タイ人の健康破壊。もともと高塩分・調味料まみれの料理にジャンクフードまで定着

タイ人の健康破壊。もともと高塩分・調味料まみれの料理にジャンクフードまで定着

知っている人は知っていると思うが、タイの飲み物は死ぬほど甘い。一口で歯が溶けるのではないかというくらい甘い。日本人の中には「とても飲めない」という人もいる。おまけにタイの料理は極度に味が濃かったりする。タイではそこにジャンクフードも定着した。それで、タイ人の健康が破壊されている。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

高カロリー・高塩分・高糖質の食事

タイ人は、もともと極端に甘い、塩辛い、スパイシー、酸っぱい料理が好きなのだが、最近はそれに加えてジャンクフードもまた広がってタイ保健省健康増進局(DHPS)が警告を発するほどになっている。

特に都市部では、コンビニエンスストアや屋台で簡単に手に入るスナックやファストフードが広く普及している。従来の料理は、たしかに調味料は使い過ぎではあったが、野菜や魚が多く食べられていた。

ところが今は超加工食品の嵐で、高カロリー・高塩分・高糖質の食事が急速に広がっている。多くのタイ人がデザート感覚で砂糖入りの炭酸飲料、ミルクティー、アイスコーヒー、フルーツジュースを一日に何度も飲んでいる。

知っている人は知っていると思うが、東南アジアの国々はどこの国でも飲み物は死ぬほど甘い。一口で歯が溶けるのではないかというくらい甘い。タイの飲み物もすさまじい甘さで日本人の中には「とても飲めない」という人もいる。

それを、タイ人は朝から晩まで飲んでいるのだ。

そこに、揚げ物や炒め物、ファストフードである。目玉焼きも焼くのではなくて油で揚げる。それがまた旨いのだが、こういうのを日常的に食べることで、脂質の摂取量が極度に増えていく。

調味料のナムプラー(魚醤)や唐辛子、ナムプラー風のソースを多く使うことで、塩分摂取量もとんでもないことになっている。これによって、タイ人も肥満だらけになって、心血管疾患、糖尿病、がん、慢性呼吸器疾患、腎臓病で苦しむようになってきているのだった。

それで、タイ保健省健康増進局が「事態は深刻だ」と警告しているのだが、それはタイ国民を思っているというよりも、医療制度や経済にも大きな影響を与えるからではないかと噂されている。

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 タイ人が淡白な味に耐えられるのかはわからない

タイ国民のことを思っているのか、それとも医療制度の費用が膨らむのを恐れているのかはともかく、特に若い世代では、伝統的なタイ料理よりも西洋風のファストフードを好む傾向があるので、もっと事態は悪化するだろう。

SNSの影響もあり、見た目が派手で甘いドリンクや加工食品への人気も高まっている。一部の学校では給食の改善や栄養教育を導入しているが、たぶん無駄骨だろう。ジャンクフードの魅力に抗える子供は少ない。

ただ、面白いことに、タイにも中流階級が増えてきて、彼らが何と健康意識に目覚めるようになっている側面もあるのだという。

あのどぎつい味が大好きなタイ人の中から健康志向の人たちが出てくるというのが信じられないが、こうした人たちをターゲットに、オーガニック食材を使った店まで出てきているという。

ただし、まだそれが流行になっている、というほどでもないようだが、タイの食文化を守りつつ、現代のライフスタイルに合った健康的な食習慣を模索するようになっているのだという。

もともとタイ料理は、野菜や果物、ハーブを豊富に使った料理が多いので、入れすぎの砂糖・塩・調味料を調整したら健康的な料理になりそうだ。しかし、果たして濃い味しか興味のないタイ人が淡白な味に耐えられるのかはわからない。

健康に留意するのであれば、自然にそうなっていくのだろうが、こうやってタイ人のあいだでも健康のことを考える余裕を持つ人たちが出てきているということ自体に私は興味深く感じる。

