まっすぐにゲイラン・ストリートへ直行した。 ゲイランはシンガポールの売春地帯だったが、同時にホテル街でもある。運転手も売春地帯に向かう日本人をさほど奇異に感じないようで、黙ってゲイランまで連れて行ってくれた。 ゲイランで適当なホテルに宿を取って時計を見ると、午前二時に近い。ニヤリとした。 ゲイランに立つ女たちが増える […]
知られたくない秘密を何とか必死で隠そうとする女性がいる。その秘密は分かりやすいものもあれば、最後まで窺い知れないものもある。ポピーもまた秘密を隠した女性だった。 ポピーはなぜ、そんな態度だったのか。あの妖気はどこから来ていたのか。 なぜ、抱えるほど大きなハンドバッグを持ってきたのか。その中には何が入っていたのか。なぜ、それが必要だったのか。なぜ、ビンタン島よりジャカルタのほうがクリーンだと言ったの […]
貧しい国、悲惨な境遇、追い詰められた女、絶望……。そう並べると、女性たちは誰もが意気消沈して暗い目をしているという光景が目に浮かぶと思う。それは正しくもあり、間違ってもいる。女性たちの態度は、ひとりとして同じではない。 確かに押しつぶされている女性も圧倒的に多い。ところが、中には信じられないほどの傍若無人の態度と、度胸と、果てしない強情な性格を持った女性もいる。 一瞬も気を緩めることができそうにな […]
先日、ふと埋もれた本棚の奥の奥にあった一冊の本をまた手にした。『乞食の子』という書籍だ。 この本は、以前、ブラックアジアに紹介したことがあったが、調べてみると、ちょうど10年前に紹介したものだった。改めて紹介したい。 この本はすでに絶版になっているので中古書籍を買うしかないが、壮絶な貧困の暮らしを知りたい人は、読んでみても無駄ではないと思う。
南国インドネシアのリアウ諸島は新鮮な果物や魚介類が採れてうまい食事に事欠くことがない。 パサル(市場)に行くと肉も野菜も果物も魚も豊富に山積みされている。よく分からないものがたくさんあるので、実際に食べるかどうかはともかく、長い間見ていて飽きることがない。 高級なホテルのレストランでも、道ばたのワルン(屋台)でも、その国、その地域、その場所で、日本とは違った料理がたくさんある。 リアウ諸島・ビンタ […]
ちょっとした表情、しぐさが気になる。意味深な視線が気になる。どうしてもそれを知りたい。そして、「謎」を知るために、その女性を追いかける。意外にそういう経験がある男は多い。 秘密は男を惹きつけるのだろうか? どうやら、そのようだ。インドネシア・バタム島で知り合ったリア・ピーについては、まさに彼女の「当惑」がいったい何だったのか、その秘密が知りたくてしかたがなかった。 いったい、リア・ピーはなぜ、そん […]
彼女の名前はシタと言った。清楚で端正な顔立ちをした娘で、歳はあえて訊かなかったが25歳前後に見えた。インドネシア領バタム島で出会ったのだが、彼女の出身はバンドゥンだった。 バタム島の夜のビジネスに関わっている娘たちは、大抵が近くのスマトラ島やカリマンタン島から出稼ぎに来ている。ここバタムでバンドゥンから来たという娘に会うのは彼女が初めてだった。 ジャカルタで夜のビジネスに従事している女性の多くはバ […]
インドネシアの首都ジャカルタ・コタ地区ジャラン・テー(Jl.Teh)にある置屋で会った娘のことを思い出すと、とても複雑な気分になる。彼女の名前はリリーと言った。猫のような目を持ったキュートでかわいらしい娘だった。 この置屋は舗装もされていないわき道にある寂れて汚れた建物のひとつであり、看板さえ出ていない。店かどうかは一見してまったく分からないし、入り口は狭くて飾りらしい飾りもなく殺風景この上ない。 […]
インドネシア・バタム島。ここには夜の世界に棲息する男たちの誰もが「良い」と口を揃えて認める有名なカラオケ屋がある。 『ハリウッド』だ。名刺には『スポーツ・マッサージ&ミュージック・ラウンジ』とある。「スポーツ・マッサージ」が何か別のものを意味していることは誰もが知っている。 インドネシアは建前と本音が明確に区別される国であり、置屋もまた名刺には建前を装っているのだ。 間違えても「セクシャル・マッサ […]
