驚異的な潜在能力を持った人も、ゾーンに入ることもできずに幕切れになる理由

驚異的な潜在能力を持った人も、ゾーンに入ることもできずに幕切れになる理由

天才は、まず最初に自分が没頭できる分野を正しく選んでいた。好きなこと、関心のあること、面白いと思っていることに関しては、誰でも容易に「ゾーンに入る」ことができる。だが、誰でも好きなことをやっていたらゾーンに入れるわけではないというのも事実である。むしろ、集中力が常に削がれ、ゾーンに入れない人の方が多い。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

「異様なまでに集中した状態=没頭した状態」

音楽、学問、芸術、スポーツから、プログラム、モノ作り、技術者、職人まで、それぞれの分野には、すさまじいまでの卓越した能力を発揮する天才が存在する。

こうした天才というのは人によってそれぞれ性格が違うのだが、共通していることがあるとすると「反復すること」を極度にこだわる性質を持っていることだ。

同じことを何度も繰り返す。

身につくまで、あるいは自分がこれだと腑に落ちるまで、執拗に「反復」する。反復することに対して妥協がない。それも、ただ反復するのではない。異常な執念を持って反復する。

反復が続くとそれは継続になる。継続が続くと熟練する。この熟練が天才を生み出しているのだ。

これは歴史に名を残したすべての天才たちにも言えることである。その並外れた反復は「病的なまでに執拗だ」とも「狂気」とも評される。

その反復は「舞台裏」なので見えないので、天才は突如として特異な能力を身につけたように見える。だが、そうではない。開花した才能や能力の陰には、常人には成し遂げられないような極度の反復がその裏にある。

そして、その反復は漫然とおこなわれているのではなく、異常なまでの集中しておこなわれる。そもそも、同じことを何度も繰り返すという行為自体が、今やっていることに集中していることを示している。

集中を通り越すと没頭になる。没頭は他のことがいっさい頭に入っていない驚異の集中力に入った状態を指す。この「異様なまでに集中した状態=没頭した状態」を英語では”In the zone”(ゾーンに入る)という表現を使うこともある。

天才と呼ばれている人たちは、遺伝的に「ゾーンに入りやすい」、すなわち驚異の集中力で没頭しやすいという性質がある。

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周囲が見えなくなるほどの集中力で没頭する

フィンセント・ファン・ゴッホは、生涯を通じて、興味を持った対象に極端なまでに没頭し、周囲が見えなくなるほどの集中力で作品を生み出し続けた芸術家として知られている。

幼少期より扱いにくい子供と見なされており、親に無断でひとり遠出して自然を観察するなど、強い興味や衝動に従って行動する傾向があった。まさに、幼少期から「ゾーンに入って抜け出せない人」だったのだ。

この性格のせいで、精神病院に入ることになるのだが、入院していた時期も、発作の合間に画業に没頭し、アイリスや糸杉などの名作を次々と生み出している。

芸術家で言えば、スイスの画家・彫刻家のアルベルト・ジャコメッティもそうだった。日常のあらゆる場面でデッサンをやめず、カフェや手元の紙ナプキンにまでスケッチを描くなど、ひたすら「人間」をテーマに没頭して描いていた。

幼少期から芸術に親しみ、12歳で油彩、13歳で彫刻を始めたのだが、晩年になってもまったく創作意欲は衰えず、自身の表現に常に疑問を持ち、加工と破壊を繰り返しながら、見ること・存在することの本質を追求し続けていた。まさに、取り憑かれていたと言ってもいい。

誰もが知っている、レオナルド・ダ・ビンチも似たような性格だった。ダ・ヴィンチは、早朝から日没まで飲み食いも忘れて絵を描き続けたり、2~4日間まったく筆を置かずに没頭していた。

もちろん、それだけ没頭したら成功するわけではない。たとえば、ヘンリー・ダーガーは没頭し続けたけれども生きているあいだは成功しなかった。浮浪者のような格好をして人と会話もできなかったからだ。

しかし、亡くなってその作品が知られるようになると、その特異で異様な超長大作品が世間に衝撃を与えたのだった。(ブラックアジア:ヘンリー・ダーガーは部屋に閉じこもって何を生み出したか

ダーガーの作品は「アール・ブリュット」というカテゴリーの中でも、よく知られたものとなっている。アール・ブリュットは精神的な問題を抱えた人が描いた作品なのだが、ヘンリー・ダーガーは知的能力に劣っていたのだろうか。

いや、逆だ。彼は学校では飛び級するほどの知的能力を持っていた。決定的にコミュニケーション能力が欠けて社会性がなかったのだが、知的能力は鋭かった。

ダ・ヴィンチは、早朝から日没まで飲み食いも忘れて絵を描き続けたり、2~4日間まったく筆を置かずに没頭していた。

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「ゾーンに入った状態」を再現することができるのか?