ただ、そうした人たちはまだ多数派にはなっておらず、大多数の人たちはむしろ昔よりも健康に悪いジャンクな食事に毒されている。大多数がジャンクフードまみれになって、少数がオーガニック志向になるという構図だろうか。

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 タイ人の「どぎつい味が好き」な国民性

2025年2月に実施された全国52,000人を対象とする調査では、回答者の過半数となる51%が甘い飲食物を週に3回以上摂取していた。また46%が揚げ物やファストフードを定期的に食事に食べていた。

この傾向はさらに高まっていく可能性が高い。

とは言っても、タイの伝統的な料理であるソムタム(青パパイヤのサラダ)、ヤム(スパイシーサラダ)、ラープ(挽肉料理)なども、やたらと塩分が含まれていて、けっして健康に良いわけでもない。

その「健康に悪い」伝統料理を週3回以上食べる人々も約50%に達する。いずれにしても、タイ人の「どぎつい味が好き」な国民性を変えないことにはタイ人は健康になれないだろう。

タイ人は外食が好きだが、外食では調味料はなおさら過剰に使われる。しかし、約60%の回答者が「調味料を控えめにしてほしい」と店員に依頼することに躊躇を感じると回答している。

その結果、どんどん辛い・甘い・酸っぱいが強くなっていき、それに慣れ、健康に良いほどほどの量が物足りなくなっていく。塩分や脂肪の摂取量を自ら制限することができず、気づかないうちに健康リスクが蓄積されていく。

結局のところ、「健康への関心は高まっているが、実際の行動変容には至らない」というのがタイの現状だろうか。健康を意識した料理や低糖質のメニューなんか、ほとんどのタイ人には無理かもしれない。

私も東南アジアの底辺の人々が食べる料理ばかり食べてきたし、彼らと一緒になって死ぬほど甘い飲み物をたっぷり取ってきたので、すっかりジャンクフードまみれの食事になって、誰に何を言われてもそこから離れられない。

長生きは無理だな、と思いつつ他の日本人には飲めないくらい砂糖まみれのコーヒーなんかを飲んでいる。

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 人々の味覚はすぐに変わるわけではない

タイでは現在、3300万人以上の国民が何らかの健康問題を抱えている。毎年40万人が心血管疾患・がん・慢性呼吸器疾患・糖尿病で死亡し、新規に200万人以上が発症して治療を受けている。

タイでも糖尿病は年々増加傾向を示しているのだが、2021年時点では成人11.6%に相当する約606万人が糖尿病だった。おそろしいのは、約30%が未診断のまま放置されていると報告されている。

糖尿病というと都会のほうが患者が多いような感覚もあるが、有病率は都会でも地方でも差がなく、地方でも食事だけはジャンク化しているのが統計でも出ている。肥満もかなり増えている。

2024年度には国民健康保険局が予算の52%以上(1,527億バーツ)が悪しき食生活に起因する病気に使われているとタイ保健省健康増進局は述べた。「これで他の医療分野や予防施策への投資余地が奪われている」という話だ。

保健大臣ソムサック・テプスティン氏は「国民がこうした病気で健康を損なっているせいで、GDPの約9.7%が失われている。だからこそ、食事の改善を早急に考えなければならないのだ」と強調する。

タイはここ数十年で急速な経済成長を遂げ、かつて食事の量を確保することが最優先だったが、今では「豊かさ」を実感するための外食や嗜好品への支出が増大し、それが健康問題を生み出しているのだった。

しかし、そうは言っても人々の味覚はすぐに変わるわけではない。タイ人が健康的な食事をよろこぶようになる日は来るのだろうか? どぎつい味に慣れた人間からそれを引き離すのは難しいと思う。私も健康食品なんか食べたくない。

タイ人も私も健康になるのは無理そうだと思いつつ、タイで飲むのと同じくらい甘いコーヒーと、心臓発作を起こしそうなジャンクフードを食べている。

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