高学歴のホームレス。学歴は安定を保証せず、誰でもホームレスになるのが現実

高学歴のホームレス。学歴は安定を保証せず、誰でもホームレスになるのが現実

ホームレスは低学歴な人だけだと考えている人も多い。たしかに、そうした傾向は統計でも示されている。しかし、ホームレス状態にある人たちの中には、高学歴な人も存在する。学歴は安定を保証しない。時代が悪かったり、心身に問題を抱えたりすると高学歴であってもホームレス化する。悲しい現実だ。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

大卒や元教師など多様な経歴を持つ人がいる

ホームレスは低学歴な人だけだと考えている人も多い。たしかにビッグイシュー基金が実施した『若者ホームレス白書』では、若年層のホームレス経験者の多くが高校中退や中卒であり、学歴が相対的に低い傾向が示されている。

ところが、一方でホームレス状態にある人たちの中には、高学歴の人も存在することが知られている。ビッグイシュー日本の販売者の中には、大学卒業者や元教師など、多様な経歴を持つ人たちがいる。

2016年の厚生労働省による『ホームレスの実態に関する全国調査(生活実態調査)』でも統計がまとめられているのだが、学歴分布は以下のようになっていた。

・中学校卒業:46.8%
・高校卒業:38.6%
・大学・短期大学卒業:8.8%
・その他:5.8%

この調査結果から、ホームレス経験者の約8.8%が大学または短期大学を卒業していることが確認できる。この割合は、ホームレス全体の人数が減少傾向にある中で無視できない数字でもある。

海外に目を向けると、特にアメリカではこの傾向がより顕著だ。米国教育省のデータによると、2019年時点で4年制大学の学生のうち14%がホームレスを経験したことがあるとされている。これは人数にすると約56万人に相当する。

この数字は、高等教育を受けた者が経済的困窮に陥り、住居を失うケースが少なくないことを示している。具体例として、ニューヨーク市では2020年の調査で、ホームレス人口の約25%が何らかの高等教育を修了していたと報告されており、大都市ほどこの傾向が強い。

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高学歴なのになぜホームレスになってしまうのか?

ホームレス状態に至る前の職歴を調べた研究もある。日本労働研究機構の報告では、ホームレス経験者の約3分の1が正規雇用を経験しており、その中には大卒を前提とする専門職や管理職も含まれていた。

これらのデータは、高等教育を受けた者が社会的なセーフティネットから漏れ落ち、結果として路上生活を余儀なくされる現実を浮き彫りにしている。統計的には、大学卒業者全体に対するホームレス比率は低いものの、ホームレス人口内部での高学歴者の存在は確実に確認できる。

それにしても、高学歴なのになぜホームレスになってしまうのか。

その理由は、一様ではない。経済的要因もあれば、労働市場の変化もあっただろう。そして個人的な事情もあれば、性格もあれば、心身の病気もある。とくに精神的な病気が比重が大きいはずだ。

精神疾患や家族関係の破綻がホームレスに至る要因として頻繁に挙げられるが、これらは学歴とは無関係に発生する。医学的な調査では、ホームレス経験者の約40%が精神的な問題を抱えていると報告されている。

大学卒業者であっても、うつ病やアルコール依存症に陥れば、仕事や住居を維持することは困難である。このような心身の問題があれば、学歴があろうがなかろうが誰でもホームレスになってしまう。私はそれに対して驚きはない。

そもそも、心身に問題がなくても、いつの時代でも高等教育を受けたからと言って安定した収入を得られるわけでもない。

日本の場合、1990年代のバブル崩壊以降、非正規雇用の割合が急増している。2023年の総務省統計では労働力人口の約38%が非正規雇用である。

この中で、大卒者であっても正規雇用の機会を逃し、低賃金の仕事に就くケースも増えている。厚生労働省の調査では、ホームレス経験者の約60%が失業をきっかけに住居を失ったと回答しており、学歴がかならずしも雇用の安定に結びつかない現実がここに反映されている。

