東ティモールは石油が尽きて崩壊か。貧困・腐敗・若者の怒りが交差する絶望国家

2002年にインドネシアから独立した世界で最も新しい国のひとつ東ティモールは経済苦境にあえいでいる。多次元貧困率は約42%、5歳未満の子供に至っては、47.1%が発育不全で慢性的な栄養不足による低身長状態になっている。国民の27%は現在も食料不安状態に置かれている。もっとひどいことがある……(鈴木傾城)

鈴木傾城

プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。経済分野を取りあげたブログ「フルインベスト」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。連絡先 : bllackz@gmail.com

独立から20年、いまだ「最貧国」のまま

インドネシアと国境を接した小さな島の東半分、人口わずか130万人の国が、独立から20年以上が経った今も東南アジアの最貧国であり続けている。

東ティモール。正式名称「東ティモール民主共和国」は、2002年にインドネシアから独立した世界で最も新しい国のひとつだ。独立の瞬間、東ティモールの人々は歓喜に湧いた。しかし今、この国は苦境にあえいで、夢も希望もない。

この国の多次元貧困率は約42%である。これは東南アジアで最も高い数字だ。

多次元貧困とは、収入だけでなく「健康・教育・生活水準」の三軸で貧困を測る指標である。これが42%ということは、国民の約半数が食料・医療・教育・衛生のうち複数の面で深刻に欠乏した状態にあることを意味する。

5歳未満の子供に至っては、47.1%が発育不全で慢性的な栄養不足による低身長状態になっている。これは世界で最も高い水準のひとつだ。貧困が身体だけでなく、脳の発達にも永続的なダメージを与えている。

国民の27%は現在も深刻な食料不安の状態にある。食べ物のカロリー自体は何とか確保できる家庭も多いが、栄養バランスの取れた食事はほとんどの家庭には手が届かないものと化している。

農業は国民の約70%が従事する基幹産業でありながら、そのほぼすべては自給自足レベルの小規模農業だ。食料の60%以上を輸入に頼っており、国際価格の変動が直接、家庭の食卓を直撃する社会になっている。

だが奇妙なことに、この国には莫大な富がある。独立時に引き継いだティモール海の海底油田から得た収益を積み立てた「石油基金」は、2024年時点で約182億ドル(約2兆7000億円)の残高を誇る。

国家予算の88%がこの基金から賄われており、表面上は「資源国」の顔を持つのだが、その実態はあまりにも脆弱な状況になっているのが問題なのだ。今、東ティモールの資源はどうなっているのか……。

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石油基金という「砂の上の城」

実は、東ティモールでは石油と天然ガスの生産量はすでに減少に転じており、持続可能な引き出し上限を大幅に超えた取り崩しが毎年続いている。2026年予算では政府支出がGDPの約90%、財政赤字はGDP比50%超という異常な水準だ。

独立のために戦った人々が夢見た「豊かな東ティモール」は、実現しなかった。

東ティモールの国家財政は、明日の貯金を今日食いつぶす悲惨な状況にある。石油基金は、独立後に海底油田の収益を将来世代のために積み立てる目的で2005年に設立されたソブリン・ウェルス・ファンド(政府系ファンド)だった。

ノルウェーの石油基金をモデルにしたこの仕組みは、当初は健全な財政規律のシンボルとして国際社会から高く評価された。

基金には「推定持続可能収入」と呼ばれる年間引き出し上限が設定されており、基金全体の3%を超えないことが原則とされていたはずだった。ところが東ティモール政府は2008〜09年以降、ほぼ毎年この上限を超えた引き出しを続けたのだ。

2026年の国家予算では、政府支出がGDPの約90%に達すると見込まれている。財政赤字はGDP比50%超。現在、その財源のほぼすべてが石油基金からの「過剰引き出し」で賄われている。

なぜこれほど過剰な支出が続くのか。背景には「使えば使うほど票になる」という政治的インセンティブがあるからだ。

東ティモールの政治家たちは、インフラ整備や公務員給与、補助金配布といった目に見える支出を通じて支持基盤を固めてきた。問題は、その支出の多くが生産性の低いプロジェクトや、腐敗を通じたエリート層への還流に消えていることだ。

