
インドもドラッグ汚染が深刻な国である。ドラッグと言えば、多くの人はヘロインや覚醒剤、あるいはマリファナを思い浮かべる。
だが、デリーやムンバイの路上で生きる子供たちにとって、もっとも身近な「クスリ」はそうした非合法のドラッグではない。
文房具店で誰でも買える「修正液」だ。欧米でいうところのホワイトナー、インドの路上では「Eraz-Ex」などのブランド名で知られる白い液体である。これを布や紙袋に染み込ませ、口と鼻を覆って蒸気を吸い込む。
修正液の主成分はトリクロロエタンという揮発性の溶剤だ。シンナーやガソリン、接着剤と同じく、吸い込むと脳に作用して一時的な酩酊感をもたらす。値段はきわめて安い。ひと瓶で数十円程度。年齢確認も処方箋も必要ない。
だからこそ、所持金のほとんどない路上の少年たちにとって、これは手の届く唯一の「逃避手段」になっている。
インドの路上で暮らす子供の数は膨大だ。ある推計では、全国で1800万人もの子供が路上で生活しているとされる。デリーだけでも8万1235人が路上で暮らしている。彼らの少なからずが、修正液で酩酊しているのだ。
2017年から2018年にかけての全国調査では、インド国内の吸入剤の使用者は770万人を超え、そのうち200万人以上が「問題のある使用者」と分類された。多くが子供だ。路上で生きる子供たちの日常に深く食い込んでいる。
それにしても、なぜまだ10歳そこそこの子供たちが、毎日のように溶剤を吸い込むようになるのか。そこには、彼らが逃げてきた「家庭」という名の場所が深くかかわっている。
私は『圧倒的「病み垢」女子』という本を出しているのだが、ここでオーバードーズにのめり込む女性は家庭の崩壊がオーバードーズのきっかけでもあった。路上に生きるインドの子供たちもまた、そうだったのだ。



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