今後はさらなるIT化の加速や人工知能の進展による事務職の削減やアウトソーシングによって、高学歴者の失業率も増えていくことが予測されている。

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運が悪ければ仕事なんか見つからない

私は完全なる「バブル世代」で浮かれまくっていた時代に社会に出て、ぐいぐい上昇する株式市場で調子に乗って売買し、働きもせずに何年も東南アジアに沈んだりしていたのだが、私の世代の後はバブルが破裂して就職氷河期に入っていた。

日本経済は未曾有の不況に陥り、新卒採用が急激に減少した。その結果、1993年以後は不景気の影響で就職難が深刻化してしまった。

2000年には大学卒業者の22.5%が学卒無業者となり、就職難が深刻な状況に達している。要するに、不景気のまっただ中に社会に出れば、大学卒業者であってもホームレスになる人たちが出てくるということである。

1930年の昭和恐慌の前後も学生たちは厳しい就職難に直面して、小津安二郎監督の映画『大学は出たけれど』は流行語ともなった。この映画では、親に「就職口が見つからない」と言えず、出勤したように見せかけて近所の子供とボール遊びをして時間をつぶす主人公の姿が描かれている。

この映画の主人公は最後には何とか就職口を見つけたが、もし見つけられなかったらホームレスと化していただろう。そういう時代だったのだ。

世界のどこでも、時代が悪化したら大学を卒業していようがしていまいが、運が悪ければ仕事なんか見つからない。今で言えば中国なんかはそうだ。2025年の中国の大学卒業生数は1222万人に達すると予測されており、前年より43万人増加する見込みだ。

だが、不動産バブルが崩壊してしまった今の中国では大学生の卒業時点での内定率は50%以下となっている。有名大学の卒業生であっても60%を下回っており、かなり厳しい状況になっているのがわかる。

インドでも、インド工科大学(IIT)や国立工科大学(NIT)といった名門校でも内定が決まらない学生が大勢いる。就職シーズンの終わりにおいても36%の学生が内定を得られない状況だ。

インドの場合、大学を卒業する若者たちにふさわしい就職先が限られているということもあって、景気に関係なく厳しい状況なのだ。だから、インドの若者たちはアメリカに潜り込もうとしている。

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眠る場所がなければ寒い日には凍えるしかない

学歴さえ手に入れられれば人生は安泰だと思う若者もいるかもしれない。しかし、ホームレスの中にも大学卒業者が含まれている事実は、学歴が社会的な成功を保証しないというのを如実に示している。

最近は、ますますその傾向が高まっていくようにも思える。現代社会は高度情報化社会なので、誰もが大学に進学するのが「当たり前」なのだが、そうすると大学卒という学歴は陳腐化してしまい、肩書きとしても何ら威光もなくなる。

たしかに有名大学を出たら違うかもしれないが、そこらの普通の大学を出たからといって、それは誇れるものでも何でもなくなった。その上に今の企業はどこでもリストラを普通にするわけで、才能(スキル)と実績(メリット)が示されなければ、いつでも放り出される。

企業は利益追求のために雇用を不安定化させ、大卒者であっても安定した職を得ることが難しくなっている。こうした社会の中で心身に問題が発生したら、運が悪ければ生活に窮することになって経済環境が悪化していくことになる。

低学歴層であった場合、生活できなければ生活保護を受けることに抵抗を持たないかもしれない。しかし日本では、生活保護に対する拒絶反応が強く、大学卒業者ほど支援を求めることに抵抗を感じやすい。

プライドもあるかもしれないが、高学歴であればあるほど自己責任論に縛られやすいので、自分ひとりで孤独にもがく。そして、どうにもならなくなってしまった人の一部が、ホームレスに落ちていく。

学歴は安定を保証しない。むしろ高学歴な人ほど、理不尽な社会の仕組みに絶望を深めて傷ついてしまうのかもしれない。学歴があっても、眠る場所がなければ寒い日には凍えるしかない。

社会から転落してしまった人のことを、私はいつも考えている。

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