IMFは2025年の報告書で「大規模な財政赤字が望ましい成長配当をもたらしていない」と明確に批判している。

これに追い打ちをかけるのが、油田の生産減少だ。ティモール海の既存油田からの収益はすでに細り始めており、唯一の「救済策」として長年期待されてきたのが「グレーター・サンライズ」と呼ばれる大型海底天然ガス田の開発だ。

推定埋蔵量は約5兆立方フィートに上る巨大プロジェクトだが、ガスの処理施設をどこに建設するかをめぐってオーストラリアとの交渉が難航し、2024年末時点でプロジェクトは事実上の停滞状態にある。

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2025年に起きた激しい抗議暴動

複数の独立した試算が一致して指摘するのは、現在の支出ペースが続けば2030年代後半には石油基金が完全に枯渇するという見通しだ。そのとき、政府予算の88%を占める財源が消える。

公務員給与が払えなくなり、補助金が消え、インフラ維持もままならなくなる。貧困率42%の国が、さらに切迫した経済崩壊に直面するわけだ。

そんな中、2025年8月末に東ティモールに国会はひとつの決定を下した。

議員65人全員に、1台あたり約900万円のトヨタ・ランドクルーザー・プラドを購入する総額支出計画だ。議会側の説明は「既存の車両がすべて壊れているから」というものだったが、野党は「まだ使えるものもある」と反論した。

国民の40%以上が貧困状態にある国で、議員の年収は約540万円。一般労働者の月収は115ドル(約1万7000円)に過ぎない。その中で、議員が1人1台900万円の高級SUVを税金で購入するのだ。

このニュースは、SNSを通じて瞬く間に若者のあいだに広がり、若者の怒りに火をつけた。9月4日、学生団体が議会前での抗議を宣言した。

警察は当初、議会から100メートル以内での集会を禁止する法律を盾にデモを阻止しようとしたが、学生たちは従わなかった。9月15日、1000人以上の学生が国会前に集結した。デモは次第に激化し、一部の参加者が石を投げ、タイヤを燃やし、政府車両に放火した。警察は催涙ガスとゴム弾で応じ、4人が負傷した。

折しもネパールやインドネシアでも若者たちが激しい暴動を起こして政府の腐敗に抗議する流れがあった。政府は若者たちの怒りに体制崩壊の不安を感じたのか、翌日にはすぐに車両購入計画の撤回を発表して事態を収束させようとした。

ところが抗議は収まらなかった。学生たちの要求は「車の問題」を超え、退職した国会議員への終身年金廃止という、より根本的なエリート特権の問題へと拡大していったのだ。結局、国会は終身年金の廃止も賛成多数で可決した。

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2030年代、東ティモールは「燃える」か?

そんなわけで東ティモールが混乱しているのが見えてくるはずだ。今後、東ティモールで大規模な政変や暴動が起きる可能性はあるのか。

軍事クーデターや革命的な政府転覆は当面は起きないかもしれない。だが、断続的な街頭暴力と社会不安の深刻化は間違いなく発生する。石油基金が枯渇する2030年代後半が、最も危険な時期となる。

まず押さえておくべき歴史的事実がある。

東ティモールは独立後の2006年に一度、深刻な政変を経験している。軍内部の対立と地域差別への不満が引き金となり、武道グループと青年組織が暴動に加わり、首都は内戦状態に近い混乱に陥った。

死者約30人、数千人規模の国内避難民が発生し、当時の首相が辞任に追い込まれた。その後は比較的安定を取り戻したが、当時の火種のいくつかは今も消えていない。

東ティモール政府が喫緊に何とかしなければならないのは、貧困と雇用の絶望だ。国民の70%超が35歳以下という超若年人口を抱え、毎年約1万9000人の若者が就職市場に出るのに雇用が「ほぼ」ない。

若者の半数近くが海外就労を希望している。この将来のない若者たちが、次の抗議運動の中心になる。

現在はジョゼ・ラモス=ホルタ大統領やシャナナ・グスマン元首相ら、独立闘争を率いたカリスマ的指導者たちが国を率いている。しかし、こうした求心力のある政治家は高齢だ。あと数年のうちに第一線から退く。

そのあと、国を率いる力量のある政治家がいない。国家が破綻する前に、政治が不安定になる可能性がある。

2030年代後半、石油基金の枯渇が現実になった時——公務員給与が止まり、補助金が消え、食料価格が高騰する中で、すでに怒りを抱えた若者たちが街頭にあふれる未来が待っている。

それまでに東ティモールは、何とかなるのだろうか……。

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