閲覧注意 ここ数日、パキスタンのニュースの一面を飾っているのは、ファクラ・ヨーヌスという女性の自殺の記事である。彼女はパキスタンの女性で、自分の夫にアシッド・アタック(酸攻撃)された。 顔面は破壊された。鼻も口も、すべてが完全に溶解して呼吸ができないので攻撃を受けたその日のうちにも死亡すると思われた。 それほどの損傷だったにも関わらず、彼女は奇跡的に生き延びた。それから10年。彼女は36回にも及ぶ […]
東南アジアきっての歓楽街、世界で名だたる売春地帯、アルコールと音楽、退廃とエイズ、美しい女と妖しいガトゥーイ(性転換者)のあふれた現代のソドム。 多くの男たちの人生を狂わせた街、それがバンコクの一角にある毒々しい不夜城『パッポン』である。 パッポン……。 はじめてこの街に足を踏み入れたのは一九八六年春のことだった。当時はまだ道を埋め尽くす屋台などはなく、どこか殺伐とした匂いが漂う筋金入りの売春街だ […]
カンボジア絡みつくような熱帯の空気、豊饒な土の匂い、スコールの後の揺らめく水蒸気、ほのかな風に揺れるヤシの葉、匂い立つマンゴーの実、そして寝苦しい夜に心まで熱くしてくれる夜の女たち……。 誘蛾灯に誘われる虫のように、彼女たちの誘惑に魂を奪われ、ひとときの快楽に溺れてゆく。 熱帯の国で、女たちとたわむれる。売春婦と呼ばれ、社会から蔑まれながらも必死で生きている女たちが、通りすがりの男に笑みを浮かべる […]
破滅するということはどういうことだろう。男がドラッグとセックスで破滅していくのは珍しいことではない。 ずっと夜の闇をさまよってきていると、普通の人よりも破滅していく男を間近に見ることができる。また、間接的にもよく破滅した男のことを見たり聞いたりする。 人の金を盗んだり、詐欺をしたり、誰かを襲ったりして逮捕された人も多い。会社員、土木作業員、タクシーの運転手、教師、会社経営者……。 みんな夜の世界に […]
タイは世界に名だたる観光立国であり、訪れる観光客は増え続ける一方だ。 パタヤやプーケット島、サムイ島、ピピ島、パンガン島などはリゾート地としての設備を整えて、毎年押しかけてくる観光客の受け入れに余念がない。 多くの観光客が訪れてリゾートとしての設備が整うにしたがって、かつては不良外国人の溜まり場でもあったサムイ島などは急速に浄化されて、邪悪な雰囲気はひとつひとつ消されていったようだ。 邪悪な雰囲気 […]
バンコクのソイ・カウボーイに、バカラ( Baccara )という店がある。あまり好きではないが、たまに趣向を変えようと数年ぶりに行ってみた。 昔と変わらず、見上げると天井がガラス張りになっており、そこにスカートをはいたダンサーが踊っている。男は天井を見上げながら、スカートの奥を見てビールを煽る。そういう仕組みになっている。 相変わらず日本人の姿も多く、この店は何も変わっていないことを知る。男の欲情 […]
真夜中だったが、派手な格好をした夜の女と、酔った男たちが大騒ぎしていた。相変わらず、バンコクはにぎやかだった。 ソイ・カウボーイを出て、スクンビット通りを『テルメ』の方向に向かってふらふらと歩いていく。高架鉄道BTSのアソック駅ができてからだと思うが、この当たりにも女たちが立つようになったのは興味深い。 ロビンソン・デパートを少し過ぎたとき、道のわきに立っていた女が”Oh !!R […]
カンボジア編アジアをさまよって売春をする女たちと刹那的に一緒にいても、通り一遍では彼女たちの心の中を知ることは難しい。社会的な環境も違い、文化・世代・言語さえも違う。 自分と一緒にいる娘たちの心の中に何が渦巻いているのか、その正確なところは男たちには永遠に分からないものなのだろう。 プノンペンに降り立ち、70ストリートで女性たちとたわむれる。 熱帯の寝苦しい夜、ベッドの中で彼女がどんな生い立ちで、 […]
カンボジア編「売春婦」と呼び捨てられる女性は、どこの国でも孤立無援だ。世界中のほとんどの国が父系社会であることに根本的な理由がある。 父系社会とは、男が社会の中心にいて、血統は男性側の家系図が書かれる社会のことを指している。 世界中のほとんどは父系社会だ。 大抵、どこの国の歴史を紐解いても、女性の家系図はほとんど見あたらず、女性は男性の付属品扱いのようになっている。 それが当たり前だと思うのは、ど […]