
厚生年金に加入せず、国民年金のみで老後を迎える人は少なくない。国民年金の満額受給者が手にするのは月7万円前後。これは40年間一度も欠かさず保険料を納めた場合の金額であり、免除や未納の期間があれば当然減っていく。実際の国民年金の平均受給額は月5万9000円あたりにとどまる。なかなか厳しい数字だ。(鈴木傾城)

プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。経済分野を取りあげたブログ「フルインベスト」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。連絡先 : bllackz@gmail.com
約2000万人が「月約7万円のみの老後」に
私は人生のほとんどを働いてこなかったが、国民の義務である国民年金だけは義務なので「しかたなく」払ってきた。だが、政府には何も期待していなかったので、将来は年金で暮らしていけるなど夢にも思ったことはない。
これを満額をもらったとしても国民年金(老齢基礎年金)の受給額は月7万円程度だろう。早めにもらったりしたら月5万2000円くらいになる。
東京で5〜7万円で暮らせと言われたら、ほぼ不可能だ。
日本の公的年金は2階建てになっている。1階部分がすべての人に共通する国民年金(基礎年金)であり、2階部分が会社員や公務員だけが上乗せでもらえる厚生年金だ。この2階部分をもらえない人は、少数はではなく意外に多い。
厚生年金に加入できるのは、企業や役所などに雇われ、一定の労働時間と収入の基準を満たす人だけである。
裏を返せば、自分で商売をしている個人事業主、フリーランスで働くデザイナーやライター、農業や漁業の従事者、建設業の一人親方、法人化していない芸能人や作家、そして週20時間未満などの基準に届かないパートやアルバイトは、どれだけ長く働いても厚生年金の対象外だ。
学生や無職の人も同様である。これらの人々は国民年金の第1号被保険者と呼ばれ、その数は約1335万人にのぼる。私や、私の知り合いはほとんどがここに入る。
見落とされがちなのが、会社員の配偶者として扶養に入っている専業主婦や主夫だ。彼らは第3号被保険者として国民年金には加入しているが、厚生年金の記録は自分名義では積み上がらない。この層が約670万人いる。
両者を合わせると約2000万人……。
公的年金の加入者全体はおよそ6700万人だから、現役世代の「約3割」が、自分名義の厚生年金を持たないまま老後に向かっていることになる。しかも第1号被保険者のうち約89万人は保険料を24か月以上納めていない未納者であり、将来の受給額はさらに減るか、最悪の場合は無年金となる。
65歳以上の高齢者の相対的貧困率はすでに約20%、5人に1人が貧困線を下回る暮らしをしている。単身の高齢女性に限れば、その比率はさらに跳ね上がる。
[復刻版]絶対貧困の光景: 夢見ることを許されない女たち (セルスプリング出版)
インドの貧困地獄から這い上がれない底辺で生きる女たちの壮絶な日々を追う!インドの貧しい女たちの生き様とは?
厳しいのは賃貸暮らしの高齢者
国民年金の満額受給者が手にするのは月約7万円(70,608円)。これは40年間一度も欠かさず保険料を納めた場合の金額であり、免除や未納の期間があれば当然減っていく。実際の国民年金の平均受給額は月5万9000円あたりにとどまる。
では、高齢者がひとりで暮らすのに毎月いくら必要なのか。生活保護制度が定める最低生活費が参考になる。東京23区の単身高齢者なら、生活扶助と住宅扶助を合わせておおむね月13万円前後だ。地方都市でも10万円は下らない。
つまり国民年金だけの人は、国が定めた最低ラインに対して毎月3万円から6万円ほど足りない計算になる。年間にすれば36万円から72万円強。65歳から85歳まで20年生きるなら、不足額の総計は720万円から1440万円に達する。
持ち家があれば住居費は軽くなるが、固定資産税と修繕費は消えない。持ち家があるのに、生活保護受給者よりひどい極貧で暮らしている人は大勢いる。
だが、本当に厳しいのは賃貸暮らしの高齢者だろう。家賃が月5万円の激安物件でも、年金から家賃を引いた残りは1万円台から2万円台。ここから食費、光熱費、通信費、医療費を出すのは完全に無理である。
医療費の負担も重い。70歳以降は窓口負担が原則2割か1割に下がるとはいえ、高齢になれば通院回数は増える。持病がひとつあるだけで月数千円から1万円が消えていく。介護が必要になれば、介護保険の自己負担分がさらに上乗せされる。
現役時代に国民年金だけだった人は、退職金もない場合が多い。会社員なら退職金と企業年金が老後資金の柱になるが、自営業者やフリーランスにはその柱が最初から存在しない。
国民年金基金やiDeCo(個人型確定拠出年金)といった自助努力の制度はあるものの、余裕資金がなければ掛金を積めない。収入が不安定な人ほど上乗せの備えができないという逆説が、ここにある。
野良犬の女たち: ジャパン・ディープナイト (セルスプリング出版)
路上で男を待つ女、日本全国を流れて性産業で生きる女、沖縄に出稼ぎに行く女、外国から来た女、場末の風俗の女……。流れ者の女たちは、どんな女たちだったのか?
