年金に対する国民の不信。約675万人が本来の保険料を全額納めていない状態だった

国民年金は、所得の多寡にかかわらず一定の額を納める「定額制」を採用している。この仕組みそのものが所得の低い層を追いつめている。富裕層なら月額1万7,920円なんかゴミか埃のような値段に見えるかもしれない。しかし、月収が低いと食費や住居費を削ることになる。この不平等さは、いかんともしがたい。(鈴木傾城)

鈴木傾城

プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。経済分野を取りあげたブログ「フルインベスト」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。連絡先 : bllackz@gmail.com

「100年安心」を信じる人はどこにもいない

2026年度、日本の国民年金保険料は月額1万7,920円という過去最高水準に到達している。高給の政治家たちには分からないかもしれないが、低所得層にとってこの金額は非常に重い。もはや生存権を脅かすほどの重圧かもしれない。

厚生労働省は「100年安心」とか言っているのだが、そんなものを信じている人はどこにもいない。虚しく響くだけだ。

国民年金は、所得の多寡にかかわらず一定の額を納める「定額制」を採用している。この仕組みそのものが所得の低い層を追いつめている。

低所得層の中には、月収が15万円に満たない非正規労働者は大勢いる。駆け出しの個人事業主・フリーランサーも事業に資金を注ぎ込んでいて生活は楽ではない。にもかかわらず、国民年金は定額制なので、毎月1.8万円近い支出を固定費として奪われることになる。

富裕層なら月額1万7,920円なんかゴミか埃のような値段に見えるかもしれない。しかし、月収が15万円だったりすると、手取り収入に対する負担率は12%近くとなり、食費や住居費を削ることになってしまう。

国民を守ると言いつつ、所得の低い層をより困窮させているのが国民年金であるとも言える。この不平等さは、社会保障としての体をなしていないように見える。すでに、制度の破綻を露呈しているのではないか。

さらに馬鹿馬鹿しい話がある。

政府はこれほど重い負担を国民に強いておきながら、将来受け取れる年金の価値が目減りさせている。

政府は物価高騰に合わせて年金額を引き上げたと主張するが、そこには「マクロ経済スライド」という巧妙な抑制装置が組み込まれている。物価が3%上昇しても、年金の増額はそれ以下に抑えられるのだ。

[復刻版]絶対貧困の光景: 夢見ることを許されない女たち (セルスプリング出版)
インドの貧困地獄から這い上がれない底辺で生きる女たちの壮絶な日々を追う!インドの貧しい女たちの生き様とは?

マクロ経済スライドという名の目くらまし

政府が年金の持続可能性を語る際、つねに持ち出すのが「マクロ経済スライド」という仕組みだ。これは、社会全体の現役世代の減少や平均余命の伸びに合わせて、年金の給付水準を自動的に抑制するシステムである。

表向きは「現役世代の負担を増やさないための調整」と説明されるが、その実態は、受給者の手元に届く現金の価値を、誰にも気づかれないように削り取る「静かなる収奪」に他ならない。

2026年現在、物価や賃金が上昇局面にある中で、この仕組みの残酷さがいっそう浮き彫りになっている。物価がたとえば3%上昇したとしても、マクロ経済スライドによる調整がおこなわれれば、年金額の引き上げは1%や2%程度に抑え込まれる。

この1%以上の差分こそが、国民が本来受け取るはずだった生活の余力であり、それが国によって組織的に没収されているのだ。

2024年に公表された最新の財政検証の結果によれば、現役世代の手取り収入に対する年金額の比率を示す「所得代替率」は、将来的に50%程度まで低下することがいまだに不可避とされている。

政府はこの50%という数字を「最低限守るべきライン」として強調するが、生活の半分を公的年金だけで支えることが不可能なのは、もはや誰の目にも明らかだ。

かつての現役時代と同じ生活水準を維持できるという幻想を振りまきながら、裏側では着々と給付の削減を進める政府の姿勢は、不誠実という言葉では足りない。将来、現在の受給者と同じだけの購買力を維持できると信じるのは、あまりに愚かだ。

この「調整」という名の削減は、もともと受給額の少ない低所得層にこそ、もっとも苛烈な影響を及ぼす。

もともと月額数万円の基礎年金だけで生活をやりくりしている人々にとって、わずか1%の価値の下落であっても、それは死活問題にかかわる打撃となる。資産を持つ富裕層とは異なり、現金のみに頼らざるを得ない弱者ほど、この政府の政策にダメージを受ける。

町田・青線地帯/グッドナイト・アイリーン (セルスプリング出版)
町田・青線地帯にいた台湾やタイの女たちは、どのような境遇の女たちだったのか……。知られざる日本の売春地帯にいた “異国の女たち” の世界を鈴木傾城が描く。

安全網から特定の層を放り出すに等しい?

