インドとパキスタンの対立。最悪の場合、両国対立の最終的な結末は「核戦争」に

インドとパキスタンの対立。最悪の場合、両国対立の最終的な結末は「核戦争」に

80年にも渡って、解決不能の宗教対立・国家対立・領土対立で憎悪を募らせているのがインドとパキスタンである。現在、そこに水問題という対立も加わることで、両国間の対立はより複雑で危険な様相を呈するようになった。両国は核兵器を保有している。最悪の場合、両国対立の最終的な結末は「核戦争」になる。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

インドとパキスタンで対立が深まっている

2025年5月現在、インドとパキスタンのあいだで、かつてないほどの緊張が高まっている。その直接的な引き金となったのは、カシミール地方で発生した事件だ。

この事件は2025年4月22日に起きているのだが、インドが実効支配するジャンムー・カシミール州パハルガム近郊のバイサラン渓谷で、5人の武装勢力が観光客を狙って一斉射撃をおこない、非ムスリムと判断した男女26名を殺害、20名以上が負傷するという凄惨な事件だった。

インドは、この事件をパキスタンを拠点とするテロ組織の犯行であると断定した。一方、パキスタンは事件への関与を否定し、国際的な調査を要求している。

インドがパキスタンのテロであると主張する根拠は、犯行グループが被害者に対しイスラム教の聖典コーランを読むよう強要した点にある。読めた人間は助け、読めなかった人間を殺した。

イスラム教徒を標的にしなかったことから、インドは犯行グループがイスラム教徒が多数を占めるパキスタンにルーツを持つと推測した。だが、現時点では容疑者は特定されておらず、インドの主張は憶測の域を出ていない。

カシミール地方は、インド、パキスタン、そして中国の国境が接する戦略的に重要な地域であり、第二次世界大戦終結直後から約80年にわたり、三ヶ国が領有権を争ってきた。風光明媚なこの地には、世界的に有名なK2などの山々があり、観光地としても知られている。

だが、今回の射殺事件を機に、両国間の対立は激化の一途を辿っている。

インドは国境を封鎖し、パキスタンとの貿易を停止するなど、強硬な措置を次々と打ち出している。さらに、パキスタンの飛行場上空の通過禁止、ミサイル実験の実施、そして軍隊の動員と訓練など、軍事的な圧力を強めていった。

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両国はともに核兵器を保有する国家である

これらのインドの行動に対し、パキスタンも非難の声明を発表し、国境付近での軍事的な警戒を強めている。まさに一触即発の危機的な状況だ。

アメリカ合衆国のマルコ・ルビオ国務長官は、両国に電話で自制を促すなど、事態の沈静化に向けて奔走しているが、現時点ではその効果は見えない。長年にわたる根深い対立と相互不信が存在する中で、偶発的な衝突が全面的な軍事衝突へと発展する可能性は否定できない。

国際社会が強く憂慮しているのは、インドとパキスタンは、ともに核兵器を保有する国家であるという点だ。

両国が核実験を強行し、核保有国となったのは1998年のことだった。当時、アメリカをはじめとする国際社会は両国の核開発に強く反対し、制裁などの措置を講じたが、両国は国際的な圧力に屈することなく核保有の道を選択した。

その背景には、長年にわたるカシミールを巡る対立に加え、互いに対する根強い不信感と憎悪があったからだ。

さらにインドは、中国という核保有国と国境を接している。インドは国土を護るために核がなければ国が滅ぶと自覚していた。「核のない平和な世界」みたいな絵空事を言っていたら国がなくなると現実的に考えていたのだ。

そうなると、パキスタン側も、通常戦力で大きく勝るインドに対し、核兵器を抑止力として持たざるを得ないと主張して核保有を強行した。パキスタン側は「インドが核を使わない限り使わない」という方針ではない。

「軍事的に追い詰められたら核兵器の使用も辞さない」という姿勢を最初から強く打ち出している。つまり、「いざとなったら、いつでも核兵器を使う」と宣言しているにも等しい。これがインド側の警戒感を高めている。