「天才」がどのようなプロセスで生まれるのかは、すでに解明されている。天才とは生まれつきの驚異的な集中力で対象にのめり込み、ゾーンに入り込み、その中で常軌を逸したパフォーマンスを見せられる人なのだ。

まず最初に集中力があって、その集中力によってゾーンに入り、それが継続された結果、天才と呼ばれる人間が生まれてくる。

逆に言えば、自分自身の能力を高めたいと思ったら「ゾーンに入る」ほどの集中力が必要であるということでもある。客観的に見ても、集中力を高められる人は、高められない人に比べると成し遂げられることは多い。

おそらく、どんな人であっても長い人生のあいだに何度かは「ゾーンに入った」ことを経験しているはずだ。その「ゾーンに入った状態」を常に再現できれば、かなり有利な結果を手に入れることができる。

だが、都合よく「ゾーンに入った状態」を再現することができるのだろうか。

私は、人間には誰でも「ゾーンに入れる分野」があると思っている。人は世の中のすべてに対して集中できるわけではない。まったく関心の向かない仕事や作業や物事に集中できる人はひとりもいない。

人からやれと言われてしかたなくやっていることや、義務でやっているようなものに集中できる人はいない。当たり前だが、「ゾーンに入る」ためには自分が猛烈に没頭できるための「分野」がまず必要なのだ。

天才は、まず最初に自分が没頭できる分野を正しく選んでいた。好きなこと、関心のあること、面白いと思っていることに関しては、誰でも容易に「ゾーンに入る」ことができる。

とは言っても、誰でも好きなことをやっていたらゾーンに入れるわけではないというのも事実である。むしろ、集中力が常に削がれ、ゾーンに入れない人の方が多い。

60年間、ずっと発表する場を作らず、自らの世界に籠もって超大作を書き続けていたヘンリー・ダーガーの作品のひとつ。

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あなたも驚異的な潜在能力を持った人かもしれない

多くの人は「ゾーンに入ること」によって驚異的な能力を手に入れることができると知っても、それを取り入れることができない。答えがわかっても、それが実行できない環境にある。

子供がある種の分野が好きになって没頭して神童のようになっていくこともある。ところが、大人になれば普通の人になってしまう子供が大半だ。

なぜか。世の中は「集中できない環境」によって成り立っているからだ。人々を集中させるどころか、むしろ逆に気持ちを分散させやすいようになっているからだ。

たとえば、親や学校や会社や社会は、私たちに「興味のないことを取り組む」ことを強制する。やりたいことをさせるのではなく、やりたくないことをさせるのだ。それも、総合的にやりたくないことをやらせる。

社会を生きていくためにはあらゆることを覚えなければならない。そのため好きなことばかりできないのは当然のことだ。だが、それによって集中できる分野からどんどん切り離されて、集中できないものに時間を費やさなければならなくなる。

それだけではない。今の世の中は娯楽が大量にあって多様で多彩である。社会は、恐ろしいほど気が散りやすいようにできている。

いくら潜在能力を持った人であっても、興味のない仕事をしてテレビを見て映画を観てインターネットを見てゲームをして友だちと談笑して飲み会にいって……と時間を潰していたら、何かを成し遂げたくても集中などできるわけがない。

だから驚異的な潜在能力を持った人が、そのまま日常生活に埋没して、一生のあいだに一度も自分の能力を開花できないまま死んでいくことになる。

多くの人が才能ある分野でゾーンに入れれば何かを成し遂げることがでいるかもしれないことを知りながらも、まったくゾーンに入れないのは、そうした社会構造があるからだ。

あなたも本当は驚異的な潜在能力を持った人かもしれない。しかし、あまりにもどうでもいいことに時間を費やしていると、ゾーンに入る経験もなく、そのまま人生が終わりになってしまう。

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