所得にかかわらず一律の金額を徴収する国民年金制度は、現代の日本社会において、弱者をさらに追いつめる装置として機能しているように見える。

所得が低いほど負担率が高くなるのだから、低所得の人々にとって国民年金は逃げ場のない罰則に等しい。特に今の生活さえままならない層に対し、将来の保障を口実に現在の窮乏を強いるのは、あまりに理不尽だ。

サラリーマンが加入する厚生年金は、所得に応じた定率制であり、しかも保険料の半分を会社が負担する。一方、フリーランスや個人事業主は、国民年金保険料だけでなく健康保険料もすべて自己負担だ。

「日本でフリーランサーや個人事業主が育たず、結果的にイノベーションも阻害されてしまうのは、こういうところにあるのかもしれない」と私に言った人もいた。会社員よりも立場的に損するのだから、わざわざ不利なことをしようと思わない。

政府は「自由な働きかたを推奨する」と言っているが、このような不平等を放置したまま「国民皆年金」を維持しようとするのは、実際には社会の安全網から特定の層を放り出すに等しい行為だとも言える。

社会保険料の負担が増す一方で、実質賃金が追いつかない現状では、可処分所得が減少し続けるのは必然である。

特に子供を育てる低所得世帯では、教育費と保険料の板挟みになり、子供の未来への投資さえも削らざるを得ない状況になる。将来の年金のために今を犠牲にするという選択は、もはや合理性を欠いている。

こうした過酷な負担に耐えかねた一部の人々が選択するのは、保険料の未納である。

国民年金の加入者のうち、自営業やフリーランス、無職の方々などが含まれる「第1号被保険者(約1,400万人)」の状況を詳しく見ると、未納者と免除・猶予者を合わせた約675万人が、本来の保険料を全額納めていない状態にある。

爆風・灼熱・切腹: 実録!加藤紘一邸を焼き討ちした男、堀米正広 (四汐舎)
ひとりの男が自民党元幹事長だった加藤紘一の実家と事務所を焼き討ちにして切腹した。事件を起こした65歳の右翼・堀米正広の人生を辿ると、戦後日本の裏面史が見えてきた!

サラ金よりもあこぎに取り立てられる

政府が近年、NISA(少額投資非課税制度)やiDeCo(個人型確定拠出年金)といった私的な資産形成をいっせいに推し進めている理由は、政府が国民のことを考えているからではない。

「年金では食っていけないだろうから、あとは自分で何とかしろ」というのがNISAやiDeCoの本質なのだ。「足りない分は自分で投資しておぎなえ。結果は知らん。後は野となれ山となれ」と投げているようなものだ。

これはある意味、国の発した敗北宣言であると見ることもできる。

別にNISAやiDeCoが悪いと言っているわけではない。制度は良いと思う。だが、政府が全国民にそういうのを推奨すること自体が無責任なメッセージでもある。言うまでもないが、投資の結果はすべて「自己責任」である。

投資をしなかったら「投資をしろと言ったはずだ」と言い、投資に失敗したら「自己責任だ」と言って逃れる。政府がこういうことをやっているのだから悪辣だ。

政府が声高に叫ぶ「自助努力」という言葉は、本来おこなうべき抜本的な制度改革を先送りにして、個人の責任にすべてを転嫁するものでもある。あまりにも無責任なものだと言わざるを得ない。

矛盾していると思うのは、老後を自衛するために投資が必要だと言いながら、低所得の人々からも、その元手となるべき資金を国民年金保険料として「苛烈」に取り立てていることだ。

苛烈というのは言葉のアヤではない。本当に苛烈だ。

未納を続けると、まずは電話やハガキで納付を促される。そのあとに「督促状」が届き、この時点で延滞金が発生する。督促状の指定期限を過ぎると、最終催告を経て予告なく財産調査がおこなわれることになる。

銀行口座、給与、売掛金、不動産などが対象となり、事前の連絡なしにこれらが差し押さえられる。サラ金よりもあこぎに取り立てるのが日本年金機構なのだ。非常に容赦なくスピーディーに強制徴収する。

この制度の末路がどうなるかは、誰にもわからない。年金は破綻しないとか識者が偉そうに言っているが、低所得層から見たら、こんなものはすでに自分たちを苦しめて将来も保証してくれていない時点で破綻しているも同然のものと化している。

低所得層はどこまでも不利にできていると思わないだろうか?