貯蓄の取り崩しには精神的な消耗も伴う
年金の不足分を埋めるには貯蓄が必要だ。だが貯蓄は使えば減る。65歳以上世帯の貯蓄額は、二人以上の世帯で平均約2494万円、中央値は約1777万円。単身者(一人暮らし)の場合は平均約1978万円、中央値は約913万円となっている。
仮に1000万円の貯蓄があったとしても、毎月5万円を取り崩す生活なら、それは16年強で消える。65歳から取り崩しを始めれば、81歳を過ぎたあたりで底をつく。
日本人の平均寿命は男性81歳、女性87歳。女性はとくに、貯蓄が尽きたあとの人生が数年単位で残る。だが、それでも1000万円あればいい方だ。世の中、1000万円の貯蓄を持って65歳を迎えられる人ばかりではない。
リアルで見ると、単身高齢者の3人に1人以上は貯蓄がほぼない(ゼロか100万円未満)状態で暮らしているという調査結果がある。
政府当局の調査に基づくと、60代は33.3%の単身世帯が貯蓄ほぼゼロ、70代は26.7%の単身世帯が貯蓄ほぼゼロとなっている。
離別した高齢女性の貧困率はとりわけ高く、3人に1人が年収120万円未満というデータもある。彼女たちは夫の厚生年金を分け合うこともできないし、遺族年金という支えもない。
現役時代の雇用格差と賃金格差が、老後にそのまま持ち越され、増幅される。
貯蓄の取り崩しには精神的な消耗も伴う。残高が減っていく通帳を見ながら、あと何年持つかを逆算する日々となるからだ。医療や介護で想定外の出費が発生すれば、時限装置の針は一気に進む。
そのため、貯金があってもそれを減らさないために消費を極度に抑えている高齢者も多い。日本の内需が増えないのもここに理由がある。寿命が伸びてうれしいのは金持ちだけで、ギリギリで生きている高齢者はアンチエイジングなんか言っている場合ではなくなる。
病み、闇。: ゾンビになる若者 ジョーカーになる若者
リストカット、オーバードーズ、自殺、自暴自棄、闇バイト、社会に対する復讐感情、荒れていく社会の裏側。日本社会の裏側は、どうなってしまったのか?
生活保護を受ける人が少ない理由とは?
貯蓄が尽きた人の最後の受け皿は生活保護しかない。65歳以上の生活保護受給世帯は全受給世帯の55%を超え、いまや生活保護は高齢者の制度と化している。
だが問題は、受給資格がありながら利用していない人の多さだ。生活保護の捕捉率、つまり本来対象となる人のうち実際に受給している人の割合は15%から20%にとどまるとされる。8割前後が制度の外に取り残されている。
理由のひとつに「扶養照会」があると思う。
申請すると、離れて暮らす子供や親族に「援助できませんか」という問い合わせが届く場合がある。子供を思う親ほど、「子供に迷惑をかけたくない」と思うので、生活保護を最初から選択しない。
窓口でも、そうした高齢者の心理を知っていて、窓口で申請をあきらめさせる「水際作戦」の存在も指摘され続けている。運用は自治体によってばらつきが大きく、どこに住んでいるかで受けられる扱いが変わる。
では働き続ければよいのか……。
実際、70歳を超えて清掃や警備の仕事に就く人は増えている。だが加齢とともに身体は確実に衰える。今は80歳の警備員は珍しくなくなったが、80歳で働けることと、80歳まで働かなければ生きられないことは、まったく別の話だ。
病気ひとつで収入は途絶え、そこから先の展望はない。
子供に頼るという選択肢も今はどうなのだろうか。現役世代自身が非正規雇用や低賃金に苦しみ、親を支える余力がない。むしろ8050問題のように、高齢の親の年金に中高年の子が依存する逆転現象すら広がっている。
厚生年金をもらえない約2000万人の老後は、このような絶望の中にあると言える。今後、物価はますます上がっていき、政府はそれを止められなくなってしまう。物価上昇はギリギリで生きている高齢者をますます追いつめていく。地獄はこれからだ。







コメント
生活保護以下の収入なのに生活保護を受けない理由は、生活保護は「貯金」が禁じられているからですよ。
加藤秋田訴訟で最高裁は生活保護受給者が貯金して良いのは「80万円」までと判例にあり、貯金したい人は少ない年金の範囲でやり繰りしてる。
また生活保護受給に当たって資産はだいたい8万円ぐらい以下にまで下げなければいけない。収入が少なくても単身中央値913万円では資産が十分にあるので生活保護申請は却下される
国民年金7万円のみの老人は結構の割合で、都営住宅を含む公営住宅に住んでます。国民年金のみになりますと減免申請が使えて家賃月5000円ぐらいになります。私自身も民間賃貸家賃5万5千円時代は米株で儲けても足りない生活費の補充に消えましたが、都営住宅に当選して月9000円になって、年金の範囲内だけでも月2万円貯金できますし、米株配当の再投資も進むようになりました。それでも東京都の生活保護費以下の年金です。貯金が好きなんですよ。上限80万円というのは絶対嫌です。
都営住宅に住んでみて、住人の大半を占めていた後期高齢者が死んだり、いつまでも病院から帰って来なかったり、介護施設の入所や息子夫婦と同居して随分と居なくなりました。氷河期世代が都営団地に応募できる60歳まであと少しです。随分と当たり易くなると思います