タイ人は62.44%が債務を抱えている?ホアヒンの飛び降り自殺から見る借金苦の裏

タイ南部ホアヒン市内のホテルで、43歳の男性と29歳の妻が飛び降り自殺している。家計は借金まみれで自転車操業になっていて、精神的に追いつめられていた。この事件は、多くのタイ人にとっては他人事ではないものだった。タイでは借金の債務に苦しむ世帯がもはや少数派ではないからだ。(鈴木傾城)

鈴木傾城

プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。経済分野を取りあげたブログ「フルインベスト」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。連絡先 : bllackz@gmail.com

「ヤミ金の債務」で精神的な負担

6月7日午前3時過ぎ、タイ南部プラチュアップキーリーカン県ホアヒン市内のホテルで、43歳の男性と29歳の妻が遺体で発見された。飛び降り自殺だった。両者は前日にこのホテルにチェックインしていたという。

防犯カメラの映像により、転落までの経緯はすでに判明している。午前2時45分ごろ、夫婦は部屋を出て15階に向かい、そこにあった椅子を16階まで持ち上げた。映像には、バルコニーの縁で2人が抱き合う様子が記録されている。

その後、椅子を踏み台にしてバルコニーを越え一緒に飛び降りている。捜査官は手書きの1枚の紙を室内で発見している。

そこには家族への謝罪の言葉と、「もう疲れた」という心情が切々と書かれていた。そして男性の母親への気遣いと愛情の言葉、さらに娘に対しても「愛している」と書き残されていた。

警察は室内に不審な点が見られないことから、家族への聞き取りを優先しておこなった。そこで明らかになったのは、夫婦が長期間にわたって積み重なった「ヤミ金の債務」で精神的な負担に苦しんでいたという証言だった。

家計は借金まみれで自転車操業になっていて、精神的に追いつめられていた。

この事件は、多くのタイ人にとっては他人事ではないものだった。なぜなら、タイでは借金の債務に苦しむ世帯がもはや少数派ではなく、むしろ多数派となっている調査結果が、すでに複数の機関から示されているためだ。

タイ商業省貿易政策戦略局が2026年2月に実施した全国調査では、債務を抱える人の割合が62.44%に達し、前年の50.99%から急上昇したことが明らかになっている。

さらに、月収1万5000バーツ以下の低所得労働者を対象にした別調査では、98%が借金を抱え、79.1%が貯金を持たない、あるいは貯金できない状態にあると回答した。低所得層であればあるほど、借金まみれになっているというわけだ。

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鈴木傾城の短編小説。タイの首都バンコクの歓楽街で、ノックというバー・ガールと出会い、親しくなる。彼女をバーから連れ出すには、彼女の親友ダーウの許可が必要なのだった。

収入を上回る返済を続けている状況に

タイ人が借金まみれ体質であるのは、ブラックアジアでは何度も取り上げている。2年前にもこのような記事を書いた。(ブラックアジア:タイ人の借金まみれ体質。タイの家計債務問題は経済の時限爆弾となりかねない

若者は見栄えが良くなって、インスタグラムではキラキラした女性たちの姿もある。しかし、やはりその裏には経済環境に苦しむ姿が裏にある。(ブラックアジア:タイの若者は見栄えだけは良くなったが、その裏では経済苦にあえぐ実態がある?

月収1万5000バーツ以下の低所得労働者の平均負債額は1世帯あたり49万4500バーツに達するという、にわかには信じがたいデータもあるのだが、これは要するに収入を上回る返済を続けている状況になっていることを意味している。

重要なのは、この借金の大半が投資や事業拡大のためではなく、日々の生活費や既存の借金の返済そのものに使われている点だ。新しい借金で古い借金を払う、という循環がすでにできあがっている。

これは、借金の中でも「最悪」の借金でもある。

当然、こんな状況では貯金なんかできるはずもない。事実、調査対象者の79.1%は「貯金がない、または貯金できない」と回答している。貯金があると答えたのはわずか20.9%にとどまる。

要因として最も多く挙げられたのは物価上昇だ。59.5%が「商品の値上がりが生活に大きな影響を与えている」と答えている。

調査全体では公務員が89.09%、農家が82.71%、自営業者が80.28%という高い借金比率を示している。公務員は収入が安定しているにもかかわらず借金比率が高い。農家や自営業者はもともと収入が不安定で借入が多くなりやすい。

ホアヒンの夫婦がどのカテゴリーに当てはまっていたのかは分からない。だが、タイ人の借金比率の多さを考えると、彼らが置かれていた状況は特殊なものではないことがわかる。タイ人の大多数が、同じ綱渡りの上に立っている。

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貸してくれるところから借りるしかない

タイを見ていると、私は1990年代のサラ金・ヤミ金全盛時代の日本を思い出す。あの頃の日本はまさに消費者金融の全盛期だった。自殺者数3万人超えが続いたのは、消費者金融の追い込みが一因だったという分析もあるほどだ。