ブラックアジア会員募集
社会の裏側の醜悪な世界へ。ブラックアジアの会員制に登録すると、これまでのすべての会員制の記事が読めるようになります。

コメント

  1. 匿名 より:

    ブラック職場に遭遇する可能性は交通事故より多いので国民年金を納付する理由はそれなりにあったけど、障害年金給付の現場でも2~3年ほど自己責任で切り捨てるようになりました。日本年金機構障害事務センター長が己の組織が納得するまで障害年金給付の判定を繰り返して都合が悪い認定医の判定書を廃棄していました。前任者の200%も却下にしていたのです。

    老齢年金が視野に入らなくても、ブラック職場との遭遇は理解できるので国民年金は納付され続けた今までの納付環境が変わるかも知れません

    あと、この記事で日本年金機構がサラ金化していると触れていますが、2010年の日本年金機構発足時、当時のサラ金規制で多くの消費者金融が急激に衰退化し、元サラ金社員が日本年金機構に転職したり、取り立て催促のノウハウを持った元消費者金融が事業委託で請け負っています。こういうところも含めて日本年金機構は「民」の負債も受け持ち、官の負債も併せて悪魔合体した組織に成り果てました。

  2. 匿名 より:

    低所得層が国民保険料を合法的に免れる方法は、障害年金受給か生活保護受給による法定免除しかありません。

  3. oyr7290 より:

    年金の基礎知識がある方には釈迦に説法でしょうが

    国民年金(基礎年金)は、20歳以上の日本国民であれば、無職、自営業者、会社員など異なる立場に関わらず、全員加入が義務付けられています。会社員は基礎年金にプラスする形で厚生年金があって実際の徴収は厚生年金保険料として一括納付している状況。

    問題は傾城さんも指摘しておられるとおり、国民年金のみの加入者であればなんらかの不労所得があって資産状況が潤沢であっても、勤労者のように毎月の給与から厚生年金を徴収されている人と違って国民年金の定額分のみ納付すればいいのですね。そして無職無収入や超低額バイト収入であっても、同じ定額を取られるという逆進が起きていることです。

    実質システムが破綻していて、維持しようとすればするほど問題が膨らむ国民年金制度は廃止して、新しい社会保障制度に作り変える必要があると考えます。他のサイトで恐縮ですが、私は↓これしかないと思っています。

    【アゴラ】池田 信夫:【更新】「消費税率20%」で社会保障危機は解決できる
    総選挙では政治とカネをめぐってしょうもない議論が続いているが、いま日本で進行している最大の危機は、140兆円の社会保障支出が毎年3兆円以上も増え、2040年には190兆円になる社会保障危機である。特に来年から団塊の世代が後期高齢者になり、医...

    消費税の考え方など、賛同できない方も多いかもしれませんが、まずはご覧になってみてください。

    私の年金についての考えですが、もうもらえるかどうかもアテにならないんだから、「無視して」未納のままでいいや、というのは間違いだろうと思います。
    まず、株などの資産形成に知識があって不断の努力ができて国民年金をまるっきり無視しても充分な収入が得られる人はいいですが、そんな才能と運がある人はそんなにたくさんいない。気に入らないから無視!で終わってる人に独自の資産形成ができる能力があるとは思えない。

    年金には保険料の支払いについて、猶予や免除規定があります。免除には全額、半額、4/3、4/1などが条件によってありますが、もし全額免除で本人が全期間未払いでも、税金から積み立てられている部分があるので、将来年金がもらえます。
    また、学生特例納付や申請によって認められた猶予期間は、本人が未払いであっても年金制度に「加入」はしているので、障害者になったりした場合は補償制度の対象になります。
    なんの手続きもせずに未払い(未加入)の場合は、補償制度の対象外です。絶対になんらかの手続きをするべきです。

タイトルとURLをコピーしました