異食症。食べ物ではないものを食べたいという気持ちになる人はたしかに存在する

異食症。食べ物ではないものを食べたいという気持ちになる人はたしかに存在する

本来は食べ物ではない物を食べる人は「異食症」と呼ばれる。石を食べる人もいれば、炭を食べる人もいる。プラスチックを食べる人もいれば、チョークを食べる人もいる。絵の具を食べる人もいる。ガソリンを飲む人もいれば、ペンキを飲む人もいる。なぜ、こんなことになるのだろうか?(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

ビニール袋をずっとしゃぶる

インドネシアで小さな石鹸を包んでいたビニール袋を口の中に入れて、いつまでもガムのようにしゃぶっていた娘がいたのを覚えている。今までいろんな女性と会ってきたが、こんな不思議な娘と会うことは二度とないかもしれない。

彼女のことは『ブラックアジア売春地帯をさまよい歩いた日々・インドネシア編』の「サラの裸の身体に付いていた、異様で驚くべきものとは?」で取り上げた。リアウ諸島バタム島で会った女性だった。

ところで、彼女はビニール袋をずっとしゃぶっていたが、他にもタイ女性で自分の髪の毛を口の中に入れて、かじっていた女性もいた。まるで爪楊枝でもくわえるように、枕元に落ちていた自分の髪を口に入れて前歯でそれを囓りながらテレビを見ていた。

「おいしいの?」と尋ねると、彼女は少しはにかんで、かじっていた髪を飲み込んでしまったので驚いたものだった。

タイで知り合った女性のもうひとりは、自分の爪をいつまでも噛む癖があった。そのために彼女の爪はボロボロになっていたが、爪を噛むというこの癖は珍しいものではない。

彼女に「爪を見せて」というと、恥ずかしがって隠してしまった。人に見せられないほど、彼女は爪を噛んでいたのだった。さすがに髪を食べる人は少ないと思うが、爪を噛む人はよく見かける。特に子供に多い。

子供の頃から続くこの悪癖がどうしても治らず、大人になってもストレスを感じる局面になると、無意識にこうした癖が出るという人もいる。

あと、たまに唇の皮だとか指の皮やささくれを無意識に食べる女性も見かけることがある。本人は無意識なので、おそらく気づいていないのだろう。髪や爪を食べるというのは少し困った趣味だと思うが、世の中にはそれどころではない人もいる。

ブラックアジア 売春地帯をさまよい歩いた日々・インドネシア編。インドネシアには「女たちが捨てられた村」がある。リアウ諸島の知られざる売春地帯を扱った鈴木傾城入魂の書籍。

食べ物ではないものを食べたい

以前、インドで92歳の高齢女性が毎日砂を食べて暮らしているというのが報道されたこともあるのだが、彼女は10歳くらいの頃から、砂を食べる癖がついて、92歳になるまでその癖が治らないのだという。

92歳と言えば、インドではかなり高齢だと言えるが、10歳の頃から砂を食べ続けて健康に問題がなかった。彼女の身体には砂は合っていたと言うべきなのだろうか。

ちなみにインドでは、15歳の少女が髪を飲み込み続けて、自分の髪だけではなく、同級生の髪まで食べるようになって、消化しきれずに瀕死の状態になって緊急手術を受けることになったことも記事になったことがある。

本来は食べ物ではない物を食べる人は「異食症」と呼ばれる。こういった症状があるということは、異食症は世の中には珍しくないということでもある。

もちろん、異食症はインドだけに見られる現象ではなく、世界中のありとあらゆる国に存在していて、中には金属や釘やガラスまで食べてしまう人もいる。

石を食べる人もいれば、炭を食べる人もいる。プラスチックを食べる人もいれば、チョークを食べる人もいる。絵の具を食べる人もいれば、トイレットペーパーを食べる人もいる。ガソリンを飲む人もいれば、ペンキを飲む人もいる。

誰がどの異食症になるのかはわからないのだが、食べ物ではないものを食べたいという気持ちになる人はたしかに存在する。

面白いことに、異食症であるならば食べ物を何でも食べるのかというと、そういうわけでもなく、意外に偏食が多いという。「何でも食べる」のではなく「食べたいと思うもの」だけしか食べない。

だが、その「食べたいと思うもの」が食品ではないので問題を引き起こしている。

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異食症になる7つの原因

それにしても、なぜ食べ物ではないものを食べたいという気になるのだろうか。原因は一様ではないようだが、まとめると以下の7つほどになるようだ。

1. 極度のストレス。
2. 鬱病。
3. 貧血。
4. 寄生虫感染。
5. 精神病や脳の病気。
6. 栄養不良。
7. 趣味。

極度のストレスがなぜ異食症を引き起こすのかというと、「ストレスによりセロトニン不足が生じ、感情や欲求の抑制が困難になるから」だという。これにより、通常では食べないものを摂取したくなる衝動が生まれる人がいる。

鬱病と異食症には関連性があることを専門家は突きとめている。鬱病患者は感情の調整が難しく、異常な食行動を示すのだ。

ときどき妊婦が異食症になることがあるのだが、それは鉄分の不足から来る「鉄欠乏性貧血」から来ていることは解明されている。女性が鉄分不足になりやすいのは、毎月の生理で出血して鉄分を失っているからだ。

それと同じく、寄生虫感染、特に鉤虫症は異食症の原因となることもある。鉤虫は小腸に寄生し、持続的な消化管出血を引き起こします。その結果、鉄欠乏性貧血が生じ、異食症の症状が現れる。

精神的な病気や脳の病気になると、正常な食行動の制御が困難になって異食症を引き起こすし、栄養失調になると通常では食べないものを食べようとする衝動が生まれる。

上記のどれでもなければ、趣味である。

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習慣化した異食症

私が知り合ってきた女性たちは、どういう理由で異食症になっていたのか、いろいろ考えるのだが、やはりストレスだったのではないかという気がする。歓楽街やリスクの大きい仕事で生きるのはどう考えてもストレスだ。

人間は強いストレスがかかり続けると、やがて精神的に壊れていき異常行動を引き起こすわけで、その発露が異食症であったとしてもおかしくない。

極度のストレスから異食症になるというのは、本来は食べるものではないものを食べることによってストレスから逃れようとしているわけである。それが習慣化すると、その治療は非常に困難になるという。

異食によって脳内の報酬系が活性化され、一種の依存症状態に陥っていくためだ。異食行動が繰り返されるたびに、脳内で快感を感じる神経回路が強化され、その行動をとめられなくなる。

よく見る、爪を噛むのがやめられない人はまさにそうなのだろう。

それが日常生活の一部となり、無意識に落とし込まれるので、気がついたら爪を噛んでいたりする。このような場合、代替となる健康的なストレス解消法や気分転換の方法を見つける必要があるとは言うのだが、なかなか難しいに違いない。

習慣化した異食症の治療には時間と忍耐が必要であり、再発のリスクも高い。

異食症の中には、土だとか砂だとか金属だとか、誰が見ても危ないものを食べるものは、誰でもすぐに専門家の助けが必要だと思うが、「爪を噛む」という軽く感じるものは「自然に治るだろう」と放置されることが多い。

しかし、こうした軽いと感じる異食症も、できるだけ早期に専門家の助言を求め、適切な治療を開始することが重要なようだ。習慣化する前に対処することで、より効果的かつ迅速な回復が期待できる。

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