アンダーグラウンドで最後の最後まで生き残れるのは誰か?

アンダーグラウンドで最後の最後まで生き残れるのは誰か?

海外をさまよう人間であればあるほど経験することがある。それは「知り合った人から、うまい話が自然と持ちかけられる」という経験だ。

いろんな話がある。

私はタイ・バンコクのパッポンに沈没していた時期があったが、そこでひとりのタイ女性に「パスポートを売ってくれ」という話を持ちかけられたことがある。それだけで金をくれるというのである。

「自分のパスポートを売るのが嫌なら、知り合いの日本人のパスポートを持って来てくれてもいい」とも言われた。

パスポートを転売したら数十万円の儲けになる。そこから数万円をバックしてくれる。日本に帰りたくなったら、頃合いを見て日本大使館で「パスポートをなくした」と言えば再発行手続きをしてくれる。

タイは盗難パスポートの売買が活発な国で、犯罪者が盗難パスポートで誰かになりすまして国を行き来するのである。

ギャンブルに誘われるのもしばしばだ。「カモの中国人がいるから巻き上げよう」と言われるのだが、もちろん中国人はグルであり、本当のカモは自分の方だ。(鈴木傾城)

日本国内で普通に生活していれば安全なのか?

「荷物を日本にいる親戚まで運んでくれたら謝礼を出す」というのもある。今ではこの手口はよく知られているのだが、その荷物はドラッグが中に入っている。

たかだか数万円の謝礼をもらってドラッグの運び屋にされて使い捨てになる。ドラッグの密輸は多くの場合は非常に厳しい刑期であり、この手口で「何も知らない運び屋」が無期懲役になっている。

何も知らない愚鈍な運び屋を、ドラッグ・カルテルは「ドラッグ・ミュール」と呼んでいるが、そこにはもちろん「何も知らないで危険物を運ぶ愚鈍なロバ(ミュール)」という意味が込められている。

海外のスラムやら安宿やら歓楽街にいると、朝から晩までそんな話が持ち込まれる。そして、よくよく考えれば危険であるのは分かりきっているのに手を出す人間も出てくる。目先の金に目がくらむからである。

では、日本国内で普通に生活していれば安全なのか。

そうとも言えない。電話が鳴れば知らない人間が「安全な投資のお話があります」と何か持ちかけてくるし、メールを開けば「未公開株を買いませんか?」と勧めてくる。

インターネットを見れば、胡散臭いサイトを見なくても広告で「大儲けできる」「一攫千金が可能」「絶対に損はしない」「安心確実です」「1年で投資資金が2倍になります」と、ひっきりなしに誘っている。

「誰でも簡単に安全で手っ取り早く儲かる」という話がこの世の中にあるはずがない。

しかし、これだけ広告攻勢が激しいということは、やはりその謳い文句に心を動かす人間がそこにいるということを示唆している。

なぜ、こうした広告に騙される人間がいるのかというと、誰もが「金が欲しい、手っ取り早く手に入れたい」という鬱屈とした気持ちが心の中にあって、その弱みに付け込まれるからであるとしか言いようがない。

何度も何度も広告を見せられているうちに、潜在的な感情をくすぐられて、魔が差したように乗せられてしまう。

 

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「信じる方が馬鹿だ」という人が買っているもの

金がないというのは、判断力を低下させるというのは社会学者が常に指摘している。

では経済的に余裕がある人は判断力が常に正常で、「胡散臭い話に引っかかることはない」のだろうか。現実を見るとそうでもないことが分かる。

金を持っている人間もまた、それなりに騙されてスケールの大きな金額を詐欺師に毟り取られている。

「金持ちのあなただけに教える極秘情報」だの「絶対に儲かる秘密の投資」みたいな話をされると、ころりと詐欺師の手の内で転がる。

金を持っていなければいないで「とにかく金が欲しい」と引っかかり、金を持っていたら持っていたで「もっと金が欲しい」と引っかかる。

どちらにも共通するのは、金に対する渇望がひどく強くて、その乾きが癒せなくなっていることである。

動機は別にして、とにかく金が欲しくてたまらないという強い欲望があって、それを刺激されたら合理的判断もできなくなって熱に浮かされたように騙されていくのだ。

「世の中にはうまい儲け話はない」というのは誰もが知っているのだが、空腹で知能が鈍っていたり、金に対する渇望で判断力が曇っていたりすると、「この話だけは特別だ」という気になっていく。

胡散臭いと心の底で引っかかっても「こんなうまい話を逃すのは馬鹿だ」という気持ちが勝って、どうしても自分が止められない。

こうした話を見聞きして「信じる方が馬鹿だ」という人もいるのだが、そういう人も当たりもしない宝くじを何十年も買っていたりする。

勝率50%の丁半博打でも破産する人がいるのに、宝くじの勝率は0.000000001%とか、そんな世界なのである。

極度のハイリスク・ハイリターンとなるビジネス?

もし、法を法と思っておらず逮捕されても良いというのであれば、絶対に儲かるビジネスはある。

強盗とドラッグ販売だ。相手の金を無理やり奪うか、相手を依存症にさせてすべてを奪う。警察当局から逃げおおせられる自信があれば、これほど儲かるビジネスはないだろう。

特にドラッグについては相手が金を背負ってやって来るのだから、この違法ビジネスをうまくやりおおせば巨万の富が得られる。

なぜ、これらの犯罪が重罪なのかはここに理由がある。これを取り締まらないと、国家権力よりも金を持ったセレブ犯罪者を生み出すのである。

国家権力がそんな存在を認めるわけがないが、勝手に育っていった巨大犯罪組織によって国が翻弄されるようになったのが、かつてのコロンビアであり、現在のメキシコである。

メキシコはアメリカという巨大なドラッグの需要を控えて多くの犯罪組織が莫大な利益を上げており、その組織が金の力で警察や司法を買収して国が犯罪組織のものになってしまった。

しかも、ドラッグの依存者が増えれば彼らは廃人になるまでドラッグにのめり込み、金のために犯罪を犯したりするようになっていく。更生も難しい。社会は崩壊する。

だから、法を無視したら確実に儲かるビジネスは、容赦ないほど苛烈な刑期をかけて摘発される。そのため、これらのビジネスは極度のハイリスク・ハイリターンとなる。

通常、ハイリスク・ハイリターンは、ハイリターンが得られる前にハイリスクで自滅する。また一時的に巨大な成功を手に入れても、やはりハイリスクで墓穴を掘る。

このようなことを総合的に考えると、ひとつの結論が導かれるのが分かるはずだ。

アンダーグラウンドはハイリスク・ハイリターンが渦巻く世界だ。しかし結局のところ、アンダーグラウンドで最後まで生き残れるのは、ハイリスク・ハイリターンを極力排した人間である。

狂気の世界でも、まともな感覚を持ち続けられた人が最後まで生き残れる。

うまい話も甘い話も、それは詐欺師が引っかけるためにある。自分の目の前に転がり込んでくるのは「うまい話」ではない。それが現実だ。(written by 鈴木傾城)

 

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