ちなみに、両国は核拡散防止条約(NPT)に加盟していない。NPTは、核兵器の保有国を第二次世界大戦終結時に核兵器を保有していたアメリカ、ロシア、イギリス、フランス、中国の5ヶ国に限定し、それ以外の国々の核兵器開発を禁止する条約である。

この両国が堂々とそれを有名無実化している。偶発的な事態でも、戦争が起きたら、国際社会の縛りなんか無視して核兵器を使う可能性がある。それを軍事専門家は危惧している。

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宗教対立、国家対立、領土対立と、水の対立

今回のインド・パキスタン間の緊張において、見過ごすことのできない新たな脅威が浮上している。

それは、パキスタンの生命線とも言えるインダス川の水を巡る争いだ。インダス川は、チベット高原を水源とし、インドが実効支配する地域を流れ、パキスタンを縦断する大河である。

パキスタンにとって、インダス川は農業用水、生活用水の供給源であり、まさに「母なる川」と言える存在だ。この川の恵みによって、パキスタンは豊かな農作物を生産し、人々の生活を支えている。

だが、インドは近年、このインダス川の水を「兵器化」する可能性を示唆し始めた。インドの強硬派は、自国の技術力を背景に、水源付近での河川の流れを制御し、パキスタンへの水の供給を制限することが可能だと主張している。

インダス川は非常に大きな河川であるため、下流での完全な水の遮断は現実的ではないかもしれない。しかし、上流での水の流れを一部でも変更することができれば、パキスタンにとって深刻な影響を与えることは間違いない。

もしインドが意図的に水の供給を制限するような事態となれば、パキスタン国民の生活は根底から脅かされ、国家の存亡に関わる危機に発展する。パキスタンにとって、これはまさに死活問題だ。

宗教対立、国家対立、領土対立に加え、水問題という対立も加わることで、両国間の対立はより複雑で危険な様相を呈するようになった。

現時点では、事態の沈静化に向けた国際的な仲介努力は目立った成果を上げていない。アメリカ合衆国は、ブリンケン国務長官が両国に電話で自制を求めるなど、外交的な努力を続けているが、長年の対立と相互不信の根深さから、その効果は不透明だ。

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ここで一度でも核が使われてしまうと終わり

インドはアメリカならびに国際社会の言うことを聞くだろうか。現在、アメリカは経済的な影響力という点で、インドに対して一定の影響力を持っていることが、もしかしたら救いになるかもしれない。

近年、米印間の経済関係は緊密化している。IT分野ではインドの人材が重要な役割を果たしているし、アメリカの巨大企業であるAppleは、iPhoneの製造拠点を中国からインドへとシフトする動きも見せている。

これからは中国の時代ではなく、インドの時代だと世界は見ている。だが、もしインドが核兵器の使用をちらつかせたり、パキスタンへの水の供給を意図的に制限するような強硬な姿勢を取り続ければ、インドは「危険な国」として国際社会からは距離を置かれることになるだろう。

まして、核を脅しに使ったり、実際に核戦争を始めたりしたら、もはや完全に国際社会から切り捨てられる。インドの経済成長は夢と終わることになる。

個人的には両国が「正気」を保ってくれることを願っているのだが、パキスタン側の挑発や強硬姿勢で事態がエスカレートしたら、インドの「正気」もどこまで持つのかはわからなくなる。

両国の対立の最終的な結末は「核戦争」である。ここで一度でも核が使われてしまうと、今後の核兵器は「使える武器」と転化する。そうなると、それはイランやイスラエルを刺激するようになり、核戦争は中東にも伝播する恐れもある。

核兵器は、広島と長崎への投下以来、70年以上使用されていない。それは、核兵器の破壊的な威力を人類が深く認識し、その使用を回避してきた結果と言える。

この「使われない武器」という認識が「使える武器」という認識に変わる瞬間は、人類にとっては破滅的な結果を招く瞬間でもある。だから、国際的な紛争にはかかわらない、と言っていたアメリカもインドとパキスタンの対立には積極的に介入して両国をなだめている。

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