
カルラ・ハシント・ロメロという女性がいる。世界の反人身売買運動にかかわる人間のあいだでは有名な女性だ。彼女は1990年代初頭に生まれたメキシコ人女性で、今はメキシコシティで娘たちと平穏に暮らしている。
彼女は各国の議会や国際会議で証言を重ね、2024年3月にはアメリカの上院議員も一般教書演説への反論演説で彼女のケースに触れたりしているのだが、彼女が知られるようになった理由は、活動の中で語られる彼女の実体験の特異さがあるからだ。
彼女が12歳から16歳までの4年間に受けた被害の中身は非常に過酷なものだった。だが、それだけでなく、その背後にある「奇妙な町(タウン)」を浮き彫りにした。その町では1000世帯近くが「人身売買を生業としていた」のだ。
彼女がそこにとらわれたのは12歳だった。彼女の転落の出発点は、どこにでもある家庭の崩壊だった。機能不全に陥った家庭で育ち、家族の一人から身体的な暴力を受けていたと彼女は証言している。
彼女は愛情に飢え、自分を大切に扱ってくれる誰かを探していた。この少女の孤独感をひとりの男が敏感に嗅ぎ取って近寄ってきた。彼女はメキシコシティの地下鉄駅で声をかけられている。
男は優しく連絡先を聞き、そこから交際が始まる。数週間後、彼女は男と同居することになった。
ここからの3か月間を、彼女はのちに「夢のようだった」と振り返っている。男は彼女に欲しいものを何でも買い与え、これまで誰からも与えられなかった関心を注いだ。車で連れ回し、立派な家に招き、結婚すれば「家族」になるのだと繰り返した。
12歳の少女にとって、それは救済そのものだったかもしれない。
だが、男にとってこの3か月は「ただの投資」だった。少女を心理的に従属させるための初期費用だ。逃げられないのは鎖があるからではない。逃げたいと思わせないところまで感情を作り替えるからである。
恋愛を偽装して標的を囲い込むこの手口は、人身売買ではよく使われる手口だが、ある「奇妙な町」の男たちも常用していた。
3か月が過ぎたある日、すべてが反転した。男は彼女に売春を強要しはじめた。言うことを聞かないと、殴打され罵倒された。「従わなければ殺す」と彼女は脅された。問題は、この男が単独犯ではなかったことだ。
信じられない話だが、裏側に「一つの共同体」がまるごと控えていた。



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