当時のサラ金の追い込みはすさまじく、電話口で罵倒するのは日常で、家に押しかけて帰らないとか、玄関にべたべたと「カネを返せ!」と張り紙をするとか、勤め先にまで押しかけるとか、そういうのが普通にあった。ヤミ金ではなく、サラ金でそうだったのだ。

現在、タイ人が借金をする先は、銀行ではない。銀行は審査を厳格化しているので、低所得層であればあるほど弾かれてしまい、ヤミ金の方に流れていく。これらは書類審査はほとんどなく、申し込んでから数時間で現金を手にできる場合もある。

ただし、すぐに貸してくれる以上は金利が高い。

金利は月5%から20%という水準が一般的で、年利に換算すれば240%を超えるケースも珍しくない。法律上の保護はほとんど機能せず、返済が滞れば取立人による恫喝や嫌がらせに発展する。

そこで多くの借り手は、ひとつの借金を別の借金で穴埋めする。結果として、負債の総額がさらに膨らみ、多重債務となり、毎日、電話で「カネを返せ!」と罵倒される日々が続いていくことになる。

ここ数年でタイのヤミ金市場が拡大している。

タイ政府はこの問題に慌て、債務登録・再編プログラムを導入し、ヤミ金の債務を低利の正規融資に切り替える取り組みを進めた。多くの債務者がこの制度に登録したが、ヤミ金の市場そのものは依然として根強く残っている。

正規の融資が手の届かない層にとって、選択肢は限られている。貸してくれるところから借りるしかないのだ。

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未来の自分から今の自分への前借り

タイ経済は順調ではない。前ペートンタン首相みたいな、おおよそ首相の器ではない人間が首相になってタイ経済を悪化させた上に、現在はイラン戦争による物価上昇で追い込まれている状況もある。

タイ当局は、企業債務や公共部門の債務もいっせいに膨らんでいることを報告している。銀行は審査基準を厳格化し、個人向け融資を絞った一方で、企業向けの大口融資への露出も縮小させてきたからだ。

タイ経済が縮小しているので、タイ政府も税収の減少と債務増加の二重苦に見舞われており、財政状況に対する懸念がくすぶり始めている。これでは、低所得層がますます追い込まれていくのは必然だろう。

資本主義の世界では、破滅は「金融」からやってくる。

私自身は「低所得層であればあるほど借金が破滅の入口になる」というのを確信しているので、ちょっとしたキャッシングも、クレジット払いも、リボ払いもするべきではないと思っている。私はそれほど厳格だ。

借金が人生を破壊するのは、カネが消えるからではない。借金そのものが、人間の判断力と尊厳を一枚ずつ剥がしていくからだ。最初の小さな借金は「こんなのは、たいしたことはない」と思うかもしれない。

しかし、それがゆっくりと膨らんでいく過程で、往々にして「こんなもの」ではなくなっていく。本人の中では「まだ大丈夫」「余裕がある」「いつでも返せる」という感覚が残り続ける。

そうやって慣れていくと、あるとき臨界点を超えてしまう。月々の返済が新しい借金を呼び、その借金がまた次の借金を呼ぶ。この負のスパイラルに入った瞬間、もう後戻りはできない。

ホアヒンの夫婦が最後に残したのは「もう疲れた」という言葉だった。借金は最初、生活を支えるための手段だったはずだ。それがいつの間にか、生活そのものを乗っ取ってしまう。

「借金からどう逃れるのか」よりも「いかに借りないで生きるか」に知恵を絞った方が絶対にいい。借りたカネは、未来の自分から今の自分への前借りである。そうであれば、未来の自分はいつも今の自分より貧しくなる。それで、良いわけがない。

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コメント

  1. hirohisa19750614 より:

    私のマンションの清掃員3名に高齢のおじいちゃんが入ってきました。
    彼は年功序列時代、バブル時代を働き盛りの年頃に過ごしたハズなのに、どうしてそこまでして働かないといけない状況に追い込まれたのでしょうかね。
    マンションは、215戸の大型マンションで夏場の清掃仕事は、過酷な環境です。彼が過酷な夏の仕事をこなせるか見ものです。
    恵まれた時代を過ごした人は、結果的に長生きすればするほど、サバイバル能力が問われる時代に日本もなりましたね。
    私は第2次ベビーブームの就職氷河期世代(失われた世代)です。

    • 鈴木傾城 より:

      かつては人生60年でしたが、今や80年、アンチエイジングが進むと人生100年。しかし、資産を100年の設計で生きている人はなかなかいないので、ほとんどの日本人はハードモードに入りそうな勢いとなっています。政治は何も期待できない上に、物価上昇も続きますので、私たちも気を引き締めて生きていく必要があります。借金はしない、というのはひとつのサバイバルでもあると考えています。

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