
知能指数が高ければ成功が保証されていると考える人もいる。じつはそれは間違っていて、近年の研究では、IQの高さがかならずしも成功を保証するわけではないことが明らかになっている。むしろ、「IQが極めて高い人ほど、社会的な成功に至らないケースが多い」という意外な結果も示されている。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
IQの高さが成功を保証するわけではない?
刑務所に収容されている人の知能指数(IQ)の平均は、一般社会の知能指数(IQ)の平均よりも低いことが知られている。
それを知れば、社会的な成功者の知能指数(IQ)は高い人たちで占められているように感じるかもしれない。IQが高い人は学習能力や問題解決能力に優れ、一般的には社会的な成功を収めると考えられてきたからだ。常識的に、私たちはそう思うのだ。
ところが、近年の研究では、IQの高さがかならずしも成功を保証するわけではないことが明らかになっている。むしろ、「IQが極めて高い人ほど、社会的な成功に至らないケースが多い」という意外な結果も示されている。
スタンフォード大学の心理学者ルイス・ターマンがおこなった「ターマン研究」は、この問題を考える上で重要なデータを提供している。
1920年代に開始されたこの研究では、IQが140以上の子供1528人を追跡調査した。その結果、彼らの多くは学術的な面では優れた成果を収めたが、社会的・経済的な成功を収めた人はそれほど多くなかった。
平均的なIQを持つ人々と比較しても、彼らが著しく裕福になったり、著名な科学者や実業家になったりする確率はけっして高くなかった。
また、「Talent vs Luck」という研究では、成功には才能よりも運が大きな影響を与えることが示された。
統計モデルを用いたシミュレーションでは、非常に高い能力を持つ個人よりも、運に恵まれた平均的な能力を持つ個人の方が、より高い成功を収める可能性が高いことが証明された。
これは、IQが高いだけでは成功につながらず、適切な環境や偶然の機会が大きく関与することを示している。それにしても、いったい、どうしてこんなことになってしまうのだろうか?
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なぜIQが高い人が成功できないのか?
IQが高くても成功しない理由のひとつに、彼らが「社会的スキル」を持っているわけではないことが挙げられる。IQテストでは論理的思考や数学的能力が測定される。だが、人間関係の構築やコミュニケーション能力は評価されない。
成功には対人スキルが不可欠であり、特にビジネスの世界では、人脈の構築や交渉能力が成否を左右する。IQが高い人は論理的思考には優れているが、社会的な関係を築く能力が低い傾向にある。ここが問題なのだ。
社会で成功するためには、人間的な魅力が必要だ。IQが高くても人間的に魅力があるかどうかは別問題である。
「いや、それでも頭が切れるのであれば、その頭脳明晰さで最適な問題解決を示して、それが評価されて、のしあがっていくのではないか?」と思う人もいるかもしれない。ところが、そこでもIQが高い人はつまづくことが多い。
IQが高い人ほど「パラドックス的思考」に陥るのだ。
彼らは、問題を多面的に捉える能力に優れているため、単純な決定をくだすのが難しくなる。たとえば、ビジネスの世界では時に直感的な決断が求められるが、IQが高い人ほど慎重になりすぎ、決断を先送りにする傾向がある。
それだけではなく、考えうるリスクに気づいて安全な選択をする。その結果として、成功の機会を逃すことが多い。
そして、彼らは精神的な健康にも問題を抱えるようになる。カナダのトロント大学の研究によれば、IQが高い人ほど不安障害やうつ病を抱えるリスクが高いことが示されている。
IQが高い人は、世界をより複雑に捉えるため、ストレスを感じやすい。これは、成功するための粘り強さやメンタルの強さが求められる社会では、不利に働く要因となる。
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今は誰でも手元にスマートフォンを持っている
IQが成功と結びつかない背景には、社会の構造的な変化がある。かつての産業社会では、知的労働が高く評価され、学歴や試験の成績がそのまま職業的成功につながることが多かった。
だが、現代社会では、単に「知的能力が高い」だけでは成功することは難しくなっている。
今は誰でも手元にスマートフォンを持っている。知らないことは何でも検索で調べればいいし、最近では人工知能(AI)が的確な答えを導き出してくれる。AIの答えはすでに大学院レベルを超えるレベルとなっているわけで、天才アシスタントが身近にいるのと同じなのだ。
普通の人が天才レベルの知能をスマートフォンで使えるということは、単に知識を持っているだけの人間はたいして貴重でも何でもない社会になってしまった。
そうすると、人間的な魅力が重要になってくる。あるいは、まわりとの協調性が重要になってくる。
IQが高い人は、自分の能力に対する過信やプライドが高くなりやすいが、これが他者との協調を妨げる要因となることも多い。企業や組織では、チームワークが重視されるため、単独で優秀であることよりも、他者と協力できる能力が重要視される。
IQが高い人は、かならずしもチームワークに長けているわけではない。むしろ、彼らにとって、それは苦手な部類に入る。そうなると、それも彼らの社会的成功を阻む要因となってしまう。
知能指数(IQ)がどれだけ高くても、それが社会的な成功につながらないのは、そういうところに問題がある。
知能指数が高いことを望む必要がない理由
IQが高くても、社会的にうまくいかなくなって引きこもりになってしまった人や、経済的に破綻してしまった人や、低収入の仕事に甘んじている人はいくらでもいる。それこそ、ホームレスの中にも知能指数が高い人もいる。
そもそもIQが高い人は、かならずしも物質的成功を求めるわけではない。つまり、大金持ちになる欲求だとか、何らかの組織のリーダーになる欲望だとか、世界中に名前が知られるような人物になりたいという野心があるわけではない。
そんなことよりも、部屋にこもって、人間関係を必要最小限にして、ただ学術的な研究や創造的な活動に集中したい人も多い。それでは華やかなセレブや富裕層になれないかもしれないが、彼らは世俗的な成功に最初から関心を示していない。
その上、彼らは現実社会の不合理性や、あいまいさに対して苛立ちを感じることが多い。
彼らから見たら他の人間は「考えが浅い」し、間違ったことを平気で主張するし、非合理なので、つき合ってられないという気持ちになってしまうのだ。そういう人間とつき合うくらいなら、自分ひとりだけで学術や研究で真理の追究をしたほうが心地良いし、合っていると思う。
これが、社会的成功のために必要な妥協や適応を難しくする。
結局、そうやって「社会的スキル」が磨かれないまま年月が過ぎていき、世俗的な成功という観点から見ると、目立たない存在になっていく。
社会で成功するためには、協調性や、適応力や、柔軟性が必要であり、さらには「運」も重要だ。IQが高いことは知的能力を示すひとつの指標にすぎず、それ自体が成功を保証するものではない。
そう考えれば、べつに知能指数が高いことを望んだり、それを特別視したりする必要はないという「当たり前」のことに気づくはずだ。頭が良いに越したことはないが、それよりも、「要領良く立ち回れる普通の人」のほうが面白い人生を送れるのかもしれない。

今の日本企業は上にへつらい下に嫌なことを押し付けるだけの
要領よく立ち回れるヨイショ野郎ばかりで
どんどん凋落しているのもあるでしょう。