◆【連載記念特典】イナ。十五歳で結婚、十六歳で出産、そして売春地帯に

連載「アジアの暗黒街で愛を探した男」にて、第12回の記事『「貧しさの中で愛は何の役にも立たない」イスラム原理主義者に破壊された背徳の楽園インドネシアのカリムン島”パヤラブ”…奥地に潜む中国人の正体と男が見つけた真理』が公開されております。ブラックアジアではあまり自分のことは書きませんでしたが、こちらでは自分のことを中心に書いております。

これを記念して、『ブラックアジア売春地帯をさまよい歩いた日々・外伝2』の記事、『イナ。十五歳で結婚、十六歳で出産、そして売春地帯に』をこちらで全編掲載したいと思います。

ブラックアジア外伝2

イナ。十五歳で結婚、十六歳で出産、そして売春地帯に

二〇一四年。久しぶりにバタム島に行きたくなった。インドネシアに行かなくなった十年以上も経っていた。インドネシア語は、もうほとんどすべて忘れた。しかし、バタム島に向かう船の中で、まわりの人たちが話す言葉のイントネーションを聞いて、懐かしくて仕方がなかった。

この優しい響き。この郷愁。好きだった。

インドネシアは、私にとってとても大切な想い出に満ち溢れた国で、今もたまらなく愛しい。この言葉を聞いていると、かつて知り合った女性たちの柔らかな笑みが次から次へと浮かんで来て、甘酸っぱい感情がこみ上げてくる。

「ああ、本当に懐かしい……」

心からそう思わずにいられなかった。好きだった女たちが、この国にはたくさんいて、もう取り戻せない過去であるのは分かっていても、一気に感傷が蘇って目が潤《うる》んだ。

シンガポールからバタム島に入る一時間、私はずっとひとりで昔の初恋の恋人の棲む場所に向かうような、そんな淡い気持ちに揺れていた。取り戻せない心の欠片《かけら》を拾いに行くような、奇妙な高揚感と寂しさでいっぱいになっていた。

インドネシアの売春地帯を熱心にさまよい歩いていたのは二〇〇一年から二〇〇三年頃だった。時の流れの早さが、私には悲しくて仕方がなかった。

私は急激に若さを失ったし、もう売春地帯をさまよい歩くという生活すらもしていなかった。私は変わったつもりはないのだが、時は否応なく私の生活を変えていた。

私から売春地帯を取って何が残るのだろう。私から、女たちの想い出を奪ったら、何が残るのだろう。若い頃から、売春地帯をさまようことだけしかしていなかったのに、それを捨ててしまったら、私の人生には何も残らない。私にとって、あの熱い身体を持った寂しい女たちの姿は、自分の人生をも変えたものだった。

それなのに、今の私には何も残っていない。

そして、自分が「燃えかす」のようになってしまっているような気持ちがずっと続いている。それが、たまらなく寂しかった。それは、会いたい人に会えないもどかしい気持ち、無邪気だった子供時代に戻れない気持ちと同じものだ。まぶたの裏側に、鮮明に残っているのに、手を伸ばしても届かない。

久しぶりにバタム島に向かう船の中で、私はずっとそんな気持ちで心が動揺していた。ずっと海を見つめ、遠くに見える島影に目を凝らしていた。

バタム島に着いて船を降りると、到着地のバタム・センターには、もうかつての港の掘っ立て小屋のような雰囲気は消えていたが、陽に焼けたインドネシア人は変わっていないように思えた。

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