「向上心」の真逆の言葉は「向下心」となるのだろう。ただ、不思議なことに、向下心という言葉はない。それは、自分を成長させるのではなく、あえて退化させるような人間は存在しないと思われているからなのかもしれない。
だが、私はあえて自分や自分の人生をだめにしてしまう人を大勢見てきたので、「向下心」を持つ人がいると確信している。そして、個人的には、向上心よりも、むしろ「向下心」という言葉のほうに親しみを感じる。
真夜中の世界では、今よりも自分をだめにしてしまおうと考えている人が、たしかに存在する。意図的にアルコールに溺れ、ドラッグを取り、自傷し、リスキーなセックスを繰り返し、今日よりも明日、明日よりも明後日の自分を貶める。そういう、男や女が大勢いた。
私がかかわってきた女性たちの中にも、そうした「あえて自分の人生をだめにしたい」と考えているタイプの女性もいた。
自分や、自分の人生をだめにすることに何か意味があるのだろうか……。
向上心のある普通の人なら疑問に思うかもしれない。キャリアを積み、履歴書に書ける資格を取ったり、勉強をしながら日々向上したり、より良い給料を求めて転職したりする人たちから見ると理解不能かもしれない。
私も最初は、それがわからなかった。しかし、今は「向下心」を持っている人たち、とくに女性たちの気持ちは何となくわかる。彼女たちの心の奥底にある破壊感情や、悲しみや、やるせなさが、長くかかわるようになって、第三者の私も理解できるようになった。
なぜ、向上心を持たないのか。なぜ自分を退化させようとしているのか。それは、ひとことで説明できるのかもしれない。